狭いワンルームにおけるヒップホップ・ミュージシャンたちの作曲風景を被写体とし、創作におけるひらめきと、それにともなうユーモアや、粘り強さや、喜びを描いた2日間の記録。観客一人ひとりに自分も「ひらめき=宇宙への広がり」に向かうクルーの一員であると信じさせるような物語。「日常の中の創造」に迫ります!
ヒップホップ・アーティストOMSBとBimがマンションの一室で楽曲を生み出していく過程を捉えたドキュメンタリー。『Playback』の三宅唱監督が、リスペクトしあう2人に曲の共同制作を依頼し、ユーモラスで愛おしい日常と刺激的な創作活動を記録。本作のなかでしか聴けない曲「Curve Death Match」完成までを追いかける。
どこにでもある部屋で、OMSBはサンプラー、キーボード、ターンテーブルに向かい、仲間と冗談をとばしながら、掘ってきたレコードから音を採集し、体を揺らしながらパッドを叩きトラックを形作っていく。Bimも新たな視点をなげかけたり、リズムをとってその世界を漂っている。
わずか6畳の部屋を操縦席にみたてて、航行していく乗務員たち。ときに宇宙船、潜水艦、ついには鳥になり、未知の領域を駆け巡っていく。
正面から捉えた限定された視点でトライ&エラーが続き、視点の移動で気づく挙動の大きさと前のめりの実感。ヒップホップになじみがない人にまでモノをつくることの喜び、驚き、苦しみを追体験させる64分。
OMSBがたき火をおこすために薪を探し、それを重ねるようにレコードを回す。火をおこすべくパッドを叩き、のろしをあげるべくBimとリリックを紡ぎ、ラップを重ねていく。気づけば観客も我を忘れ、シャーマンのようなOMSBらとともに、異次元へと没入していく……。
本作は創造のひらめきの瞬間に立ち会える記録であるが、案外そういったことはすぐ隣に転がっているのかもしれない。何事も「時期尚早」ということはないのだから。(内崇)
1984年生まれ、北海道出身。初長編『やくたたず』(2010年)を監督ののち、劇場公開第1作『Playback』(12年)を監督、同作はロカルノ国際映画祭に正式出品された。『THE COCKPIT』(14年)は国際ドキュメンタリー映画祭シネマ・デュ・レエル新人監督部門に正式出品。他作品にboidマガジンにて毎月発表しているビデオダイアリーをまとめた『無言日記/201466』(14年)など。雑誌「POPEYE」にて映画評「IN THE PLACE TO C」を連載中。
1980年生まれ、愛知県出身。プロデューサー、映画批評、翻訳。訳書に『エクスペリメンタル・ミュージック~実験音楽ディスクガイド』(F・ロベール著、共訳)、 『モンテ・ヘルマン語る~悪魔を憐れむ詩』(M・ヘルマン、E・ビュルドー著)など。瀬田なつき監督『5 windows eb/is』、三宅唱監督『Playback』、『THE COCKPIT』にてプロデューサーを務める。