日本映画をどうするのか‘01

11月24日 「日本映画をどうするのか‘01」 (やまばとホール)

●Time Table●
11:00−11:10
11:10−13:05
13:35−15:25
15:45−16:25


16:50−18:34
19:00−20:53
オープニング
みんなのいえ
真夜中まで
トーク「娯楽映画とジャズの魅力」
 ゲスト:和田誠監督、斎藤晴彦氏、國村隼氏(予定)
 司会:関口裕子氏(キネマ旬報編集長)
連弾
化粧師

みんなのいえ
2001年/フジテレビ、東宝製作/東宝配給/1時間55分
 
監督・脚本=三谷幸喜
撮影=高間賢治
美術=小川富美夫
音楽=服部隆之
編集=上野聡一
出演=唐沢寿明、田中邦衛、田中直樹、八木亜希子、伊原剛志、八名信夫
 
みんなのいえ
 
[ストーリー]
 飯島直介(田中)は30代半ばの脚本家、妻民子(八木)と一生暮らす家を建てることになり、設計を新進気鋭のインテリアデザイナー柳沢(唐沢寿明)に、施工を義父の長一郎(田中)に依頼するが、それがすべての騒動の始まりだった。
 
[コメント]
 家を建てるということは誰もが皆一度は経験する類いの出来事ではないはず。そんな一見身近なようでいて珍しい、かなり大変な実体験をもとにした三谷幸喜監督の2作目である。
 前作『ラヂオの時間』とは打って変わってほのぼのとした空気が全体を包んでいる、画面の色合いもどことなく暖かい。全く正反対の柳沢と長一郎の対立を軸に、登場人物たちは家の完成という目標に向かって自分のするべきことを試し、反発しあいながらも次第に理解を深めてゆく現場の人間と頭脳労働者という構図は古典的である。しかし、しっかりと錬られた脚本と、隙あらば笑わせてやろうという笑いへの執着、出演者の味を十二分に引き出すキャラクターづくりなど、丁寧な仕事ぶりのおかげで決して飽きることはなく、老若男女が楽しめる良質のコメディに仕上がっている。観る人、出演する人を意識した映画作りが、ひいては作家としての映画作りにつながるという印象を受けた。
 設計から工事、細かな装飾品に至るまでサービス精神一杯でつくられた『みんなのいえ』、気になるなら是非一度お立寄りを。
 最後に、妻・小林聡美を主人公にした映画がいつか作られることを願って止まない。 (浩)

真夜中まで
1999年/東北新社、電通、日本出版販売、IMAGICA製作/東北新社配給/1時間50分
 
監督・脚本=和田誠
脚本=長谷川隆
撮影=篠田昇
美術=福澤勝広
音楽=立川直樹
出演=真田広之、ミッシェル・リー、岸部一徳、國村隼、柄本明、斎藤晴彦
 
真夜中まで
 
[ストーリー]
 ジャズトランペッター守山(真田)はちょっとしたことから追われているリンダ(M・リー)を助ける。彼女から殺人を目撃したという話を聞かされた守山は、証拠探しに付き合う破目になりリンダと2人で夜の街を疾走する。
 
[コメント]
 全編から和田誠監督の映画への、そしてジャズへの愛情が感じられる映画です。しかも、ただの趣味の羅列にとどまらない極上のエンターテインメントに仕上がってます。
 この作品、敢えてジャンルを分けるならばタイムリミットもののミステリーとなるのでしょうが、そんなに張りつめた緊張感は感じられません。全編を彩るジャズの曲がややもすればギスギスしがちな空気を和らげ、スクリーンに映し出されるネオンと相まって心地良い雰囲気を釀し出しています。
 物語の冒頭、真田広之演じる守山がトランペットを吹くシーン。監督は初め数カットに分けて撮影する予定だったらしいのですが、余りの迫力にカットがかけられなかったと言っています。奇しくもこの長い1カットがリアルタイムに進む物語を演出する序曲になっています。そう、この映画現実と同じ速さで時が刻まれているのです。そして守山は12時までに店に戻らないとならない。憧れの人に自分のプレイをきかせるために。しかしリンダも助けてやりたい……。そのために守山はトランペット片手に夜の街を駆け巡る。けれども2人にはすべて丸く収まる大団円など有り得ない。2つのマウスピースと「月の沙漠」が奏でられる切ないラストシ—ンは必見です。 (家)

