『希望のかなた』上映関連企画

『希望のかなた』とあわせて観たいおすすめ映画12選

date : 2018/03/25

TAMA映画フォーラム実行委員会は2018年4月7日(土)に開催する特別上映会において、『希望のかなた』(アキ・カウリスマキ監督)を上映します。今回の特集では『希望のかなた』に関連したテーマなどをキーワードに、実行委員が選んだおすすめ映画12作品を紹介いたします。

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アキ・カウリスマキ監督から広がる世界

『浮き雲』

(監督:アキ・カウリスマキ/原題:Kauas pilvet karkaavat/1996年/96分/フィンランド)

中年の夫婦が不況のなかで失業し、色々な目に遭いながらも、もう一度人生を立て直すというストーリー。ただし、そこは、カウリスマキ監督作品であり、一筋縄ではいかない独特のユーモアで描かれている。この作品の背景は「レストラン」だが、カウリスマキ作品には数々の印象的な食事のシーンがある。『コントラクトキラー』の孤独な男の食事、『過去のない男』の記憶喪失の男が提供されたスープ、『ル・アーブルの靴みがき』の靴磨きのお弁当。「食べて、飲んで、歌う」が彼の作品に頻繁に出てくるのは、酔いどれのカウリスマキ監督にとっても、これらが生きる糧といえるからかもしれない。「Motto Wasabi!」――。ちなみに『浮き雲』は、初期から出演してきた「カウリスマキ作品の顔」ともいえる、若くして亡くなったマッティ・ペロンパーに捧げられている。(彰)

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』

(監督:ジム・ジャームッシュ/原題:Stranger than paradise/1984年/90分/アメリカ、西ドイツ)

NYに住むウィリーのもとにブダペストから従姉妹のエヴァがやって来る。ウィリーの部屋、クリーブランドの叔母の家、フロリダのモーテルの3部からなる映画で、大したことは起こらない。モノクロで1ショット1シーン、そして黒味。この繰り返しで撮られている。途中、競馬の話で馬の名前を挙げていくといつの間にか、晩春、出来ごころ、東京物語と小津の映画の題名に。デッドパン映画でもある。さらにインタヴューでジャームッシュは、第1に僕は出世を目指している人の映画を撮ることに興味がなく、僕のどの映画にもテーマとしてあるのが出世主義の外側にいる人たちなんだ、と言っている。そして彼はカウリスマキ作品に顔を出している。本作は彼の初期のもので、最新作は『パターソン』である。(小)

フィンランドに思いをはせて

『ファブリックの女王』

(監督:ヨールン・ドンネル/原題:Armi elää!/2015年/85分/フィンランド)

フィンランド、マリメッコ創業者のアルミ・ラティア。女性をレースやコルセットから解放し、新しい時代のライフスタイルを提案することに生涯情熱を注いだ人。何度も襲い掛かる破産や家族の危機。舞台劇でアルミを演じる女優マリアの俯瞰的視点でアルミの人生を浮き彫りにしていく。劇中では当時の再現というよりアルミの時代と現在のデザイナーの新旧マリメッコデザインもみどころ。マリメッコのデザインの鮮烈な色やアルミの激情と、フィンランドの冷たい風景や映画全体の寒々しい感触のコントラストが不思議な映画。映画の共同配給は今回の特別上映会ゲスト・森下詩子が主宰するkinologue。(小)

『かもめ食堂』

(監督:荻上直子/2005年/102分/日本)

ヘルシンキに日本人女性がオープンした食堂を舞台に描く、「日本における北欧ブームの火付け役となった」と評される映画。おいしそうな料理の数々が登場するのもポイントだろう。小林聡美・片桐はいり・もたいまさこのトリオが、とにかく強く印象に残る。あらためて観なおすと「やりたくないことはやらないだけなんです」(小林演じるサチエ)、「でもやっぱり、悲しい人は悲しいんですね」(片桐演じるミドリ)、「地球は一つ」(ガッチャマンの歌)などの言葉が不思議と心に残った。カウリスマキ監督作『過去のない男』主演のマルック・ペルトラが登場するシーンにも注目だ。(渉)

