自らの生き方を切り開くヒロイン像

11月24日 「自らの生き方を切り開くヒロイン像」 (やまばとホール)

●Time Table●
13:00−13:10
13:10−15:05
15:25−17:50
18:10−19:44
オープニング
長崎ぶらぶら節
宋家の三姉妹
シャンドライの恋

長崎ぶらぶら節
2000年/『長崎ぶらぶら節』製作委員会、東映、東北新社、テレビ朝日、丸紅、TOKYO FM、FM長崎、FM福岡製作/東映配給/1時間55分
 
監督=深町幸男
原作=なかにし礼
脚本=市川森一
撮影=鈴木達夫
音楽=大島ミチル
美術=西岡善信
編集=三宅弘
出演=吉永小百合、渡哲也、高島礼子、いしだあゆみ、藤村志保、原田知世
 
[ストーリー]
 明治16年夏、貧しい漁村網場から1人の少女が中年の男に連れられて歩いている。少女は男が教えた歌を楽しそうに口ずさむ。向かう先は長崎の丸山、貧困のため売られてゆく。約40年後、少女は愛八(吉永)と呼ばれ丸山で五指に入る名芸妓になっていた。ある日、丸山芸妓と町芸者が一堂に会す宴が執り行われた。犬猿の仲の芸者たちが一触即発のその時、一人の男が現れた。長崎の豪商、古賀十二郎(渡)。愛八との運命の出会いであった。大型戦艦「土佐」の不条理な末路を悲嘆する愛八の歌が別座の古賀の心にある決心を宿らせる、「一緒に、埋もれている長崎の古い歌を探しに行こう」。二人の旅の始まりであった。
 
[コメント]
 第122回直木賞に輝く小説の映画化。日本の三大花街である長崎・丸山で、大正から昭和初期にかけて歌と芸に生涯を捧げた芸妓「愛八」が長崎郷土史家古賀十二郎と歌を探し出していく実話に基づく物語。監督はNHKで数々の名作を演出し、本作が劇場用映画初監督作品となる深町氏。おくんちをはじめ長崎の今と史実に基づくセットが愛八の生きた時代へと観客をいざなう。脚本はご当地出身の市川氏。長崎のあねしゃま(おねえさん)たちはまことにしっとりして、情が深い。愛八は人のためには身銭を切る性格のため、検番裏で質素に暮すが、この性格により人々から愛される。吉永氏はまさに芸妓そのもの。今でも長崎の宴席で盛んに歌われる「ぶらぶら節」の一節「遊びに行くなら花月か中の茶屋〜」の舞台、老舗の料亭花月。みなさんは坂本竜馬が付けた刀傷が柱に残っていることでご周知の場所。日ごろは拝見できない門内が覗けるなど、長崎のガイドも務めている。お諏訪さん、眼鏡橋、崇福寺、丸山、蛍茶屋、私の心の地図と劇中の地図がまるでパズルを埋めるように重なり合う。彼女のお墓は長崎市内にあるという。竜馬の長靴から展望できる場所にあるのだろうか、再び長崎を訪れたくなるそんな映画です。 (晦)

宋家の三姉妹
宋家皇朝
1997年/香港、日本合作/ゴールデン・ハーヴェスト、ポニーキャニオン、フジテレビ製作/東宝東和配給/2時間25分
 
監督・脚本=メイベル・チャン
脚本=アレックス・ロー
撮影=アーサー・ウォン
音楽=喜多郎、ランディ・ミラー
美術=ジェームズ・レオン、エディー・マー
衣装=ワダ・エミ
出演=マギー・チャン、ミシェール・ヨー、ヴィヴィアン・ウー、ウィンストン・チャオ、ウー・シングォ
 
[ストーリー]
 今世紀初頭の中国で、古い因習に囚われずに育てられた宋家の三姉妹。アメリカ留学留学から帰国した彼女たちは、それぞれに全く異なるパートナーを選んだ。長女(M・ヨー)は財閥の御曹司・孔祥煕、次女(M・チャン)は革命家・孫文、三女(V・ウー)は軍司令官・蒋介石と結婚したが、時代の奔流は、強い絆で結ばれた三姉妹を、国をも引き裂いてゆく……。辛亥革命、西安事件、日中戦争、国共内戦……彼女たちは愛し、傷つき、過酷なまでの運命に翻弄されながらも、中国の激動期を自ら偽ることなく、ひたむきに生きた。
 
