11月23日(日)ベルブホール 第3部
高校時代の同級生であった由香里(松岡)と偶然再会した綾子(梅野)は、由香里を自身が勤める会社に誘い、二人は上司と部下として同じ会社で働き始める。しかし、綾子はしだいに奇妙な態度をとりはじめ、二人の関係は思わぬ方向へ動き始める。
動かないカメラ、画面をフェードアウトする登場人物、それでもシーンは続き、見ることのできない場所で起きている出来事に観客は神経をとがらせる。見えなくても確かに感じる息づかいと、作品中に存在感を放つ間(ま)に想像力を掻き立てられ、ラストシーンを迎えるまで、私たちは緻密に仕組まれた不穏な空気のなかで、スクリーンから気をそらすことができない。
この映画を観終わった後、放心状態になって渋谷の街を歩いたのを覚えている。一切の説明を排除しながらも登場人物の心情を丁寧に描き出す表現力は繊細そのものであるが、この映画には確かな意志と観客の心を揺さぶる力強さがある。坂本あゆみ監督は、映画を撮る理由の一つを「罪悪感」という言葉で表現しているが、この作品が持つパワーはその「罪悪感」にあるのではないだろうか。人間の罪とは何なのか。観客を追いつめるまでにその命題に向き合う坂本監督の姿勢には、恐ろしさを感じるとともに、未来への期待を抱かずにはいられないだろう。(尾)
ゲスト:塚本晋也監督、坂本あゆみ監督
1960年生まれ、東京都出身。『電柱小僧の冒険』 (87年)で、PFFアワードを受賞。初の劇場映画『鉄男』(89年)で、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。主な作品に、『東京フィスト』(95年)『バレット・バレエ』(98年)『双生児』(99年)『六月の蛇』(2002年)『ヴィタール』(04年)『悪夢探偵』(06年)『KOTOKO』(12年)など。国内外で数多くの受賞歴を持つ。最新作は15年公開予定の『野火』。個性派俳優としても有名で、世界の名だたる映像作家が「塚本フリーク」を公言している
1981年生まれ、熊本県出身。高校卒業後、映画監督を目指し上京。塚本晋也監督の作品に多数参加し、演出・撮影・照明技術を学ぶ。その後、照明技師となり、様々な作品の光演出を手掛ける。現在、映像作家として、ミュージックビデオや、ライブ、インスタレーションなどの映像を演出する。長編初監督作品『FORMA』が国内外で数々の賞に輝く。
『FORMA』上映に続き、本作監督の坂本あゆみ監督と塚本晋也監督をお迎えしてのトークとなりました。 映画監督を目指して上京した坂本監督は、塚本組現場でスタッフとして働くなかで得たものが大きかったと、当時を振り返りながら熱く語りました。創造力や発想力が試される刺激的な現場であったようです。塚本監督は終始目を細めて、優しい笑顔で坂本監督に応えていました。
二人の作風は全く違いますが、深遠なテーマを扱いつつもエンタテインメント性も忘れない、そんな映画作りの姿勢には共通する精神を感じます。お互いを尊重し合う、誠実なお人柄も伝わるトークでした。
最後には塚本監督自らが用意された花束を渡して第6回TAMA映画賞最優秀新進監督賞受賞を称え、会場は温かい拍手に包まれました。
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