11月23日(日)パルテノン多摩 小ホール 第1部
THE GRAND BUDAPEST HOTEL
ヨーロッパ最高峰のグランド・ブダペスト・ホテル。宿泊客のお目当ては“伝説のコンシェルジュ”のグスタヴ・H(R・ファインズ)。マダムの夜のお相手までも完璧にこなす彼の人生は、懇意にしていた伯爵夫人(T・スウィントン)が殺されたことで一変する。自らの潔白とホテルの威信をかけて、愛弟子のベルボーイ(T・レヴォロリ)と大戦前夜のヨーロッパ大陸を飛び回るのだが……。
綿密に計算された映像、細部までこだわったセット、完成度の高いストーリー……。近年、商業主義が嘆かれるハリウッドにおいて、「奇才」と呼ばれるウェス・アンダーソン監督の風変わりでアーティスティックな作品はひときわ異彩を放っている。「現実」と「非現実」が絶妙にアレンジされた彼独特の世界観は、観る者をいつのまにか絵本の世界に誘う不思議な魔法のようで、中毒性を秘めた魅力が本作品にも溢れている。
また、第二次世界大戦という舞台設定や、CG全盛の現代に挑戦するようなノスタルジックな表現技法など、物語の背景に込められた深いメッセージを読み解くのもの楽しみのひとつ。R・ファインズ、J・ロウ、B・マーレイなど、超豪華な出演陣が届けるポップでコミカルなストーリーに、ほろ苦い悲しさがブレンドされる……。
エンドロールまで楽しめる本作品は、間違いなく本年の代表作だ。(奥)
INSIDE LLEWYN DAVIS
1961年、NYのグリニッジ・ヴィレッジ。フォークシンガーのルーウィン・デイヴィス(O・アイザック)は知人の家を泊まり歩く日々を送り、音楽で食べていくことを諦めかけていた。そこへ、女友達のジーン・バーキー(C・マリガン)から妊娠を告げられ、別の知り合いから預かる羽目になった猫に逃げられるなど事件が続発。そんななか、彼は自らの進路を探るように旅へ出る。
コーエン兄弟の最新作は、ボブ・ディランが憧れたという伝説的なフォークシンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録にインスパイアされた物語。主演のO・アイザックをはじめ、キャストが全身で表現する音楽が身に沁みる。全体として落ち着いたトーンのなか、巧みな脚本と演出で面白く観ることができる傑作。
ミュージシャンとして素直に生きるには辛い出来事や境遇に悪戦苦闘するルーウィン。レコードセールスが振るわないなか、妥協せずに独自の世界観で皮肉を交えて歌い続ける彼の姿を観ていると、「何とかなる。お互い様さ」と肩をポンと叩かれたような気持ちになる。
人びとの営みの積み重ねによって時代・シーンが生まれ、その連なりのなかで変化が起きていく。20世紀を歴史として受け継ぐことが大きな課題になりつつある今、本作が秘めているメッセージはより深く拡がりをもったものとして感じられる。(渉)
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