ぼくらの生きかた

12月1日 「ぼくらの生きかた」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
10:40−12:55
13:30−15:31
15:45−16:35


16:50−18:13
ハッシュ!
火星のカノン
トーク[21世紀的恋愛風景]
 橋口亮輔監督、高橋和也氏、風間志織監督、久野真紀子氏、
 司会:北川れい子氏(映画評論家)
青い春

ハッシュ!
2001年/シグロ製作・配給/2時間15分
 
監督・脚本・編集=橋口亮輔
撮影=上野彰吾
美術=小川富美夫
音楽=Bobby McFerrin
出演=田辺誠一、高橋和也、片岡礼子、秋野暢子、冨士眞奈美、光石研、つぐみ
 
[ストーリー]
 付き合い始めた直也(高橋)と勝裕(田辺)。平穏で幸せな2人の前に、人との関わりをあきらめていた朝子(片岡)が現れ、勝裕をゲイと知った上で相談を持ちかける。「つきあってくれとか、結婚とか、そんなんじゃなくて子供だけほしいの」。朝子の発言は、直也と勝裕、個々の親や親戚の心に大きな波紋を起こしていく。そんななかで3人それぞれの人生をどう選びとっていくか、決断するときを迎えていた。
 
[コメント]
 人はひとりでは生きていけない——言い古された言葉だが、実際そのとおりだと思う。家族、友人、恋人、様々な人とのかかわりを求めて、期待したりあきらめたり模索しながら関係性を見出そうとする。その先に自分の望む関係のあることを信じて、あらゆる現実的問題を克服して新しい関係の可能性を探っていくのだ。
 弱い自分を隠すために他者への攻撃を続ける女性「朝子」を、片岡礼子が突き刺さるような真に迫る演技で見せ、そんな朝子と対峙しながらも心を通わせていくゲイの「直也」を高橋和也が優しく大きく包むように演じている。そして、そんな2人に挟まれながら自分に自信を持ち始める勝裕を田辺誠一が繊細に演じた。そんな3人がみせるゲイであるカップルと人間関係に疲れた女性の新しい家族の形。この映画でみせた新しい人間同士の関係は、抱えている悩みがとんでいくような自分の今後が明るくなるような、「人生ってきっと捨てたもんじゃないよね」と楽しい気分にさせてくれる。スポイト1本で子供ができちゃうかもしれない関係——かなりアリでしょう。 (佐(美))

火星のカノン
2001年/アルゴ・ピクチャーズ、アンフィニー、バップ製作/アルゴ・ピクチャーズ配給/2時間1分
 
監督=風間志織
脚本=小川智子、及川章太郎
撮影=石井勲
美術=松本知恵
音楽=阿部正也
編集=島村泰司
出演=久野真紀子、小日向文世、中村麻美、KEE
 
[ストーリー]
 30歳目前の絹子(久野)は、実らない恋愛をしている。家族のいる公平(小日向)と会えるのは火曜日だけ。別れなければと思いながら、公平が好きで別れられずにいる。ある日、以前のアルバイト先の後輩、聖(中村)と再会する。聖は何かと絹子の世話を焼き、ことあるごとに恋人と別れろ、と言う。聖は絹子のことが好きなのだ。でも気持ちが通じず、反って拒否されてしまう……。
 
[コメント]
 ただの恋愛映画。と風間監督は舞台挨拶でこうおっしゃっていました。ただの恋愛映画。この作品では、いわゆる普通の恋愛だけではなく、不倫や同性愛といったいろいろな恋愛が描かれていて、確かに恋愛映画ではあります。でも、“ただ”の恋愛映画です、そうおっしゃった風間監督の言いたかったことは、やはり作品にきちんと描かれているのです。家庭を持つ公平を好きな絹子もその絹子を好きな聖も、相手といるときは幸福で、相手といられないときは寂しく切なくなる。そんな心持ちはどんな恋愛をしていても同じでしょう? そう問いかけられているようでした。
 それにしてもこの作品の俳優たちは、とても素敵です。好きな人といるときの幸せそうな表情、好きな人といられないときの切ない表情。そんな表情を見ていると、彼らは本当に恋愛をしているかのようです。そしてまた、どのような場面も、とてもあたたかな空気感に包まれています。そんな彼らの「ただの恋愛」を、いつもしていたい、と心の底から思ってしまう、そんな作品です。 (徳)

青い春
2001年/『青い春』製作委員会製作/ゼアリズエンタープライズ配給/1時間23分
 
監督・脚本=豊田利晃
原作=松本大洋(小学館刊「週刊ビックコミックスピリッツ」)
撮影=笠松則通
美術=原田満生
音楽=上田ケンジ
出演=松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、大柴裕介、山崎裕太
 
[ストーリー]
 新学期から3年生になる久篠、幼なじみの青木と、仲間たち。屋上で彼らが楽しむのは、柵の外に立ち、手をたたいた回数を競う、スリルなベランダゲーム。一番回数の多い者が、勝者として学校を仕切るのが習わしだ。そこで8回の新記録を出した久篠だが、“ゲーム”も“学校を仕切る”ということも、無意味でどうでもいいことだった……。
 
