11月27日(木)ベルブホール 第1部
『めし』は夫婦の倦怠期と日常の不満というありきたりなテーマを描いているが、登場人物の表情が非常に魅力的で単純な物語に深みをあたえている。例えば笑顔にしても、里子(島崎)の漫画のようなおおげさな笑顔と三千代(原)の哀愁帯びたふくみ笑いを見比べるとふたりの女の生き方やものの考え方がまったく異質なものであることがわかる。そのふたりの間に立つ初之輔(上原)が自己主張をしない男性特有のぼんやりした表情をしているのも面白い。
女の幸せが多様化している現代からみれば三千代の選択はなんだか物足りなく感じてしまうけれど、退屈で味気ない日常でもそれを失うと人は心のよりどころを無くして不安定になってしまうくらい、実は強烈なものなのだと私たちに示しているように思える。人はいつか日常に帰らなくてはならないのだ、と。
しかしなんといっても映画のラスト、汽車のなかで三千代がみせる、ふっきれたようなすがすがしい笑顔は未来への希望を感じさせ、何といっても美しい。女はいつの時代だって美しくあるべきなのだ。(藤)
林芙美子原作の長編小説の映画化。戦時中、タイピストとしてインドシナに派遣されたゆき子(高峰)は、農林省の技師である富岡(森)と出会う。富岡には妻があったが二人は愛し合い、戦後もその関係を続ける。富岡の煮え切らない態度にゆき子は米兵とも関係を持つようになるが、富岡との間を断ち切ることもできずとめどなく深みにはまってゆく。
何度裏切られても離れられない女と、複数と関係を持ちながら一人として責任を取ろうとしない男。他者から見れば呆れてしまうような二人の関係であるが、互いにそれは承知の上で依存し合っているのである。この二人の間にある情とは何なのだろうか。愛情だけではない。憎しみや悲しみや苦しみも混ざり合い、理屈では語り切れないようなものがそこにはあるように感じた。
敗戦直後の日本が舞台であり、終始重く暗い雰囲気が漂う本作であるが、それゆえに主演の二人の美しさが際立っている。高峰秀子の欲望や嫉妬をむき出しにしながらも優艶な演技、森雅之の二枚目ながらどこか陰のある佇まいにぜひ注目してほしい。(小)
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