スクリーンできらめくヒロイン像

11月24日 「スクリーンできらめくヒロイン像」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
11:30−13:25
13:25−13:55

14:30−16:21
16:21−16:55

17:20−18:57
18:57−19:30
ココニイルコト
ティーチ・イン
 ゲスト:長澤雅彦監督、聞き手:北川れい子氏(映画評論家)
ターン
ティーチ・イン
 ゲスト:平山秀幸監督、牧瀬里穂氏、聞き手:北川れい子氏(映画評論家)
東京マリーゴールド
ティーチ・イン
 ゲスト:市川準監督、田中麗奈氏、聞き手:北川れい子氏(映画評論家)

ココニイルコト
2001年/『ココニイルコト』パートナーズ製作/日本ヘラルド映画配給/1時間55分
 
監督・脚本=長澤雅彦
脚本=三澤慶子
原案=最相葉月(「なんといふ空」中央公論新社刊)
撮影=藤澤順一
美術=富田麻友美
音楽=REMEDIOS
編集=掛須秀一
出演=真中瞳、堺雅人、中村育二、黒坂真美、子市慢太郎
 
ココニイルコト
 
[ストーリー]
 東京の広告代理店に勤めていた駆け出しのコピーライター、相葉志乃(真中)は、ある日不倫関係にあった上司の夫人から手切れ金を渡され、大阪支社に飛ばされた。無気力になっていた志乃の前に現れたのは、新しい職場に同時期に採用された前野悦朗(堺)。彼との出会いを通じて、生きる楽しさを再び取り戻していく。
 
[コメント]
 仕事にも恋愛にも見捨てられ、居心地の悪い転勤先で無気力に日々を消化している志乃の前に現れた前野が、その後の志乃に再び生きる楽しさを教える。というところまではありきたりなストーリーであるが、前野は重い心臓病を患っていて、結局最後は志乃の前から姿を消してしまう。前野は特別、何か大々的に楽しいイベントを志乃に用意しているわけではなく、面白い骨董屋、自分の汚い部屋など日常のちょっとした楽しさを、志乃と共有していただけだった。そしてとてもだらしない人間であり、すべてのことを「まぁええんとちゃいますか」という口癖で、問題が解決されないままになんとなく過ごしている。仕事に熱心である志乃は、今まで見えてこなかった、目の前にゆっくり流れる日常に気づき、ここ大阪にいることも悪くないなぁと思い、そこでゆっくり頑張っていくことを決意する。
 そんなに、人生頑張って送らなくてもいいのかもしれない、と今の疲れた人たちに対する癒しの作品であるように感じた。そして生きていること「ココニイルコト」が大事だということにも気づかされた。 (朋)

ターン
2001年/『ターン』プロジェクトチーム製作/アスミック・エース配給/1時間51分
 
監督=平山秀幸
原作=北村薫(新潮文庫刊)
脚本=村上修
撮影=藤澤順一
美術=中澤克巳
音楽=ミッキー吉野
編集=奥原茂
出演=牧瀬里穂、中村勘太郎、倍賞美津子、北村一輝、柄本明
 
ターン
 
[ストーリー]
 小学校教師の母と暮らす27歳の銅版画家、真希(牧瀬)。ある日、車で急いでいる時トラックとの交通事故に遭ってしまう。ところが、次の瞬間に気づいてみると、自宅の居間で眠りから覚めたところだった。その日からひとりぼっちの日々がはじまった。しかも、事故に遭った午後2時15分を過ぎると前日同時刻にターンしてしまう。そんな時、ひとりぼっちの真希に電話がかかってきた……。
 
[コメント]
 本作は、北村薫の「時と人の3部作」の第2作、「ターン」が原作となった物語である。原作における、主人公のどうしようもない孤独感や、何をやってもまた元に戻ってしまう徒労感を、人が1人もいない新宿の街角、また真希の行動を丁寧に描くことで、原作とはまた違った寂寥感、静寂感が漂う魅力的な映画となっている。
 この映画は、本当に静かな映画である。もちろん、人が一人もいない、というよりも生き物(植物は別)が主人公以外存在しないからであるが。しかし、そんな世界での孤独から這い出ていくための希望、また家族や他の人との関わりへの期待、そんな主人公、真希の持つ生きていこうとする気持ちが、物語が進むにつれ、静かに、そして強く感じられてくるのである。観終わったあとも、静かな希望や人のやさしさが心に残る、心地よい作品である。真希の最後の言葉がなかなか良いのであるが、それは観てのお楽しみ。
 この機会に、北村薫の他の2作、「スキップ」と「リセット」も読むことをお薦めします。 (上)

