少年少女たちが過ごす夏の時間に流れるきらめきは、大人になった私たちの胸を締めつけ、その時が過ぎたあとも、かすかな輝きをはなちつづけます。アメリカ・ブラジルの注目若手監督による夏のティーンムービー特集。劇場未公開の2作品をお送りします。
デトロイト郊外。新学期を前にした夏の終わりに、小さな町ではいくつものスリープオーバー(お泊まり会)が開かれる。新学期から高校に上がるマギーとベスは楽しい何かを求め夜の街をさまよい、転校生のクラウディアは高校の派手な女子が集まるスリープオーバーへ。スーパー・マーケットで出会った少女を探し続けるロブと、忘れられない双子の姉妹を探して、大学の新入生お泊り会に忍び込むスコット。夏の終わりの若者たちがあざやかに描かれる一夜の群像劇。
夏休みの終わりのスリープオーバー、お泊まり会。新学期の前に許された最後の自由な夜をただよう若者たちにはそれぞれの物語がある。その夜には、夏が終わっていくさびしさと、新しい人生の始まりへの期待が交錯し、アメリカ北部のデトロイトの涼しげな夜の空気は、その複雑さを映している。
若者たちは多くの言葉を語らないが、その視線にはまだ何者でもない彼らのなかに確かに存在する思いが表れる。心にわき上がる思いが何であるのか、そんなことはまだわからない彼らだが、夏の夜をさまよい、誰かと出会い視線を交わすなかで、この瞬間がいつか過ぎ去ることに気付いていく。ウォータースライダーを滑り落ちた先には朝が待っている。しかし少女は、その途中で立ち止まるのだ。期待を喪失する前に、その夜の夢のような瞬間を確かめるように。(尾)
視覚障害を持つレオナルド(ロボ)。クラスの悪ガキにからかわれたりもするがごく普通の若者である。幼なじみのジョバンナ(アモリン)は、そんな目の見えない彼をいつも支えていた。ある日、クラスに転校生のガブリエル(アウディ)がやってきた。偏見を持たない彼はレオナルドと友人になり、それぞれの関係に変化が訪れる。
誰しも何かの属性を背負って、あるいは背負わされて生きている。国籍であったり、セクシャリティに関する事であったり、ハンディキャップであったり――。それがありふれたものなら目立つことも無いが、そうではない場合は周囲に戸惑いや偏見を生み出すことも少なくないだろう。
この物語の主人公は少数派に属している。それも幾層にか渡って。だがこの物語に出てくるのは括弧付きの「マイノリティ」ではなく、「わたし」と「あなた」でしかない。笑ったり、悩んだりするごく普通の若者である「わたし」と「あなた」だ。終盤の手を取り合うことで訪れるささやかな勝利はマイノリティの勝利でもあるが誰にでも訪れるわたしたちの勝利でもあるのだ。
第64回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で上映され、FIPRESCI賞(国際批評家連盟賞)とテディ賞(LGBTを扱った作品に授与される賞)の2冠に輝いたブラジル映画。劇中でかかる印象的な曲にベル・アンド・セバスチャンが使われている。(松光)
1968年生まれ、東京都出身。ライター/コラムニスト。得意分野はアメリカの今の映画と音楽。著書に「21世紀アメリカの喜劇人」(スペースシャワーブックス)、「聴くシネマ×観るロック」(シンコー・ミュージックエンタテイメント)、「文化系のためのヒップホップ入門」(アルテスパブリッシング、大和田俊之共著)、「ヤング・アダルトU.S.A」(DU BOOKS、山崎まどか共著)等がある。
東京都出身。コラムニスト。著書に「女子とニューヨーク」(メディア総合研究所)、「『自分』整理術」(講談社)、「オリーブ少女ライフ」(河出書房新社)、「ヤング・アダルトU.S.A」(DU BOOKS、長谷川町蔵共著)他多数。翻訳書に、B・J・ノヴァク「愛を返品した男 物語とその他の物語」(早川書房)、タオ・リンの「イー・イー・イー」(河出書房新社)。