[コメント]
 原作者である松本大洋氏は、本のあとがきで、「青春とはやはり青いのだと思います。それはたぶん、夜明け前、街の姿がおぼろげにあらわれる時の青色なのだと思います。」と記している。それに対して、本作品の監督である豊田利晃氏が創り上げた世界は、圧倒的に「黒」の印象が強い。スプレーで学校を、敵を、自分さえも真っ黒に染めていく不良少年たち。訳のわからない衝動を、学校という小さな鉄筋コンクリートの塊のなかで、爆発させていく彼らの姿は痛ましいほどでもある。そこは青なんて生温い色なんかじゃなくて、抑えきれない真っ黒な闇に彩られた世界だ。何を信じるべきか、不透明でなかなか探り出せない混沌とした空間のなかで、真っ黒に塗り固められた校舎の、あの一瞬の幻影だけは、少年たちの真実だったのかもしれないと思う。
 小さな世界でしか殴り合いを繰り返せない少年たちは、決して格好良いものではない。けれど、その“カッコ悪さ”こそが「青春」なのかもしれない。 (綾)

●ゲストの紹介
橋口 亮輔(はしぐち りょうすけ)監督

 高校時代から8mm映画を撮り始める。1989年、8mm映画『夕べの秘密』でPFFアワードグランプリを受賞。92年、初の劇場公開作品『二十才の微熱』は劇場の記録を塗り替える大ヒットを記録した。ベルリン国際映画祭など25カ国の映画祭にも正式招待され、高い評価を得ている。95年、『渚のシンドバット』ではさらに大きな共感を呼び大ヒット。ロッテルダム映画祭、ダンケルク映画祭、トリノ・ゲイ&レズビアン映画祭ではグランプリに輝き、国内でも数々の賞を獲得した。また、小説、エッセイ執筆の他、舞台、テレビ、映画の脚本も多く手掛ける。その他、テレビドラマに出演するなど活躍の場をひろげている。
 
高橋 和也(たかはし かずや)氏

 1969年生まれ。88年に結成されたロックバンド「男闘呼組」のベースとヴォーカルを担当し、爆発的な人気を得る。同年、映画『ロックよ静かに流れよ』『フライング飛翔』に主演。93年「男闘呼組」解散後は高橋一也から高橋和也へと改名し、俳優、またミュージシャンとしてソロ活動に入る。数多くの映画や舞台に出演し、さまざまな役柄を見事に演じる実力は広く認められている。代表作は、映画『八つ墓村』『復讐の天使・KAMIKAZE TAXI』『マルタイの女』『おしまいの日』、舞台「エンジェルス・イン・アメリカ」「泣き虫なまいき石川啄木」「蜘蛛女のキス」など。橋口監督作品『渚のシンドバット』では音楽を担当した。
 
風間 志織(かざま しおり)監督

 1966年、埼玉県狭山市生まれ。8mm作品『お楽しみは悲劇から』を桐朋女子高校1年生の時に文化祭のために撮り、映画製作の楽しさに魅せられる。翌年、若干高校2年生にして、8mm作品『0x0(ゼロカケルコトノゼロ)』が長崎俊一監督の推薦を受け、84年度PFFに入選、天才少女の出現と騒がれる。第1回PFFスカラシップを獲得し、高校卒業時、16mm短編『イみてーしょん、インテリあ。』を監督。22才で撮った8mm長編作品『メロデ』はレイトショー公開されて高い評価を得た。準備に3年、撮影に8ヶ月かけた『冬の河童』(95)は、ロッテルダム国際映画祭TIGERAWARD(グランプリ)を受賞するなど海外でも高い評価を得た。また近年はTVドラマ「恋した。/バジンチチ・ラプソディ」の監督や『非・バランス』(2001年、冨樫森監督)の脚本を手がけた。
 
久野 真紀子(くの まきこ)氏

 1967年2月21日生まれ。群馬県前橋市出身。92年黒沢清監督の『地獄の警備員』で主演デビュー。黒沢監督が久野の美貌に惚れ込みオーディションで抜擢したという。その後も『俺達は天使じゃない』(93、三池崇監督)『XX(ダブルエックス)美しき狩人(ハンター)』(94、小沼勝監督)といったVシネマや、『マリーの獲物(ゲーム)』(96、吉田啓一郎監督)、『野獣死すべし復讐策』(97、広西貫人監督)といった映画で主演・ヒロインを演じ、またサスペンスドラマの出演も多数。風間監督作品には、『冬の河童』に続く出演となった。
 
小日向 文世(こひなた ふみよ)氏(予定)

 1954年1月23日生まれ。北海道出身。東京写真専門学校を卒業後、77年オンシアター自由劇場に入団。串田和美演出の「康人遁走曲」や、佐藤信演出の「ハムレット」で主役を演じるなど、96年の同劇団解散まで中核的存在として活躍する。その一方で群を抜く演技力と表現力は、映画・TVからも注目を集め、88年串田和美監督の『上海バンスキング』で映画デビュー後、『眠る男』(96、小栗康平監督)、『マルタイの女』(97、伊丹十三監督)、『愛を乞うひと』(98、平山秀幸監督)、『風花』(00、相米慎二監督)などに出演し、2001年公開の『非・バランス』では主演の菊役を演じ注目を集める。また、TVドラマ「HERO」や舞台「オケピ」(三谷幸喜演出)など話題作にもひっぱりだこの存在。
 
司会:北川 れい子(きたがわ れいこ)氏

 東京中野生まれ。映画評論家。1970年代初め、「映画芸術」の小川徹編集長に知遇を得たのをきっかけに映画批評を書き始め、各誌紙に精力的に執筆。国家公務員を85年に退職し文筆業専業に。「週刊漫画ゴラク」誌の日本映画評が足掛け20年を迎え、連載1000回を超えるほか、ミステリー評なども。猫5匹が同居。