佐藤浩市と樋口可南子が演じる年月を重ねた夫婦の姿が魅力的で、夫がひとつひとつ石を積み重ねていく姿に胸を打たれます。一方、生き方を手探りしながらひたむきに生きていこうと心を通わせる野村周平と杉咲花が演じる若手カップルも知らず知らずのうちに応援したくなります。
篤史(佐藤)と良子(樋口)の夫婦は、豊かな老後を求めて北海道に移住してきた。野菜作りなどを満喫する良子は、暇を持て余す篤史に家を囲む石塀作りを頼むが――。手伝いに来る徹(野村)や彼の恋人・紗英(杉咲)との交流、長く疎遠だった娘(北川)との再会を経て篤史はまた力を取り戻していく。
日々の生活は何かを「積む」連続と思う。それは時にはシジフォスの神話のように、一見無為にも無駄にも思えるが、その行為によって心の糧が得られることもあろう。
北海道の果てしなく広く美しい自然のなかで本作の初老の夫婦はそれぞれ「積む」。妻に言われて夫は石を、妻は夫の心に「積んで」いく。彼らの姿に、観客は自分の人生や生活を思い合わせ、では自分にとって「積む」とは?とふと考えるのではないだろうか。
佐藤浩市・樋口可南子という二人の名優が本作の軸だ。懐深く、穏やかに演ずる。流石としか言いようがない。彼らの演じる夫婦に寄り添い、その生活にさまざまな変化を与えるのが二人の若き俳優・野村周平と杉咲花だ。本作において二人の名優に相対し、誠実に演じた彼らはきっと、名優二人の「積む」姿を間近で体感し吸収でき、心の中に何かが「積まれた」ことと思う。彼らの今後の大きな飛躍と成長を予感させる一作である。(越)
1993年生まれ、兵庫県出身。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの「マネジメント」を読んだら』(2011年)で映画デビュー。主な出演作に、『天国からのエール』(11年)、『江ノ島プリズム』『男子高校生の日常』(13年)などがあり、14年公開の『パズル』『クジラのいた夏』『日々ロック』では主演を務めている。本年は『ビリギャル』『愛を積むひと』『ライチ☆光クラブ』などに出演。16年には『ちはやふる』の公開が控えている。
1997年生まれ、東京都出身。2012年『桜蘭高校ホスト部』の映画デビュー後、『映画 妖怪人間ベム』(12年)、『思い出のマーニー』(14年/声の出演)、『イン・ザ・ヒーロー』(14年)などに出演、「日経トレンディ2015年の顔」にも選ばれる。本年は『繕い裁つ人』、『トイレのピエタ』、『愛を積むひと』、劇場版『MOZU』に出演。16年には『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』『湯を沸かすほどの熱い愛』の公開が控えている。