家族と共に 〜シルバーエイジの過ごし方〜

11月30日 「家族と共に 〜シルバーエイジの過ごし方〜」 (やまばとホール)

●Time Table●
11:00−11:10
11:10−12:40
13:20−15:11

15:30−16:20
16:40−18:33
オープニング
アカシアの道
<特別先行プレビュー (来春公開予定作品)>
折り梅
トーク ゲスト:松井久子監督、吉行和子氏、聞き手:北川れい子氏(映画評論家)
大河の一滴

アカシアの道
2000年/ユーロスペース、TBS、PUG POINT製作/ユーロスペース配給/1時間30分
 
監督・脚本=松岡錠司
原作=近藤ようこ
撮影=笠松則通
美術=磯見俊裕
音楽=茂野雅道
編集=普嶋信一
出演=夏川結衣、渡辺美佐子、杉本哲太、高岡蒼佑、天光眞弓
 
アカシアの道
 
[ストーリー]
 編集者の木島美和子(夏川)は30才。自分にはつらく当たり続けた母・かな子(渡辺)がアルツハイマーを患い、仕方なく実家に戻るが「介護」の負担は増し、仕事もままならなくなる。つい、母を怒鳴りつける自分に、かつての母の姿が重なる。逃げるように、距離を保っていた恋人・沢木(杉本)との関係を深めようとするが、孤独感はかえって深まる。追い詰められ「もう、終わりにしようか」と美和子が母に手をかけた時……。
 
[コメント]
 ——母と娘。なんて恐ろしい関係なのかしら。お互いに傷つけあい、いがみ合う。それを愛という言葉で片付ける。母の傷や不満はそのまま娘に引き継がれる。母の不幸は、そのまま娘の不幸になる。きってもきれないこの絆。——(イングマル・ベルイマン「秋のソナタ」より——近藤ようこの原作から引用)
 デビュー作『バタアシ金魚』で“強迫神経症の男の子と過食症の女の子”を、その後も"アルコール依存症の女性”や“強迫観念に悩む女性”……と“子供や女性の心理劇”を描いてきた松岡錠司監督が、今回扱うのは“アダルトチルドレン”である。アルツハイマーを患った母親の介護にあたる娘に蘇る、幼少期に母親から受けた「虐待」の記憶。メロドラマでも、娘からの告発でもなく、母娘の緊張感あふれる関係や揺れ、心のひだ深くをカメラは見つめている。
 「この作品は母と娘の葛藤の物語です。同時に自分と他者との危うい関係性の物語です。親子であろうとその例外ではありません。……現実と戦う“普通の人々”の姿を描いた映画なのです。」(本作品公式サイトより)と語る、松岡錠司の世界。他人事ではない痛みが胸をついた。 (雅)

<特別先行プレビュー(来春公開予定作品)>
折り梅
2001年/エッセン・コミュニケーションズ製作/パンドラ、シネマ・ワーク配給/1時間51分
 
製作・監督=松井久子
原作=小菅もと子(「忘れても、しあわせ」日本評論社刊)
脚本=松井久子、白鳥あかね
撮影=川上皓市
美術=斎藤岩男
音楽=川崎真弘
編集=渡辺行夫
出演=原田美枝子、吉行和子、トミーズ雅、田野あさ美、三宅零治、加藤登紀子
 
折り梅
 
[ストーリー]
 サラリーマンの夫(トミーズ)にパート勤めの妻(原田)、2人の子供。平凡な家庭に新たに加わった夫の母“おばあちゃん”(吉行)。幸せな新生活のはずが、おばあちゃんにアルツハイマーの症状が。義母の変化に戸惑う妻・巴と、自分を失っていく恐怖からやり場のない苛立ちを巴にぶつける義母・政子。2人の女のぶつかり合いと家族の葛藤を経て、やがて政子は眠っていた才能を開花させる……。
 
