日本映画をどうするのか '02

11月23日 「日本映画をどうするのか '02」 (やまばとホール)

●Time Table●
10:30−10:45
10:45−12:58
13:30−15:21
15:21−15:50

16:10−18:28
18:45−20:58
オープニング
突入せよ!『あさま山荘』事件

トーク
 篠原哲雄監督、(聞き手)金原由佳(映画ライター)
KT
ピカレスク 人間失格

突入せよ! 「あさま山荘」事件
2002年/あさま山荘事件製作委員会(東映、TBS、アスミック・エース、産經新聞社)製作/東映配給/2時間13分
 
監督・脚本=原田眞人
原作=佐々淳行(「連合赤軍『あさま山荘』事件」(文藝春秋刊))
撮影=阪本善尚
美術=部谷京子
音楽=村松崇継
編集=上野聡一
出演=役所広司、宇崎竜童、椎名桔平、天海祐希、伊武雅刀、藤田まこと
 
[ストーリー]
 1972年2月、連合赤軍のメンバーが真冬の軽井沢「あさま山荘」に管理人の妻を人質に立てこもった。
 事件解決のため警察庁から雪の長野県に派遣された佐々は、面子にこだわる長野県警と、長野の激寒をも相手にしながら救出作戦を敢行することになる……。
 
[コメント]
 この映画は実際に「あさま山荘」事件で警察側で指揮を執った佐々淳行氏の著作「連合赤軍『あさま山荘』事件」を原作としている。
 そのためか犯人側の視点は全くと言って良いほど描かれていない。むしろ長野県警と警察庁の対立などの警察内部での軋轢や、主人公を始めとする実際に事件に携わった警官たちが現場で混乱する様子などが描かれている。彼らは決してヒーローであったわけではなく、個々の人間として事件に関わり、時に勇気ある姿を見せてくれる。
 連合赤軍側が詳細に描かれていない分、この作品は思想的なものから逃れ、むしろエンターテインメント性の強いものとなっていることも事実である。
 また、本作品はフィルムではなく全編ビデオによる撮影が行われている。雪中での迫力ある撮影を成し遂げた新開発のビデオカメラとカメラマンの撮影技術もこの映画の見所のひとつだ。 (治)

2002年/映画『命』製作委員会(TBS、東映、小学館、TOKYO FM、朝日新聞社)製作/1時間51分
 
監督=篠原哲雄
原作=柳美里(「命」「魂」「生」「声」(小学館刊))
脚本=大森寿美男
撮影=浜田毅
美術=小澤秀高
音楽=村山達哉
編集=冨田功、冨田伸子
出演=江角マキコ、豊川悦司、筧利夫、麻生久美子、寺脇康文、樹木希林
 
[ストーリー]
 作家柳美里(江角)は、東京の医療センター・産科病棟の診察室で、お腹の子どもの映像を見ていた。彼女は妊娠していたのである。しかし、子どもの父親である男性は妻帯者。生むべきかどうするか迷った彼女は、作家としての自分の才能を見出し育ててくれた恩人であり、またかつての恋人でもあった劇団主宰者の東由多加(豊川)を訪ねる。だが、そのとき東は手の施しようのない癌に侵されていた。
 その日から柳と東、二人三脚の闘病生活が始まった……。
 
[コメント]
 柳美里という実在の作家が、自分の体験を赤裸々に語った小説の映画化というと、少々センセーショナルな私生活の内輪を描いたものというイメージが先行する。
 愛する人の死と新しい命の誕生という組み合わせをそのスキャンダラスなシチュエーションのなかでどう受けとめるか、人によって様々であろう。
 柳美里という1人の作家の存在、そして東由多加という劇作家で強烈な才能の持ち主の行き方は、鮮烈に観客に迫ってくる。それはあたかも我々に<生きる>ことの重みを問いかけているようだ。 (水)

KT
2002年/日韓合作/『KT』製作委員会製作/シネカノン配給/2時間18分
 
監督=阪本順治
原作=中薗英助(「拉致—知られざる金大中事件」(新潮文庫刊))
脚本=荒井晴彦
撮影=笠松則通
美術=原田満生
音楽=布袋寅泰
編集=深野俊英
出演=佐藤浩市、キム・ガプス、チェ・イルファ、筒井道隆、ヤン・ウニョン、香川照之、柄本明、原田芳雄
 
[ストーリー]
 1973年、韓国野党のリーダーである金大中は朴大統領の反対勢力への弾圧のため、日米での亡命生活を余儀なくされていた。
 韓国大使館の書記官金車雲は、日本滞在中の金大中を拉致せよとの命を受ける。
 当時朝鮮半島関連の調査に携わっていた自衛隊員富田(佐藤)は、はからずも拉致計画への協力をすることになるが……。
 
