近くて遠い国、韓国。国交正常化50年を迎える現在、インディ・シーンでは国を越え確かな交流が行われている。混沌とした現場で今、何が起きているのか。オールピスト・ジャポン2015をはじめ、今年、日本各地を駆け巡ったソウルの熱狂に迫る。劇中のハ・ホンジンと日韓で共演した三輪二郎の歌をじっくりと味わってください!!
韓国ソウル、弘大(ホンデ)地区で自立した活動を続ける音楽家たち。都市開発により弘大の家賃は上昇し、ライブハウスの数も年々減少していく。また、音楽家たちは不安定な収入に未来への不安も抱く。そんな折、音楽家たちは食堂「トゥリバン」のオーナー夫婦と出会う。巨大グループ企業GS建設によって建物が買収されトゥリバンから追い出された夫婦であったが、二人は建物に侵入し抗議の立てこもりを始める。音楽家たちは夫婦と協力し、立てこもり真っ最中のトゥリバンで連日あらゆる音楽ライブを行う。そして、メーデーの5月1日に51組のバンドを集める音楽フェスを開催する──。
「ソウル!シティ!デザインシティ!」のかけ声のもと、巨大企業がわずか30万円で退去を迫った食堂「トゥリバン」に不安定な収入の音楽家たちが集まる。どんづまりの状況でも諦めずに、ユーモアと音楽で自分たちの場をつかみとっていくさまは観る者に勇気を与える。そして、映画を観ていることを忘れ、観客自身もソウル、弘大地区のトゥリバンで演者と客が入り乱れる熱狂の渦へとまきこまれていく。狭い空間で混ざりあい、日韓音楽の邂逅を通して、いつの間にか世界を拡張していく。
状況は刻々と変わり、立てこもり闘争は1年半に及んだ。突然、電気が止められ蝋燭が灯される一幕も。ソウルのうだる暑さ、凍てつく冬にも耐える日々。そこにあるのは、「ここを守らなければ私たちの存在意義を失う」という思いのみ。行政、警察、建設会社などの様々な権力がうごめくなか、現場に響く音楽。耳をつんざくノイズ。浮遊するダンス。憂いのあるフォーク。衝動続くパンク。地下の熱源。屋上で夜風に吹かれながら、ぼんやりとみつめる月。音楽フェスに押し寄せる人波。
どこの国にもある光景。各々の境遇は異なるけれど、音楽で生きていける。ほっと一息つける。そんな日常の解放区は私たち一人ひとりにもあるはずだ。オリンピックが近づく東京にも。
映画の中盤、ソウル「空中キャンプ」でフィッシュマンズの佐藤伸治は、涅槃の眼差しで今を生きる韓国の表現者をみつめている。時空を超えた情景に、私はただ心打たれる。(内崇)
1976年生まれ、神奈川県出身。シンガーソングライター。2008年、あだち麗三郎(ds)、轟渚(b)、吉田悠樹(二胡)らと漂泊のフォークロック・バンド、三輪二郎といまから山のぼりを結成し、「おはようおやすみ」にてデビュー。10年、セカンドアルバム「レモンサワー」をリリース。14年、サードアルバム「III」をリリース。ギタリストとしての評価も高く、盟友・前野健太を始め川本真琴、大森靖子などのアルバムやライヴに客演。素朴でユーモア溢れる歌声とブルージー且つ浮遊感漂うギターは、多くの人々を魅了している。