11月26日(水)ベルブホール 第1部
『おかあさん』は、1952年(昭和27年)に公開された。60年以上も前になる。今からみればとても古い物語といえるかもしれない。敗戦後の東京を舞台としたこの作品を現代の人々はどう受けとめるのだろう。
『おかあさん』という作品は、当時全国の小学生から募集した作文をもとに、水木洋子さんが脚本化したものである。クリーニング店を再開し必死に働く母親(田中)の姿を18歳の長女(香川)の目を通して描くという構成になっている。その長女も家計を支えるために懸命に働いている。こういった日常生活をたんたんと描く。
成瀬巳喜男という監督は、日々の日常生活のなかの女性を、エピソードを組み立てながら描くという手法をとっている。余計なことは描かない。ただひたすら日常の生活をすくいとっていく。
「お母さん。私の大好きなお母さん。いつまでも、いつまでも生きてください。お母さん」という言葉で終わるこの作品は、この年のキネマ旬報ベストテン7位。若かった私にとって成瀬巳喜男は、日常のリアリズムを描きながら毎年ベストテンに顔を出すすごい監督だった。(水)
成瀬巳喜男監督の遺作ということで心して観た。言葉に出すことと出さないことの対比が美しく、抒情的な音楽と田沢湖の風景が印象深い映画だった。
幸せな家庭を築いていた由美子(司)は、三島(加山)が起こした交通事故で夫を亡くしてしまう。その二人がやがて惹かれあうことになる。
ただその過程は対照的だった。三島は贖罪の気持ちから補償を試み、軽薄にも聞こえる言葉を由美子へ投げかける。由美子の表情はとてもつらそうで、頑なに三島を拒み続ける。それでも、三島は肉食とはこのことかとグイグイと押しまくる。
三島をただの能天気野郎と見る向きもあるだろう。しかし、深い傷を与えてしまった由美子と向き合い、そこにいても仕方ない、乗り越えようと声をかけ続けるのは、三島なりの誠実さなのだと思う。
もしかすると、三島の行動は独りよがりなのかもしれない。それでも自分なりの誠実さもいつか相手に通じるのだ。劇中、一度は固く握った手と手は解けてしまうが、たとえその恋が実らなかったとしても、二人は悔いなく前へ進めるのではないか。(遠)
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