映画ファンの立場から観客に活力を与えてくれるいきのいい作品・監督・俳優をいち早く紹介したいとの想いで立ち上げたTAMA映画賞も5回目を迎えました。本年も日本映画を代表する、そしてこれから背負って立つ素晴らしい方々にお越しいただけることになりました。ごゆるりとお楽しみください。
Lコード:38150
玄武書房の営業部に勤める馬締光也(松田)は変人扱いされていたが、ひょんなことから辞書編集部として「大渡海(だいとかい)」を編纂することになった。個性的な辞書編集部の面々に囲まれながら辞書づくりに没頭する馬締の成長の姿が描かれている。
数えきれないほど溢れている言葉を海に例え、言葉の海のなかから自分の気持ちを正確に伝えられる言葉を掴もうとするのが辞書。タイトルの「舟」は辞書、「編む」は編集するという意味がある。「舟を編む」つまりこの作品は辞書を編集する人たちの物語だ。
何か調べものがあるとき、スマートフォン1つちょっと触るだけで調べることができるこの時代。ちょっと古臭くドシっと重みがある辞書の、あの紙の触感を忘れかけていた。作中でファッション誌から配属されてきたばかりの岸部(黒木)のあの衝動と葛藤は観客誰もが共感できる。
現代人の毎日忙しく何かしらに追われていた心には、マジメが故のおもしろさは思わず声を出して笑ってしまう。笑わせようとするものではなく、マジメだからこそ笑えるものがある。そして内に秘めていた思いや情熱を表現する主人公の成長する姿に思わず目頭が熱くなる。
帰り道には、「右」という言葉を自分なりに説明してみたくなる作品だ。(林)
1987年。大学進学の為、田舎から東京に出てきた世之介(高良)。大学入学を期に世之介と出会いを果たす倉持(池松)、加藤裕介(綾野)、憧れのお姉さんである千晴(伊藤)、後に恋人となる祥子(吉高)。そんな1年という時間を通して世之介との時間を共有した友人や恋人が16年後に世之介との時間を振り返り……。
最初、世之介のインパクトが強すぎてびっくりした。ギラギラと照りつけるお日様という例えがまさに合っているしサンバ同好会のお日様のかぶりものをしている世之介がまさに最初に受けた印象をしっかりと現しているように思う。イケメン枠の高良健吾をしっかりと覆してくれた。そんなギラギラ照りつける太陽から、吉高演じる祥子お嬢様の自由でおおらかなペースに巻き込まれてあたたかい春の陽射しに変化していく様も見どころだろう。世之介というお日様を中心にさまざまなピースを照らし、繋がりを見せ、温かい物語となっている。
そして温かい物語を上手く壊さないよう大事に大事にしている監督の温かい眼差し、手腕にも感動を覚えた。それは世之介と祥子の数々の感動的なそして“奇跡”ともよべるシーンが象徴しているだろう。詳しくは映画を観て欲しいのだが、クリスマスにクラッカーを鳴らすシーンは鳥肌が立った。高良と吉高の信頼関係、演じる上で大事にしているものが見せてくれた産物だろうと思う。
この二人の可愛く、くすぐったくなる物語をずっと観ていたいと祈るような気持ちになったのは言うまでもない。(佑)
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※この作品は15歳未満の方のご鑑賞はできません
緑豊かな渓谷の近くにひっそりと住む尾崎俊介(大西)と妻・かなこ(真木)。幼児殺害事件が起こり隣家の主婦が逮捕され、やがて彼女は俊介と不倫関係にあると証言。かなこもそれを認める証言をする。事件に張り付いていた週刊誌記者の渡辺(大森)は俊介の過去を洗い始め15年前のある事件に行き着く――。
公開初日初回、有楽町の劇場で観た私は、エンドロールが終わると同時に幸せなため息をついた。今、この世にこの作品が出てくれたことが嬉しくてたまらなかった。
本作は集団レイプ事件の被害者と加害者の1人が夫婦のように連れ添うことが核になっている。私は女性ゆえ、かなこ側に思いが強くなってしまいがちだが、男性の苦悩はいかばかりかと思った。彼女の元夫や俊介は、自身あるいは同性の他者の加虐により被虐を味わっているのだから。加虐と被虐の連鎖、苦しみを本作は静かに丁寧に描いている。
恐らく人は、どこかでいつか赦さなければ自己を解放できず先へ進めないと思う。かなこと俊介はそのことに誠実に苦悩し苦闘する。けれど彼らは孤絶していない。渡辺など他者からの思わぬ言動により、ふと次へと歩を進められるのだ。
「極限の愛の形」と本作はよく言われる。けれど、極限ではあっても特殊ではないと私は思う。日常のごくフツーの友人関係から古今東西の様々な事柄・事象が、かなこと俊介の関係に凝縮されてはいないだろうか。二人のような関係を持てることの尊さ、築けるだけの優しさや逞しさを人間は持ち合わせている、可能性や希望があると本作は示唆してくれていると思う。(越)
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