11月29日(土)パルテノン多摩 小ホール 第2部
※この作品は15歳未満の方のご鑑賞はできません
仕事を辞めブラブラと過ごしていた達夫(綾野)は、粗暴だが人懐こい青年・拓児(菅田)とパチンコ屋で知り合う。ついて来るよう案内された先には、寝たきりの父、その世話に追われる母、水商売で一家を支える姉の千夏(池脇)がいた。達夫は千夏に惹かれていく。しかしそんな時、事件が起こり……。
ただただ暗いのではなく、出口のない憤りのない暗さに包まれ、絶望や終わりと言う言葉が思い浮かぶ。そんな作品ではあるが、何度でも観たくなってしまう。
決して万人受けするような作品ではないかもしれないが、必ず万人の心に残る作品なのではないかと思う。200%、心を揺さぶられる。
函館のどんよりした空が映画全体の雰囲気を引き立て、そんなひとつひとつのシーンの美しさも見所。そして何より、池脇千鶴の体当たりの演技がすごくいい。安易な表現になってしまうが、本当にいい。「ちーちゃん」にはこれまでどこかあどけなさや可愛らしさが垣間見えていたが、本作では完全に女優「池脇千鶴」になっている。
そんな池脇千鶴や彼女を取り巻く綾野剛、菅田将暉にも惹き付けられる。それぞれが不幸を背負い、そこのみ(底辺)でうつろに生きている。そこから這い上がるわけでも下がるわけでもなく、同じ場所を漂っている。そんな負の連鎖や閉塞感のなかで、最後に見える一筋の底光りの愛がなんだかすごく温かくて切ない。9割が絶望ではあるものの、1割の希望が優しく温かい気持ちにしてくれる。(中暢)
ゲスト:呉美保監督
1977年生まれ、三重県出身。大阪芸術大学卒業後、大林宣彦監督事務所PSCに入社。2005年初の長編脚本『酒井家のしあわせ』がサンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門を受賞。翌年同作品で長編映画監督デビュー。10年『オカンの嫁入り』で新人監督賞・新藤兼人賞の金賞を受賞。14年『そこのみにて光輝く』で、第38回モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞を受賞。最新作『きみはいい子』が15年全国公開予定。
海に囲まれた海炭市では造船所が縮小し、解雇された兄と妹はなけなしの小銭を握りしめ、初日の出を見るために山に登る。立ち退きを迫られるが猫と暮らす老婆、妻に疑惑をもつプラネタリウム職員、新事業が報われず家庭に問題を抱えるガス屋の若社長などの市井の人々のある冬の出来事。多くの人生を乗せて路面電車は走り、雪は降り積もる。
「そこは終わりの始まり」という生き様の作家・佐藤泰志の故郷・函館をモデルにした海炭市で、ひたむきに生きる人を低い視点でありのままにとらえている。
鉛色の空の下、寂れた地方の生活者は問題を抱えている。日常から逃れられず、劇的に解決することもなく、毎日をやり過ごすことしかできない。どうにもならず足踏みしても必死に抗っても、皆と同じように時は流れ、山は街をみつめ、海は波をぶつける。
函館市民の協力により撮影された本作は、普段、ニュースで語られる出来事が私と地続きで繋がっていることを感じさせる。私たちは自分には関係ないと想像しないことに慣れてしまったのかもしれない。遠い世界であっても、慎ましく暮らす人がいる。その街にいる人の暮らしが丁寧に紡がれている。日々の積み重ね、それぞれに物語があるのだ。人は関係性で成り立ち、面倒なこともあるけれど、迷い傷つきながらも生きていくしかない。
今後、「きみの鳥はうたえる」などが映画化され、閉塞した現代に再発見された佐藤泰志の世界が広がることを願っています。(内)
『そこのみにて光輝く』でモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞した呉美保監督にトークにご登壇いただきました。男性視点で描かれた作品なので監督のオファーがあった時驚いたこと、綾野剛さん、池脇千鶴さん、菅田将暉さんの役作りや現場での様子や舞台になった函館のお話など短い時間に盛りだくさんのお話をしてくださりました。
北海道出身のお客様から北海道弁がリアルで素晴らしいという称賛の声もあり、「次回作を小樽で撮影しました」(来年初夏公開、高良健吾さん、尾野真千子さん主演の『きみはいい子』)と更に楽しみなお話も伺えて和やかなうちにトークが終了しました。
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