第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
心に痛みを抱え、未来に望みを持てずにいる人々の悲哀がそれぞれの迷いに寄り添いながら描かれ、彼らが自らの殻を破って新たな道を歩んでいくさまは、雲の切れ間から差す光のように観客に希望を与えた。
団地という小宇宙における市井の人々の生活をコミカルに描く一方、天から見下ろした世界観で家族の情愛を描き、見事な演技のアンサンブルで両者を融合させて、慈愛に溢れる心に響くドラマを誕生させた。
常軌を逸した主人公の理由なき暴力は、人間が潜在的に持つ暴力への渇望やみなぎる魂の叫びを鮮烈に浮かび上がらせ、戦慄と共にその本質が何であるかを観客に強く投げかけた。
新しい映画を共に探求するスタッフ・キャストそれぞれの眼差しの交錯が、登場人物の孤独ひいてはそれをみつめる観客の孤独をも優しく包み込み、かつてない驚きと喜びに溢れた映画体験をもたらした。
『葛城事件』において、孤立無縁の自分のありさまに目をつむり、屈折した愛情で家族を支配するモンスターのような父親でありながら、家族の小さな幸せを願う心根の優しい一面をものぞかせる奥行きの深い演技で、その存在を観客の脳裏に深く刻んだ。
『オーバー・フェンス』において、内面に欠落を抱えた男が、心に傷を持つ人々や自分自身と向き合うことで、新たに人生を切り開いていく姿を演じきった。歳を重ねたことで、豊かな表現力に磨きがかかり、人生の苦さをにじませる役柄に血を通わせた。
小泉今日子として生きてきた時間のすべてが役柄を演じるうえで厚みとなり、非日常的な不思議な世界のなかで忘れがたい存在感を残した。年齢を重ねた美しさと何ものからも自由である強さは女性にとっての希望である。
『オーバー・フェンス』において、傷つきながらも他者との繋がりを渇望し、愛を希求し続ける女性の姿を大胆かつ危うげに演じ、その豊かな表情と奔放でしなやかな動きは見る者すべてを夢中にさせた。
少女にとって想像の域を出ない平凡な日常に苛立つ日々のなか、それを壊していく爆弾のような母との交流を経て、想像よりも面白い日常に気づき未来が拓けていく、唯一無二のひと夏の空気を切り取った。
「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」の歌にある眩い紅葉と煌めく水面の如く輝く登場人物の青春を描き、その輝きで作品のすみずみまで色鮮やかに染め上げた。
支配的な父の元で心を歪ませていく少年の姿と、事件を起こした後の面会で目が据わりふてくされた自暴自棄の態を、実在する人物と見紛うまでに真に迫って演じ、観客を圧倒した。
思春期の危うい空気感を醸し出しながらいつも遠くをみつめている、不安と希望をあわせ持つ若者像をセンシティブに創りだす姿は、日本映画の新たな地平を切り拓いていく大きな期待を抱かせた。
若くして役柄やシーンの魅力を掌握できる力は群を抜き、『ちはやふる』ではかるたクィーンとして主人公・千早とのライバル関係を際立たせることにより、青春映画としての躍動感を一気に加速させた。
白いキャンパスが何色にも染められるように、多彩な役柄を色鮮やかに演じた。吸い込まれそうな奥深い瞳は観客を魅了するとともに、将来の活躍を期待させる魅力に満ちている。