映画を通して知る移民・難民の現実

『地中海』

(監督:ジョナス・カルピニャーノ/原題:Mediterranea/2015年/107分/イタリア、フランス、アメリカ、ドイツ、カタール)

アフリカ・ブルキナファソの青年2人は、より良い生活を求めてヨーロッパに向かう。命を賭けてボートで地中海を渡り、イタリア南部にたどり着くことに成功するが、待ち受けていたのは夢見ていたものとは異なる厳しい現実だった……。撮影場所近くに数年住み込んで構想を練り、移民という問題にリアルな演出で迫るのは、これが長編デビュー作のNY出身のカルピニャーノ監督で、カンヌ国際映画祭2015批評家週間に出品されたのをはじめ各国で多くの賞を受けた。日本ではイタリア映画祭2016で上映、イタリア映画祭2018にて新作が上映されることを受け、本年5月4日に1回のみのアンコール上映がある。(ふ)

『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』

(監督:フィリップ・ファラルドー/原題:The Good Lie/2014年/110分/アメリカ)

スーダンの内戦で両親と家を失った戦争孤児”ロストボーイズ”を全米各地へ移住させるという実際におこなわれた計画を元にしたヒューマンドラマ。『ぼくたちのムッシュ・ラザール』でアカデミー外国語映画賞にノミネートされたフィリップ・ファラルドー監督作品。アメリカへ移住して異なる文化に戸惑いつつも、懸命に働き勉強するロストボーイズ。初めは関心を持っていなかった職業紹介所のキャリーだったが、成長を見守るうちに友情が芽生え、彼らのためにある決心をする。難民問題だけでなく家族の絆や友情について深く考えさせられる作品。(櫻)

“受け容れる”ということ

『バグダッド・カフェ』

(監督:パーシー・アドロン/原題:Out of Rosenheim/1987年/91分/西ドイツ)

アメリカ、テキサス。砂漠の中のさびれたモーテル「バグダッド・カフェ」に、大柄なドイツ人女性が一人やって来る。いつも不機嫌な黒人の女主人は彼女を怪訝な顔で迎える。この二人が、女主人の家族やモーテルの常連客たちを巻き込みながら、お互いの穴を埋めていく物語だ。異邦人であるドイツ人女性がもたらすものは衝突、混乱であり、共感やお互いをいたわる気持ちである。一人の異質な人間によってコミュニティの雰囲気が変わり、やがてその異質さが一つの大事なピースとして溶け込んでいく軌跡を見られる。また、画の美しさも見どころである。ドイツ人女性が梯子にまたがりガスタンクを掃除する有名なシーンは絵画のように感じられる。カウリスマキ監督も画づくりに定評がある監督で、『希望のかなた』でも研ぎ澄まされた配色、構図の美しさに注目してほしい。(N.O.)

『パディントン』『パディントン2』

(監督:ポール・キング/原題:Paddington/2015年/95分/イギリス)
(監督:ポール・キング/原題:Paddington2/2017年/104分/イギリス、フランス)

はじめは可愛らしい子ども映画と思っていたのだが、難民映画という視点で観ると、そうとしか思えないくらい裏テーマとして「異質なものとの共存」が据えられている。大人が見ても考えさせられる映画だ。子グマのパディントンは“暗黒の地ペルー”から、ロンドンは素敵な街だと信じて疑わず、たった一人で“密入国”する。首には叔母クマがつくった「このクマをよろしく」の札をかけて。しかしパディントンを待ち受けていたのは想像とは異なるロンドンの人々、社会であった。拒絶されたり危険な目にあったりしながらも、正しく行動しようとするパディントンが人々に受け入れられていく様子からは「異質なもの」とそれを受け入れる側の両方の気持ちがすっと入ってきて、難民問題の本質が垣間見えるような気がする。(N.O.)