連弾
2000年/松竹、東京放送、博報堂、衛星劇場、IMAGICA、セディックインターナショナル製作/松竹株式会社配給/1時間44分
 
監督=竹中直人
脚本=経塚丸雄
撮影=佐々木原保志
美術=斉藤岩男
編集=奥原好幸
出演=竹中直人、天海裕希、冨貴塚桂香、蓑輪裕太、鈴木砂羽、片桐はいり、松尾れい子
 
連弾
 
[ストーリー]
 借家8軒を持ち、家事と子供2人の面倒を見る「専業主夫」佐々木正太郎(竹中)は、ゼネコンで働く妻・美奈子(天海)の不倫を知る。勝ち気な妻は、未練いっぱいの正太郎を振りきって家を出るが、間近に迫るピアノ発表会で娘と連弾をする約束は守ると言う。母を許せないが恋しくもある息子、父とも母とも距離をとる娘。それぞれの思いを抱え、4人は発表会の日を迎える。
 
[コメント]
 崩壊していく家族の姿をユーモラスに描きながら、逆に家族のきずなを浮き彫りにしていくユニークなホームドラマである。監督は主演も兼ねる竹中直人。本作で初めて他人の脚本に挑み、可笑しみと哀れみが入り交じるドラマの演出に取り組んでいる。全体的にシリアスな脚本だが、家族4人の性格をそれぞれ個性的に造形することでリアリティをも表現できているのが素晴らしい。また不倫の是非を問うたり、家族は一緒に暮らすべきだという道徳を押しつけたりせずに、心のつながりをさりげなく描いており、竹中直人のアクの強い演技が、今回は天海祐希と2人の子役の熱演に溶け込んでいる。登場人物全員が鼻歌で心境を表現するミュージカル風の演出もまた面白い。
 そして母娘がブラームスの「ハンガリー舞曲」をピアノ連弾で弾く場面を、二人の寄り添う心がシンプルかつストレートに教えて強い印象を残している。 (拓)

<特別試写会>
化粧師
Kewaishi
2001年/『化粧師』製作委員会製作/東映配給/1時間53分
 
監督=田中光敏
脚本=横田与志
美術=西岡善信
音楽=大谷幸
出演=椎名桔平、菅野美穂、池脇千鶴、佐野史郎、田中邦衛、いしだあゆみ、柴田理恵、柴崎コウ、大杉漣、岸本加世子、小林幸子、菅井きん
 
化粧師
 
[コメント]
 「もっと美しく、もっと輝きたい」・・・・・・それはいつの世も変わらぬ女性の飽くなき願望。
 この映画『化粧師』は、そんな女性たちの願いをかなえ、心まで癒してくれる物語。今は使われなくなった美しい日本語、化粧<けわい>・・・・・・その意味は、頭のさきからつま先まで女性を美しくすること。(人の内面まで気を配ること。)
 人の心を豊に化粧していく化粧師・小三馬に椎名桔平、彼をとりまく女優陣に菅野美穂、池脇千鶴、いしだあゆみ、柴崎コウなどが挑みます。
 小三馬にかかわる女性は、「化粧」によって力を与えられ、生き方に対する大きな影響を受けて前向きに羽ばたく。そして感情までも豊かに描かれていく。これは、21世紀に生きる女性たちへの応援です。
 尚、本作品は第14回東京国際映画祭コンペティションにおいて最優秀脚本賞を受賞しました。

●プロフィール
三谷 幸喜(みたに こうき)監督

 1961年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部演劇科卒業。83年劇団「東京サンシャインボーイズ」を旗揚げし、人気を博す。同名舞台を映画化した『12人の優しい日本人』(91年)でキネマ旬報脚本賞を受賞し、一躍注目を集める。TVドラマでも「やっぱり猫が好き」「警部補・古畑任三郎」「王様のレストラン」など茶の間の人気を集める。映画監督としては、97年『ラヂオの時間』でデビュー。同脚本でキネマ旬報脚本賞を再び受賞。『みんなのいえ』は監督第2作にあたる。妻は女優の小林聡美。
 
