20世紀を飾った銀幕のスター 女優編

11月19日 「20世紀を飾った銀幕のスター 女優編」 (ベルブホール)

●Time Table●
11:00−12:38
13:20−14:50
15:05−16:42
伊豆の踊子
お嬢さん乾杯
春琴抄

伊豆の踊子
1954年/松竹大船製作/松竹配給/1時間38分
 
監督=野村芳太郎
原作=川端康成
脚本=伏見晁
撮影=西川亨
音楽=木下忠司
美術=梅田千代夫
出演=美空ひばり、石浜明、片山明彦、由美あづさ、南美江、芦田伸介
 
[ストーリー]
 旧制高等学校生(石浜)は天城峠を越えようとしていた。学生の伊豆一人旅、彼はある一行を追いかけていた。その一行は旅芸人5人、大島の港の人たちで、風呂敷包、柳行季など大きな荷を背負い、その一人である踊子(美空)は太鼓を提げ、山道を歩いていく。彼は一行のなかの踊子に心惹かれている。下田まで学生と芸人たちは一緒に旅をする。逗留地で、踊子は料理屋で太鼓を打つ。太鼓の音は学生の秘めた心を晴れやかに踊らせる。宿の人たちは旅芸人を好奇の目で、軽蔑を込めながら接する。しかし、芸人たちとの触れ合いは孤児根性で歪んだ二十歳の学生の心を解きほぐしてゆく。
 
[コメント]
 ミュージックシーンはディヴァ(歌姫)全盛期。二十歳前後の彼女たちは優れた歌唱力とともに、その個性が人気を博している。共通して言えることは決して媚びない強さを秘めている。しかし、20世紀を代表する“お嬢”と呼ばれた歌姫にはかなわない。彼女の名は美空ひばり。戦後の荒廃期に、彗星の如く現れ、聴衆に生きる力を与えつづけた、不死鳥のように。彼女は言う、歌は我が人生と。様々なジャンルの歌に挑戦し、ひばり節を響かせた。また、歌に留まらず、映画、演劇を通じて観客たちとの出会いを大切にしていた。『東京キッド』、『越後獅子』などの子役、少女役から、本格的な大人への脱皮として挑んだのが本作品。少女時代の旅公演での事故はあまりに有名だが、彼女にとって、踊子・薫はまさに自身を投射した役柄であった。女優美空ひばりの記念碑的な文芸作品であると同時に、娯楽作に仕上がっている。小説の一節のとおり、美しく光る黒眼がちの大きな眼、きりりとしたなかに美しく光るまなざし、凛々しい姿はまさに彼女そのもの。彼女は花のように笑い、そして歌う。学生役の石浜明との爽やかなコンビは多くの観客をあますところなく引き付けた。『伊豆の踊子』は過去、田中絹代、吉永小百合、山口百恵など、様々な配役で映画化されているが、我が実行委員会では本作が一押しと推薦する。 (晦)

お嬢さん乾杯
1949年/松竹大船製作/松竹配給/1時間30分
 
監督=木下恵介
脚本=新藤兼人
撮影=楠田浩之
音楽=木下忠司
美術=小島基司
出演=原節子、佐野周二、永田靖、東山千栄子、村瀬幸子、佐田啓二
 
[ストーリー]
 終戦後、やっと復興の兆しが出てきた頃。32歳で自動車修理工場を経営する石津圭三(佐野)は、無教養だが明朗で仕事熱心。彼に得意先の専務・佐藤(坂本)が縁談を持ってきた。相手は元華族の令嬢・池田泰子(原)という。身分の違いに、最初全くその気がなかった圭三だが、佐藤の熱意にほだされて見合いだけでも、ということに。が、泰子を一目見て圭三は「雷に打たれたように」惚れてしまう。互いを知ろうとデートを重ねるにつれて、泰子の人柄にひかれて圭三の思いは募るばかり。ところが泰子の態度がどうもおかしい。元華族という家の様子も変だ。何かわけがありそうだ……。
 
