第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM

プログラムレポート

【B-3】最優秀新進監督特集 ―今泉力哉&三宅唱―

11/18[日] パルテノン多摩小ホール
  • 11:00-12:51
    パンとバスと2度目のハツコイ
  • 13:10-14:56
    きみの鳥はうたえる
  • 15:00-15:40
    トーク
    ゲスト:今泉力哉監督、三宅唱監督

第10回TAMA映画賞で最優秀新進監督賞を受賞した今泉力哉監督と三宅唱監督。今回のプログラムでは受賞作となる『パンとバスと2度目のハツコイ』(今泉力哉監督作品)と『きみの鳥はうたえる』(三宅唱監督作品)を上映し、上映後にはお二人をゲストにお迎えしてトークを開催しました。当日は今泉監督と三宅監督がお互いの作品を観客の皆様と一緒に再度観賞されていたこともあって、上映後のトークでは、作品を観終わった直後の新鮮な感想が飛び交う、ライブ感あふれるものとなりました。今回はその貴重な内容の一端をご紹介いたします。

まず『パンとバスと2度目のハツコイ』について、「チャーミングに彼女の時間に寄り添った映画」と評した三宅監督。前日に開催されたTAMA映画賞授賞式での深川麻衣さん(『パンとバスと2度目のハツコイ』に主演し、最優秀新進女優賞を受賞)とのやり取りを振り返って「昨日は平気で挨拶出来たけど、映画を観た直後だったら目を合わせられなかったと思う」と、ヒロイン・ふみの存在感を魅力の一つとして挙げると、今泉監督は、ふみのキャラクターが生まれるきっかけとなった脚本執筆時の深川さんとのエピソードを披露。弱さやダメなところがキャラクターの中心にあると、登場人物が魅力的に映るということで、俳優たちとの打ち合わせでそのヒントを探すことがあるという今泉監督は、深川さんとの打ち合わせでも、なにかヒントを探そうとしたものの、「どの角度から見ても良い人なので、全然出てこなかった(笑)。そこで逆に、真面目な人・考えすぎちゃう人として、“弱さ”を作っていった」と、創作秘話を明かしてくれました。

「ヒロインが緑内障という設定はどこから出てきたのか」という三宅監督の質問からは、今泉監督による脚本の妙について話題が展開。病気の設定から、徐々に症状が悪化していくストーリーを想像する人もいたとのことですが、「(目が見えなくなるといった)大きな出来事が起きない話でも映画になると思っていて、“孤独”などと同じような日常の要素だった」と語った今泉監督に対して、三宅監督は「日常」というキーワードに反応。毎日欠かさず目薬を差す様子や、パン屋勤務特有の早朝の出勤や明るい時間に仕事を終えてタイムカードを押す様子を、繰り返し描写している点をあげて、「“それをやらなければ駄目になっちゃうかもしれない”ということに支えられている日常に気付かされ、ごく普通の日常がかけがえのないものとして見えてくる構造になっている」と解説。また、パン屋のふみ、バス運転手・たもつのそれぞれの日常=普通の時間や出来事も、相手の立場から見ると、まったく変わったものとして見えることについて、「とてもよく似た人たちの物語に見えるようで、確かに同級生というあるサークルのなかの人間たちの話ではあるのだけれど、それぞれに考え方が違う人たちだから、他人と他人であることがよく分かる。他者がいることで立ち上がるドラマがある」と、作品の魅力を語っていただきました。

話題は『きみの鳥はうたえる』に。「言葉じゃないところで泣いてしまう映画だった」と今泉監督は本作の感想を語ると、言葉が欲しい瞬間と、言葉が必要でない瞬間とのあいだでの、登場人物それぞれの振る舞いや距離感で、男女の機微を繊細に描いている作品だったとして「あの距離感を描けるようになりたいと思った」と評価。三宅監督は「今回はあの3人(柄本佑さん、石橋静河さん、染谷将太さん)が揃ったから、物語がどうとか、場所がどうとかでなく、何より3人がしっかり写っていれば良い映画になるだろうと賭けたところがある。そのなかで場所や部屋も絶対に立ち上がってくるだろうと思って、とにかく“人”から出発しようと考えていた」と、本作を彩った俳優たちへの信頼を語っていただきました。

また、「あの恋愛を理詰めで論理立てて撮るわけにはいかないなという気がしていた」と、制作時に考えていたことについて思い出しながら、「理詰めで作るのも映画だけれど、その手前にあるもっと名付けられないものに留まろうとしている人たちの話でもあるから、どこかで一度考えることを放棄したというか、感じるままにやっていこう。それで、ほんの少しずつ、その場その場で調整していこうと作ってました」と語り、『きみの鳥はうたえる』で描かれた、みずみずしい瞬間がどのように生まれたかを明かしてくれました。

いままでほとんど恋愛映画を撮ってこなかったという三宅監督ですが、今回その体験について「クランクインして前半、恋愛を撮るのはすごく楽しいなと思ってたんです。ただ現場の後半になって、初めて恋愛したやつみたいに”恋愛って大変。”って思って(笑)。それで最後にはなんか寂しくなっちゃった」と、今回の恋愛映画づくりの体験について告白。「今泉さんもそういうのあるんですか?」と、これまで多くの恋愛群像劇を手がけてきた質問すると、今泉監督は「わかんない(笑)。自分の映画ではみんな恋愛がうまく行かなくて、幸せ時間が少ないから(笑)」と答えて場内を沸かせていました。

リラックスしたムードで進んだトーク終盤には、作品ラストのその後、登場人物たちはどうなるのかを、お互いに想像してみるという貴重な展開に。『きみの鳥はうたえる』のその後の彼らの行方について、今泉監督が即興で答えた見事な考察には、会場から拍手が沸き起こっていました。他にも、制作時の工夫や裏話を存分に語っていただいた密度の濃いあっという間の40分でした。監督同士がお互いの作品について語る様子は、監督が答えるという点において、今観たばかりの作品の本質が明らかになっていくスリルを味わわせてもらい、監督が質問するという点において、観客として映画と出会う喜びを体現して見せてもらったような感覚もあり、とても楽しい時間となりました。これからも今泉力哉監督と三宅唱監督お二人の作品に注目して行きたいと思います。

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