竹中 直人(たけなか なおと)監督

 1956年生まれ、横浜市出身。幼い頃から映画好きで、高校時代に8mm映画を撮り始め、多摩美術大学グラフィックデザイン科在籍時は、宮沢章夫らと『燃えよタマゴン』などの自主映画を製作。卒業後は劇団青年座に在籍し、83年に形態模写によりTVで脚光を浴びる。映画俳優としては、『ロケーション』(84年)を皮切りに石井隆監督作品をはじめ多数出演。91年つげ義春原作の『無能の人』で監督デビューを果たし、第48回ヴェネチア国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。本作は監督4作目にあたり、いずれの作品も自ら主演している。

○フィルモグラフティ(監督作)
 1991年 『無能の人』
 1994年 『119』
 1997年 『東京日和』
 2001年 『連弾』
 
真田 広之(さなだ ひろゆき)氏

 1960年生まれ、東京都出身。中学在学中からJACでアクションを学び、78年に『柳生一族の陰謀』でスクリーンデビュー。着実に実力をつけ、84年に和田誠監督の『麻雀放浪記』に主演し、日本アカデミー賞主演男優賞を受賞。同じく和田誠監督の『怪盗ルビイ』(88年)では、報知映画賞、日刊スポーツ映画賞、ヨコハマ映画祭、キネマ旬報の主演男優賞を獲得する。演技派としての実力を身につけ、舞台ではロイヤルシェークスピアカンパニーの「リア王」でロンドン公演を果たし、海外でも高い評価を得た。

○主な出演作
 1984年 『麻雀放浪記』
 1988年 『怪盗ルビイ』
 1993年 『眠れない街 新宿鮫』、『僕らはみんな生きている』
 1995年 『写楽』
 1999年 『真夜中まで』
 2000年 『はつ恋』
 2001年 『陰陽師』

●ゲストの紹介
和田 誠(わだ まこと)監督

 1936年生まれ、大阪府出身。多摩美術大学卒業後、広告会社に入社。タバコ「ハイライト」のパッケージデザインなどを手掛け、64年にアニメーション映画『殺人(マーダー)』を自主制作し、第19回毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞。68年からフリーとなり、イラストレーション、装丁のほか、作曲まで手掛け、多彩な才能を発揮する。「週刊サンケイ」の表紙の似顔絵で文藝春秋漫画賞を受賞。
 絵本、推理小説の翻訳、エッセイなどの著作も多く、「ビギン・ザ・ビギン」で角川書店日本ノンフィクション賞を、「銀座界隈ドキドキの日々」で、講談社エッセイ賞を受賞する。映画やジャズへの造詣の深さを生かした著作も多く、「お楽しみはこれからだ」「映画に乾杯」、三谷幸喜氏との対談を収めた「それはまた別の話」、村上春樹氏との共作「ポートレイト・イン・ジャズ」などがあり、「ポートレイト・イン・ジャズ」ではCDも発売している。
 84年に『麻雀放浪記』で念願の監督デビューを果たし、報知映画賞 新人賞を受賞。監督第2作にあたる『怪盗ルビイ』(88年)でブルーリボン賞を受賞。94年には、幅広いジャンルでの活躍が評価されて、第42回菊池寛賞を受賞している。

○フィルモグラフィ
 1984年 『麻雀放浪記』
 1988年 『怪盗ルビイ』
 1994年 『怖がる人々』
 1996年 『しずかなあやしい午後に』
 1998年 『真夜中まで』
 
國村 隼(くにむら じゅん)氏(予定)

 1955年生まれ、大阪府出身。81年『ガキ帝国』でスクリーンデビュー。89年『ブラック・レイン』(リドリー・スコット監督)に出演し、その後『ハードボイルド〜新・男たちの挽歌』などの海外の作品に多数出演し、注目を浴びる。その演技力には定評があり、日本映画界には欠かすことの出来ない存在である。

○主な出演作
 1993年 『月はどっちに出ている』
 1996年 『ビリケン』
 1997年 『萌の朱雀』
 1998年 『愛を乞うひと』
 1999年 『真夜中まで』
 2000年 『顔』、『五条霊戦記//GOJOE』
 
司会:関口 裕子(せきぐち ゆうこ)氏

 1964年生まれ。90年株式会社キネマ旬報社に入社。2000年、長い「キネマ旬報」の歴史のなかで初の女性編集長に就任した。