東京マリーゴールド
2001年/『東京マリーゴールド』製作委員会製作/オメガ・エンタテインメント配給/1時間37分
 
監督・脚本=市川準
原作=林真理子(「東京小説」収録、紀伊国屋書店刊)
撮影=小林達比古
美術=間野重雄
音楽=周防義和
編集=三條和生
出演=田中麗奈、小澤征悦、斉藤陽一郎、寺尾聰、樹木希林、石田ひかり
 
東京マリーゴールド
 
[ストーリー]
 21歳のエリコ(田中)は、彼氏にふられたばかり。退屈な毎日を送っていたが、ある日合コンでタムラ(小澤)と知り合う。しかしタムラには留学中の恋人がいた。しかし自分の気持ちに気付いたエリコは、恋人が帰ってくるまでの1年間だけタムラと付き合うことにした。タムラの存在がどんどん大きくなっていくエリコとは対照的に、あくまで淡々とした態度で接し続けるタムラ。彼の心が見えずに疲れ果てたエリコは、ふとしたことから何かに気付いて……。
 
[コメント]
 ゆったりとした時間の流れ。作品全体を包む空気のあたたかさ。それらに浸りながらずっと観ていたかったのに、いつの間にかそうも言っていられない心持ちになってしまったのである。
 なにがそのようなふうに思わせるのかと観終わって考えたとき、そういえばエリコとタムラのことはずいぶんと気になっていたなと気付き始めた。彼女のいるタムラとそれでも交際を始めてしまうエリコの気持ちや、ふたりが交わす他愛もないごく普通の会話(もっとも、この会話はもちろん作品に引き込まれる要素のひとつであるほどに魅力的だ)など、気になったところはいろいろあったのであろうが、それよりもふたりが見せる表情、この言葉にできないほどの微妙な表情が気になって仕方がなかったのだ、と気付いた。
 タムラとのデートで楽しそうにしていたエリコの表情が、季節の移り変わりによって表情を変える東京の町並のように変化していく。淡々と付き合っていたはずのタムラの表情も、別れの近づきとともに大きく変化する。そんなふたりの表情が、いつも雰囲気に浸かりながら観ていたいと願う私の心の奥底を揺さぶっていたのである。そのような作品に出会えて今年も幸福であった。 (大)

●プロフィール
真中 瞳(まなか ひとみ)氏

 1979年大阪府生まれ。バラエティ番組を中心にテレビで活躍し、99年5月〜2000年1月に「進ぬ! 電波少年」にレギュラー出演し、コーナー企画で核シェルター生活やヒッチハイクを敢行。その後「ニュースステーション」に毎週金曜日に登場、スポーツキャスターとしてお茶の間の人気を集める。「編集王」(00年)で連続ドラマ初出演。その後も「ハンドク」(01年)とドラマ出演のほか、ラジオ、CMとその活躍の場を広げている。今回、映画初出演にして初主演という大抜擢を受けてロングヘアをばっさり切り、堂々と大役を果たし、本作において第5回山路ふみ子映画賞、第11回日本映画批評家大賞の新人女優賞の受賞がすでに決まっている。

●ゲストの紹介
長澤 雅彦(ながさわ まさひこ)監督

 1965年秋田県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、CM制作会社に入社。その後、ディレクターズカンパニーを経てフリーに。これまでに、永瀬正敏主演、F・フリドリクソン監督の米・アイスランド合作映画『コールド・フィーバー』(95年)でチーフ助監督、井筒和幸監督の『突然炎のごとく』(94年)でアソシエイトプロデューサー、そして岩井俊二監督の『Undo』『Love Letter』(共に95年)と三枝健起監督の『MISTY』(97年)でプロデューサーを務めた。2000年には、篠原哲雄監督の『はつ恋』でオリジナル脚本を担当。その経験と才能はすでに多くの認めるところであり、今回、念願の監督に迎えられた。
 