『シェイプ・オブ・ウォーター』

(監督:ギレルモ・デル・トロ/原題:The Shape of Water/2017/123分/アメリカ)

冷戦時代のアメリカ。トラウマで言葉を話せないイライザは、清掃員をしていた政府の研究所で出会った不思議な生物と心を通わせていくが……。『希望のかなた』では家庭と事業に失敗した老紳士がシリア難民の青年に共感して手を差し伸べるが、こちらではトラウマを抱える女性が暴力にさらされる異形の存在に共感し、恋に落ちる。どちらも共感と行動が物語のキーポイントとなっており、またどちらも海のある町が舞台という点も共通している。ゆらめいて不確かな水面をのぞきこみ、かなたに思いをめぐらせることが他者との共生の第一歩なのだろう。(理)

『羊の木』

(監督:吉田大八/2018年/126分/日本)

さびれた港町・魚深(うおぶか)にそれぞれ移住してきた6人の男女。市役所職員の月末(つきすえ)は彼らの受け入れを命じられたが、なんと彼らは全員元殺人犯だった……。漫画家の山上たつひこが原作を担当し、同じく漫画家のいがらしみきおが作画した同名コミックを『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督が映画化。元殺人犯だとは知らずに素っ気なくも暖かく迎え入れる市民とは対照的に、素性を知っている月末は不安を隠せなかったが、不器用ながらも人生をやり直そうとしている宮腰と次第に友情を深めていく。人は変われるのか? 受け入れた先に未来はあるのか? 観る者に大きな問いを投げかけるヒューマンサスペンスである。(櫻)

社会に目を凝らして

『ローマ法王になる日まで』

(監督:ダニエレ・ルケッティ/原題:Chiamatemi Francesco - Il Papa della gente/2015年/113分/イタリア)

タイトルにあるように現ローマ法王であるフランシスコのその座に就くまでの半生を実話を基に描いた作品。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで生まれた彼はやがて神職を天職と見つけイエズス会に入会する。しかし、当時のアルゼンチンは軍事独裁政権下にあった。彼は仲間と共に圧政へ抵抗しようとするが、弾圧は厳しく多くの命が失われていく。やがて政権は終わりを告げるものの、彼はなお失意の底にあった。そんななか、ドイツに渡った彼はかの地で1つの邂逅を果たす。時や場所は違えど今も世界中にはびこる権力による理不尽な暴力――それに対してフランシスコはどう向き合い、乗り越えたのかを感じてほしい。(中)

『十年』

(監督:クォック・ジョン、ウォン・フェイパン、ジェボンズ・アウ、キウィ・チョウ、ン・ガーリョン/2015年/108分/香港)

2025年の香港を舞台に、5人の若手監督による5つのショート・ストーリーから成るオムニバス作品。返還から20年を経た香港は、当初の期待に反してディストピアと化していた。労働節の集会に混乱をきたすよう依頼されたチンピラたち。失われてゆくものを標本化し続ける男女。方言を捨て標準語を取得せざるをえなくなったタクシー運転手。恋人の身に起きた事件の真相を追う青年。最後となってしまった地元産の卵を売る店員。それは内乱やテロといったいわゆる無秩序状態ではない。であるがゆえにややもすると軽視されがちではないだろうか。とりわけ、ひとまずの平和を謳歌している者たちにとっては。(中)

『希望のかなた』の上映に寄せて

出会わなければ始まらなかった物語を、丁寧に生きていきたいものである。

ユーロスペースで本作を観て数週間後に浮かんだのは“It's a small world”(小さな世界)のメロディであった。グレートで偉大な国家観・世界観がニュースのヘッドラインを日々にぎやかしているいま、小さな世界の住人として何を大切にするべきだろうか? 想像を掻き立てる本作の、静かながらも力強い意志をぜひ多くの方々に感じ取っていただきたいと思う。(一方でグローバリズムがもたらす課題も多いが、それらを後回しにせざるを得ないような現在の状況なのではないだろうか?)

カウリスマキ監督らしい演出で、時おり微笑ましく(もしかすると吹いてしまうくらいかも)。音楽、サビがよく効いている。映像のトーンも、どちらかというと寓話的な雰囲気。(渉)