[コメント]
 『誰かがあなたを愛している』、『玻璃の城』で世界中の女性の共感を得、今最も注目されている女性監督メイベル・チャンが描くロマン大作。今から十数年前、当時大学生だった僕が付き合っていた留学生からこの三姉妹のことを教えられた。「一人は富を愛し、一人は権力を愛し、一人は祖国を愛した」として中国では有名だったらしく、僕の不勉強さをよく怒っていた。このように古くからの伝記や物語でずいぶん知られた存在だったが、映画化されたのはこれが初めてのことである。冒頭でこの映画をロマン大作と述べたが、ダイナミックな映像と流麗なカメラワークで時代や社会を鋭く捉える一方で、家族劇としての面白さや大陸的なスケールの大きさをもちファンタジー・ドラマとしての娯楽性をも備えた作品となっている。同時に、中国を含めたアジア諸国についての歴史を知らなすぎることも痛感した。高校生の時は受験のために近代史を習うことはなく、誤った歴史認識を唱える政治家も出てくるありさまで、まさに近代の日本・アジア史は「目の上のたんこぶ」的な状況であろう。官僚組織の圧力からか学校でもまともに教えることはなさそうなので、こうした映画を通して我が国が関わった隣国の歴史を学ぶしかないのは非常に残念である。 (拓)

シャンドライの恋
Besieged
1998年/イタリア/フィクション、ナヴァート・フィルム製作/アミューズ配給/1時間34分
 
監督・脚本=ベルナルド・ベルトルッチ
原作=ジェイムズ・ラスダン
脚本=クレア・ペプロー
撮影=ファビオ・チャンケッティ
音楽=アレッシオ・ヴラッド
美術=ジャンニ・シルヴェストリ
編集=ヤーコボ・クワドリ
出演=サンディ・ニュートン、デヴィッド・シュリース、クラウディオ・サンタマリア、ジョン・C・オイワン、シリル・ヌリ
 
[ストーリー]
 ローマで医学を学ぶ黒人女性シャンドライ(T・ニュートン)。彼女には愛する夫を政治犯として連れ去られるたというつらい過去をあった。ある日、自分が家政婦として働く家の主人キンスキー(D・シュリース)から結婚を申し込まれるが、「私と結婚してくれるならどんなことでもする」と言い寄る彼に、シャンドライは「だったら私の夫を刑務所から出してよ」と拒むのであった。彼女の願いをかなえるべく私財を投げ打つキンスキーに徐々に好意を寄せるシャンドライ。その元に夫から釈放を告げる通知が届いたとき、彼女は複雑な心境に陥るのだった。
 
[コメント]
 『ラストエンペラー』(87年)、『シェルタリング・スカイ』(90年)と、近年大作傾向にあったベルトルッチ監督が短期間・低予算で作り上げた傑作。夫を捕えられた黒人女性と彼女に恋心を抱く白人ピアニスト。肌の色や生い立ち、音楽の趣味など、何一つ共通点のない二人が、いつしか互いに惹かれあっていく。キンスキーは一見捕えどころのない人物であるが、自分の生活を投げ打ってまでシャンドライへ無償の愛を注ぎ続ける。はじめそれを拒否していたシャンドライもいつしか自分の本当の気持ちに気付き苦悩するのであった。この一見ありふれたラブストーリーをほとんど台詞に頼ることなく淡々と見せるあたりに、ベルトルッチ監督の本領が遺憾なく発揮されている。物語の終盤で結ばれた二人のもとに、刑務所から戻ってきた夫の押す呼び鈴が響く。キンスキーの腕を握り締めるシャンドライ。そして意を決したように彼の手を振り解く。映画はここで終わる。果たして二人はどうなるのか、映画はその先を語らない……。 (温)