[コメント]
 作風の多彩な木下恵介監督が新藤兼人の脚本を得て描いたアメリカ映画を思わせるような後味の良いラブコメディ。出演はかつて上原謙、佐分利信らと「松竹の三羽烏」といわれた佐野周二(関口宏の父)、佐田啓二(中井貴一の父)、20世紀の日本の銀幕に咲いた名花・原節子の豪華な顔ぶれ。没落華族の令嬢と成金青年の違いを、ショパンとよさこい節、バレエとボクシングとの対比や、各シーンにつけられた落ちを有効に使い軽快なリズムで描いている。また外車を扱うなど、まだ国産車が製造されていない当時の世相や風俗を知る楽しみや、東山千栄子など意外な脇役などの細やかなところも見逃せない。そしてこのお嬢さん役こそ多くのファンが想う原節子像ではないだろうか。最後のセリフ「惚れております!」が恥ずかしくて言えずNGを重ねたという話もあり、また素顔は姐御タイプという話もある。真偽はさておき、この作品には、小津や黒澤、成瀬の作品にはない原の魅力が出ている。育ちの違いなどを乗り越え相手のことを思いやる二人の姿に作者のメッセージが強く響き、日本のこの時代にこんな映画があったのか、と木下監督を見直した作品。今年6月、惜しまれつつ幕を閉じた松竹大船撮影所を、伝説となった“永遠の処女”原節子を、日本コメディ映画を代表する傑作。是非多くの人に観てもらいたい。(清)

春琴抄
1976年/ホリ企画製作/東宝配給/1時間37分
 
監督・脚本=西河克己
原作=谷崎潤一郎
脚本=衣笠貞之助
撮影=萩原憲治
音楽=佐藤勝
美術=佐谷晃能
編集=鈴木晄
出演=山口百恵、三浦友和、中村竹弥、風見章子、津川雅彦、中村伸郎
 
[ストーリー]
 大阪の薬種問屋の娘、お琴(山口)は病で光を失った。日々琴を奏でることを生きる支えとし、持前の美貌とその腕前で一目置かれる存在であった。その家へ幼い頃から奉公に入った佐助(三浦)はお琴の気に入りということもあり、日々の世話をかってでていた。障害ゆえか気難しい上に支配的なお琴。佐助は献身的に務めるうちに次第に音楽を志すようになっていく。お琴の両親のはからいもあって、佐助はお琴の世話と芸事の稽古を業とすることになるのだが、お琴の仕打ちが厳しくなればなるほど、佐助はますます彼女に囚われていくのであった。
 
[コメント]
 言わずとしれた谷崎潤一郎原作の映画化。これまで幾度となくリメイクを重ねられている名作の1つである。特にその壮絶な展開をみせるストーリーは、のち現在に至るまで、作家あるいは映画監督へ多大な影響を与え、近年でも都内劇場において特集上映が行われるほどの人気を保つ。本作品においては当時世間を風靡した百恵・友和コンビを主役に抜擢しているが、その原作と配役の、ある意味ではミスマッチとも解される関係性が逆に魅力となり、そこが単なる「アイドル映画」に留まらない所以であるといえるだろう。作品を通して、瞼を開くことのない山口の美しさが実に印象的で、見所とされる特に有名なシーンでは、目を覆わんばかりの迫力がある。また、映像の美しさも人気の高い点で、注目すべき。残念ながら女優・山口百恵の新作を観ることはもうないが、20世紀の顔としての存在感を存分に楽しむ(?)に足る作品であると思われる。主演の2人は、ご承知の通りこの作品以外にも多数の共演作があるが、代表作に挙げられる『伊豆の踊子』とならんで作家性の強い作品である。ご覧になったことがある方はもちろん、当時を知らない方々も、この機会に一見されたい。佐助の、深さ故の被虐的な愛情にあなたは共鳴出来るだろうか? (塚)