[コメント]
 この映画は1973年に起きたいわゆる「金大中事件」を描いた作品である。
 事件後様々な出来事を経て、現在韓国大統領に就任中の金大中氏を始め、関係者の多くは存命しており、そのためか、この映画は拉致事件がどのように発生し、そして解決したかという歴史的な「真実」を描くことを目的とせず、むしろ拉致事件を背景にして、それぞれの「国家」のために事件にかかわらざるを得なかったふたりの男と、彼らの周辺で様々な形で事件に関った多くの人々の葛藤や悲しみを描いている。
 結果的にふたりの男が思い描いたそれぞれの未来は、更に大きな力に翻弄されてしまうわけだが、その「未来」と、日韓共催のワールドカップサッカーが開催された「現在」は果たしてどちらが幸福なものであるのだろうか?
 それはラストシーンの解釈に委ねられることかも知れない。 (治)

ピカレスク 人間失格
2002年/グランプリ製作/ジーピー・ミュージアム配給/2時間13分
 
監督=伊藤秀裕
原作=猪瀬直樹(「ピカレスク太宰治伝」(小学館刊))
脚本=山田耕大
撮影=安藤庄平
美術=山崎輝
音楽=大島ミチル
編集=矢船陽介
出演=河村隆一、佐野史郎、さとう玉緒、緒川たまき、朱門みず穂、裕木奈江、とよた真帆
 
[ストーリー]
 5人の女性を通して、太宰治(河村)の生き方を描く。
 実家からの除籍、文壇への道が開けないことなどで絶望的となり心中事件を起こすが、その一方で新設されたばかりの芥川賞に望みをかける。やがて結婚し、その頃から作家としての人気を得て、女性関係も複雑になっていく。そんななか彼の前に現れた山口冨美栄(とよた)は、太宰を信じ全身全霊で応え支える。冨美栄との愛の行き着いた先は……。
 
[コメント]
 この映画の題名『ピカレスク』とは、悪漢という意味なのだそうだ。
 太宰治を、「日本の文壇に名を連ねる作家」ととらえるぐらいで、とくに興味もなかった。あるとすれば、玉川上水での心中の部分ぐらいだった。しかし、角度を変えた視点からみる太宰治という作家は、私たちの常識外の人生を送った人なのかもしれないと思った。そして、この映画で描かれている太宰治が、なぜか身近に感じられてしまった。これは、人間の持っている内面に悪の部分があるということなのだろうか。自己中心であることは、自分に嘘のない生き方でもあるのかもしれない。しかし、それを実行することは難しい……。
 河村隆一さんは迫真の演技で、太宰治本人ではないかと思われるほど。また、原作者の猪瀬直樹さんも太宰治の兄役で出演しており、テレビでの猪瀬さんとはひと味違って、楽しませてくれる。 (紀)

●プロフィール
原田 眞人(はらだ まさと)監督

 1949年、静岡県生まれ。高校卒業後、映画の勉強のため渡米。79年『さらば映画の友よ・インディアンサマー』で監督デビュー。その後、ハリウッドでの映画製作を目指して、日米を往復する生活に。シャープな映像に定評があり、『KAMIKAZE TAXI』(95年)、『バウンズ KoGALS』をはじめ、内外の注目を集めるだけでなく、欧米でも公開されて高い評価を得ている。99年の『金融腐触列島 呪縛』では日本銀行界経営危機の内幕を一級のエンターテインメントに仕上げ、大ヒット。また、2001年の『狗神』はベルリン国際映画祭のコンペティションに選出された。
 
阪本 順治(さかもと じゅんじ)監督

 1958年、大阪府生まれ。89年『どついたるねん』で監督デビュー。以後、『鉄拳』(90年)、『王手』(91年)、『トカレフ』(94年)、『ビリケン』(96年)、『傷だらけの天使』(97年)など、ダイナミックで男性的なストーリー展開と緻密な映像構築で日本映画界をリードする。藤山直美を主演に迎えた『顔』(2000年)で新境地を開き、その年の映画賞を総ナメにする。『KT』で、阪本監督念願の企画を実現させた。
 
伊藤 秀裕(いとう ひでひろ)監督

 1948年生まれ。東京教育大学卒業後、コピーライターを経て74年に日活に入社。助監督として、神代辰巳、西村昭五郎に師事し、79年『団地妻・肉体の陶酔』で監督デビュー。81年日活退社後、91年映像企画制作会社・エクセレントフィルムを設立。監督・脚本・プロデュースとすべてをこなしている。主な作品として、『男たちのかいた絵』(95年)、『柘榴館』(97年)などがある。

●ゲストの紹介
篠原 哲雄(しのはら てつお)監督

 1962年東京都出身。助監督時代に、自主製作映画『RUNNING HIGH』がぴあフィルムフェスティバル・アワード ’89にて特別賞を受賞。その後も自主製作映画で初の16mm作品『草の上の仕事』(93年)を撮り、神戸国際インディペンデント映画祭にてグランプリを受賞。この作品が日米で劇場公開され、監督デビュ—となる。その後、長編初監督作品『月とキャベツ』(96年)が高い評価を受け、以降『洗濯機は俺にまかせろ』(99年)『はつ恋』『死者の学園祭』(00年)などを手がける。2002年は『命』『木曜組曲』と公開作が続く。
 
聞き手:金原 由佳(きんばら ゆか)氏