日本映画史を飾った男優スター PART1

11月28日 「日本映画史を飾った男優スター PART1」 (やまばとホール)

●Time Table●
13:30−15:11
15:30−16:10

16:30−18:04
18:20−20:01
嵐を呼ぶ男
トーク「勝新太郎 荒々しきその魅力」
 ゲスト:中村玉緒氏、聞き手:北川れい子氏(映画評論家)
悪名
人生劇場 飛車角と吉良常

嵐を呼ぶ男
1957年/日活製作・配給/1時間41分
 
監督・原作・脚本=井上梅次
脚本=西島大
撮影=岩佐一泉
音楽=大森盛太郎
美術=中村公彦
出演=石原裕次郎、北原三枝、金子信雄、芦川いづみ、白木マリ、岡田真澄
 
嵐を呼ぶ男
 
[コメント]
 ぎょろっとした目だがチャーミングな顔、日本人離れした長身、すらりとのびた長い脚、石原裕次郎は、戦後の若い世代の行動の直接性と合理性を具現化した存在であった。その魅力は、伝統的な権威や身分の壁をつき破る傍若無人な青年という、従来の日本人スターにはみられないまったく新しい種類のスター誕生となった。『嵐を呼ぶ男』は、そのスター性を確立した記念すべき作品である。
 昭和32年12月28日、お正月映画として封切られたこの映画は、ほかの正月興行映画を完全に引き離してのヒット作となった。
 ドラマーで銀座のギター流しで評判の暴れん坊が、一流のドラマーとして、スター街道をかけのぼっていくが、トラブルに巻きこまれ、大事な手を負傷する。ドラマー合戦でのマイクをつかんで歌いだすシーンが印象に残っている。「おいらはドラマー、やくざなドラマー」ではじまる渋い歌は観客を魅了した。
 昭和62年(1987年)、この裕次郎がガンでなくなったとき、その葬式に数千人の中高年の女性が参列したと、新聞で伝えられた。
 ちなみに、昭和32、33、34年は、日本の映画観客動員数が、史上最高となった年でもある。 (信)

悪名
1961年/大映製作・配給/1時間34分
 
監督=田中徳三
原作=今東光
脚色=依田義賢
撮影=宮川一夫
音楽=鏑木創
美術=内藤昭
出演=勝新太郎、田宮二郎、中村玉緒、水谷良重、田中康子、藤原礼子
 
悪名
 
[コメント]
 喧嘩にはめっぽう強いが情けにゃ弱い痛快無頼の好男子・朝吉を演じる勝新太郎と、腕も度胸も人一倍だがドライな感覚をもっているモートルの貞を演じる田宮二郎のコンビが対称の妙を示してなんとも面白い。威勢のいい河内弁と激しいアクションでぐんぐん画面を引っ張り、大映を代表するヒットシリーズへと展開していったのも納得できる。このシリーズは数年前にオールナイトで注目を集めるまでよく知らなかったのだが、カメラの宮川一夫、照明の岡本健一、美術の内藤昭など素晴らしいスタッフワークでスタジオシステム全盛時の技術力の結集が、こんなに面白い娯楽作を生み出していることをはじめて知り、度肝を抜かれた。
 それにしても勝新太郎という俳優が、日本映画界で類まれな存在であったという印象をこの作品を観て改めて思い知らされた。演技力とか存在感とか個性とか、普段俳優を評価する形容詞がまったくあてはまらない人間そのものの底知れぬ魅力。強さと弱さを表面でみせながらそれを自然と感じさせる凄さにため息がでた。

人生劇場 飛車角と吉良常
1968年/東映製作・配給/1時間41分
 
監督=内田吐夢
原作=尾崎士郎
脚本=棚田吾郎
撮影=仲沢半次郎
音楽=佐藤勝
美術=藤田博
出演=鶴田浩二、高倉健、若山富三郎、藤純子、大木実、松方弘樹、辰巳柳太郎
 
人生劇場 飛車角と吉良常
 
[コメント]
 「鶴田浩二を知らない世代が増えている!」愕然とした思いだった。今年、観劇した芝居のなかの一幕で、中年男と若い娘の会話で鶴田浩二を知っている・いないがユーモラスに演じられていたのだが、その時は多くの若くない観客と共に笑い興じたが内心、驚いてしまった。
 それからすぐ様、周りの20代の若者にあたり構わず聞いてみた。「あなたは鶴田浩二を知ってますか?」ボーダーラインは27.6才という結果だった!(サンプル数126人 <嘘>)
 「いけない。このままではいけない!」という妙な使命感にとらわれ、カラオケスナックで「傷だらけの人生」を若い娘の前で歌ったりという意味のないことをしてしまった。
 『ホタル』のヒットを見るまでもなく、未だ健在の健さん人気なのだが、その健さんが東映の任侠路線バリバリの頃、兄貴格でいたのが鶴田浩二であり、若気の至りで暴走する健さんを暖かく見守る存在だったりするのだ。
 そんな日本映画がスターをスター然として一番輝かせていた時代の作品を今、観て語ることがスターを永遠に輝かすことであろう。 (セ)

●プロフィール
勝 新太郎(かつ しんたろう)氏

 1931年11月29日生まれ、東京都出身。54年に大映に入社し、同年『花の白虎隊』でスクリーンデビュー。一匹狼を演じた『悪名』シリーズがヒットし、『座頭市』シリーズでその人気を不動のものにする。監督作品も多く、存在感の強いスターとしての印象を強く残している。1997年6月21日逝去。享年65歳。妻に中村玉緒、兄は俳優の若山富三郎。

○主な出演作
 『森の石松』(57年、田坂勝彦監督)
 『関の弥太っぺ』(59年、加戸敏監督)
 『不知火検校』(60年、森一生監督)
 『悪名』シリーズ(61年〜74年、全16作)
 『座頭市』シリーズ(62年〜89年、全26作)
 『兵隊やくざ』シリーズ(65年〜68年、全8作)
 『御用牙』シリーズ(72年〜74年、全3作)
 『無宿』(74年、斉藤耕一監督)
 『迷走地図』(83年、野村芳太郎監督)
 『浪人街』(90年、黒木和雄監督)

●ゲストの紹介
中村 玉緒(なかむら たまお)氏

 京都府出身。父・中村鴈治郎、兄・中村扇雀という歌舞伎の名門に生まれ育ち、1953年『景子と雪江』でスクリーンデビュー。天性の素質に加え、全身全霊を傾けた熱演により数々の役をこなしている。62年に『不知火検校』で共演した勝新太郎と結婚。舞台、TVと幅広い活躍を続けている。

○主な出演作
 『赤銅鈴之助』シリーズ(57年〜58年、全9作)
 『炎上』(58年、市川崑監督)
 『ぼんち』(60年、市川崑監督)
 『悪名』(61年、田中徳三監督)
 『黒い十人の女』(61年、市川崑監督)
 『越前竹人形』(63年、吉村公三郎監督)
 『岸壁の母』(79年、大森健次郎監督)
 『橋のない川』(92年、東陽一監督)
 
司会:北川 れい子 (きたがわ れいこ)氏

 東京中野生まれ。映画評論家。70年代初め、「映画芸術」の小川徹編集長に知遇を得たのをきっかけに映画批評を書き始め、各誌紙に精力的に執筆。国家公務員を85年に退職し文筆業専業に。「週刊漫画ゴラク」誌の日本映画評が連載900回を超えるほか、ミステリー評なども。猫5匹が同居。