幸せの本質とは?溝口健二が古典に新たな命を吹き込んで生まれた物語。それからさらに半世紀の時空を越えても時代にリアリティを届けます。上下左右に視界を拡げる長回しは、大画面で観てこそ圧巻。
説話をもとに執筆された森鴎外による小説「山椒大夫」が原作。溝口流の解釈を加えた独自の作品となっている。
平安時代の末期。幼き兄妹の厨子王(加藤)と安寿(榎並)は、母・玉木(田中)らとの旅の道中で人買に捕まり、母と引き離されてしまう。兄妹は山椒大夫(進藤)のもとに奴隷として売られ、以後、過酷な労働を強いられることになる。数年後。青年に成長した厨子王(花柳)はすっかり荒んでしまっていたが、ある日、安寿(香川)に勇気づけられ山椒大夫のもとから逃げ出すことに成功する。しかしその代償に安寿は……。
その後、厨子王は出世し権力でやり返すのだが、説話のような山椒大夫を惨く処刑する展開にはならない。復讐を強調せず、その分奴隷解放という側面により焦点を当てている。とはいえ勧善懲悪の要素がまったくないかというとそうではなく、そういう要素のない鴎外の原作とも一味違う話の流れとなっていく。
有名なラストの海のシーンなど、映像美も光る。(徳)
上田秋成著「雨月物語」からの2篇、「蛇性の婬」「浅茅ヶ宿」が原作だが、2篇を混ぜてそこに+αを加えたような作品になっている。大枠が「浅芽ヶ宿」で、「蛇性の婬」はそのなかに盛り込まれている印象。作中さまざまなアレンジが加えられており、固有名詞や設定に変更点が多い。
戦国時代、ある年の早春。農業の傍ら焼き物を作っていた源十郎(森)は、焼き物で大儲けをしようと、戦火のなか妻子を残し町へ商売に出向く。一方、源十郎の義弟である籐兵衛(小沢)は武士になりたくて、妻共々源十郎に同行し町へ出る。源十郎は物欲、籐兵衛は出世欲に取りつかれていたのだ。町に出た源十郎は、若狭(京)という女性と出会う。妻子ある身でありながら、源十郎は若狭と関係を持ってしまう。
欲に取りつかれた2人と、それに翻弄された妻たちの運命は。本当の幸せとは何か。
幻想的な展開も交えつつ、人間の欲望、命のはかなさ、この世の無常などを描いた、芸術性の高い作品となっている。(徳)