[コメント]
 「巴さんにだけは嫌われたくない。」という義母・政子と、「他人に変わってほしいと願うより、まず自分が変わらなくちゃ。」という三男の妻・巴。この作品は、夫婦でも実の親子でもない、家族のなかの“他人”同士の2人の女の口から、この台詞がこぼれるまでの過程を中心として、妻・巴と義母・政子の関係を軸に、ごく普通の家族が迎えた危機——それは、夫婦とか、親子とか、信頼とか、愛とか、人生の根幹の問いかけを私たちにつきつけるような、そんな大きな危機を、乗り越えようとする家族の実話である。
 アルツハイマーに冒された妻とアメリカ人の夫との夫婦愛を描いた初監督作品『ユキエ』の上映運動のなかで、原作「忘れてもしあわせ」と著者・小菅もと子さん、義母のマサ子さんに出会い、映画化を決意した松井監督。小菅さん一家の住む愛知県豊明市の市民運動、映画製作実行委員会の組織、『折り梅』応援団の結成……と、資金集めから撮影協力まで、数多くのエネルギーが結集したこの作品。このうねりに身をまかせてみて下さい。 (雅)

大河の一滴
2001年/『大河の一滴』製作委員会製作/東宝配給/1時間53分
 
監督=神山征二郎
脚本=新藤兼人
原作=五木寛之
撮影=浜田毅
音楽=加古隆
美術=中澤克巳
編集=川島章正
出演=安田成美、渡部篤郎、セルゲイ・ナカリャコフ、倍賞美津子、三國連太郎
 
大河の一滴
 
[ストーリー]
 小椋雪子(安田)は故郷・金沢を離れ東京で輸入雑貨店に勤める独身女性。ロシア旅行で知り合ったロシア人青年ニコライ(セルゲイ)が“トランペット奏者”としての成功を夢見て来日、雪子と再会するところから物語は始まる。心踊る雪子に金沢で暮らす父・伸一郎(三國)が倒れたとの一報が届く。彼は末期の肝臓ガンであった……。ロシア、金沢を舞台に余命幾ばくもない父親とその娘の絆を軸に、雪子をめぐる愛の物語が展開されていく。
 
[コメント]
 この映画には原作者五木寛之の人間の生と死、そして愛のかたちをとおして、いま私たち日本人が見失っている大事なものを、映像としてふりかえってみたいというひそかな思いがこめられており、効果的に映し出される海、また世界No.1とも言われる名手セルゲイ・ナカリャコフの美しいトランペットの音色に、観る者の心は引き込まれていく。そして観終わった後には自分の恋愛、家族、そして原作の「人はみな大河の一滴……」という言葉について深く考えさせられた。また、安田成美をはじめとした豪華な俳優陣の演技も見所のひとつであろう。特に、渡部篤郎は、雪子にふりまわされながらもサポートし続ける“平凡”な幼なじみ・昌治を好演している。バブル崩壊後の長引く不況や、不安定な世界情勢のなかで、現状への閉塞感と未来への漠然とした不安感から抜け出せない、21世紀の私たち日本人への提言として、重く、手ごたえのある映画である。 (未)

●ゲストの紹介
松井 久子(まつい ひさこ)監督

 1946年東京都出身。早稲田大学演劇科卒業の後、雑誌のフリーライター、俳優のマネージャーを経て、39歳の時テレビ番組の製作会社エッセンコミュニケーションズを設立。数十本に及ぶテレビドラマ、ドキュメンタリーのプロデューサーとして活躍。98年、企画から公開まで5年の歳月をかけて製作した『ユキエ』で映画監督デビューを果たし、日本映画製作者協会フィルムフェスティバル97最優秀新人監督作品賞ほか6つの映画賞を受賞。一男の母。
 
吉行 和子(よしゆき かずこ)氏

 1953年東京都出身。女子学院高校卒業後、劇団民芸附属水品演劇研究所へ。56年、舞台「アンネの日記」で鮮烈にデビュー。69年民芸を退団しフリーとなり、舞台、映画女優として「少女仮面」『愛の亡霊』(78年)など話題作に主演。その他「3年B組金八先生」などテレビドラマのレギュラー作品も多数。さらに、女優活動以外でも、兄で作家の吉行淳之介氏とのことを綴った「兄・淳之介と私」をはじめ、著書も多数。
 
聞き手:北川 れい子 (きたがわ れいこ)氏

 東京中野生まれ。映画評論家。70年代初め、「映画芸術」の小川徹編集長に知遇を得たのをきっかけに映画批評を書き始め、各誌紙に精力的に執筆。国家公務員を85年に退職し文筆業専業に。「週刊漫画ゴラク」誌の日本映画評が連載900回を超えるほか、ミステリー評なども。猫5匹が同居。