牧瀬 里穂(まきせ りほ)氏

 1971年福岡県生まれ。90年に相米慎二監督作『東京上空いらっしゃいませ』で映画デビュー。吉本ばなな原作・市川準監督作『つぐみ』(90年)と併せて、キネマ旬報賞など15の新人賞と同時に日本アカデミー賞主演女優賞も獲得。また、92年の神山征二郎監督作『遠き落日』では日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞している。テレビも横溝正史シリーズ「悪魔の手毬歌」他 6作品(90〜97年)「二十歳の約束」(92年)「西遊記」(94年)などに主演、最新作は「北条時宗」(2001年)。舞台も、「飛龍伝 '92」(92年)「狸御殿」(96年)「カルメンと呼ばれた女」(97年)「Right Eye」(98/99年)などに出演。そのほか、ラジオ・CMや歌手活動など幅広いジャンルで活躍を続けている。
 
平山 秀幸(ひらやま ひでゆき)監督

 1950年福岡県北九州市生まれ。73年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。長谷川和彦、加藤泰、藤田敏八監督らの助監督を務める。90年に『マリアの胃袋』で監督デビュー。92年に『ザ・中学教師』で日本映画監督協会新人賞を受賞。94年には<J・MOVIE・WARS>の『よい子と遊ぼう』で民間放送連盟優秀賞を受賞。そして、95年に手掛けた『学校の怪談』が大ヒットとなり人気シリーズへと発展、続編と4作目を担当した。98年には『愛を乞うひと』で国内の映画賞を総なめにし、モントリオール世界映画祭では国際批評家連盟賞を獲得した。 また本作『ターン』ではプチョン国際ファンタスティック映画祭 最優秀監督賞を受賞。2002年には『笑う蛙』(原作「虜」藤田宜永・著)の公開が予定されている。
 
田中 麗奈(たなか れな)氏

 1980年福岡県生まれ。デビューとほぼ同時に始まったサントリーのCM「なっちゃん」などで一躍人気者になる。映画デビューは『がんばっていきまっしょい』(98年)で、そのフレッシュな演技が高い評価を得て同年の日本アカデミー賞新人賞をはじめとする主要映画新人賞を独占する。以後、あくまで映画を中心に活躍する若手本格派女優として『GTO』(99年)『はつ恋』(2000年)『ekiden[駅伝]』(00年)、インターネットにて配信された"click-cinema"『好き』(00年)と、次々と話題作に出演。CMでも今一番旬の女優として高い注目をあびている。今回の作品は、味の素「ほんだし」のCMを演出した市川準監督が、彼女の雰囲気にほれ込んで実現したもの。
 次回作としてはくぶんの初監督作品『玩具修理者』の公開が控えている。
 
市川 準(いちかわ じゅん)監督

 1948年東京都生まれ。高校卒業後、原宿学校や美学校で映像を学ぶ。75年CF制作会社に入社。81年、退社後フリーとなり、「禁煙パイポ」「NTTカエルコール」「金鳥タンスにゴン」、「三井のリハウス」、トヨタ「デュエット」など、その時代を代表するCMを演出してきた。87年に『BU・SU』で映画監督としてデビュー。『東京兄妹』(95年)で芸術選奨文部大臣賞受賞、『東京夜曲』(97年)では第21回モントリオール世界映画祭最優秀監督賞などを受賞した。その後も独自の世界を確立し、つぎつぎと作品を発表。演出をてがけた98年から放送された味の素“ほんだし”のコマーシャルを発端に今回の作品はうまれた。
 
司会:北川 れい子 (きたがわ れいこ)氏

 東京中野生まれ。映画評論家。70年代初め、「映画芸術」の小川徹編集長に知遇を得たのをきっかけに映画批評を書き始め、各誌紙に精力的に執筆。国家公務員を85年に退職し文筆業専業に。「週刊漫画ゴラク」誌の日本映画評が連載900回を超えるほか、ミステリー評なども。猫5匹が同居。