今を斬る! 新鋭・気鋭作家特集

11月24日 「今を斬る! 新鋭・気鋭作家特集」 (ベルブホール)

●Time Table●
12:00−13:58
14:15−15:30
15:45−17:33
17:50−19:32
BORDER LINE
IKKA:一和
蛇イチゴ
- 特別先行プレビュー -
のんきな姉さん他短編

BORDER LINE
2002年/PFFパートナーズ=ぴあ、TBS、レントラックジャパン、TOKYO FM、日活、IMAGICA製作/ぴあ株式会社 PFF事務局配給/1時間58分
 
監督・脚本=李相日
脚本=松浦本
撮影=早坂伸
編集=青山昌文
出演=沢木哲、前田綾花、村上淳、光石研、麻生祐未
 
BORDER LINE
 
[ストーリー]
 勤務中もビール片手のタクシー運転手・黒崎(村上)は、自転車で飛び出してきた高校生・周史(沢木)をはねてしまう。家が北海道だと言い張る彼を送るはめになったが、実は周史はある事件で逃走中だった。ヤクザの宮路(光石)、宮路と生き別れの娘はるか(前田)、息子のイジメで悩む主婦の美佐(麻生)、この5人の人生が少しずつ交差していく「親子」がテーマの群像劇。
 
[コメント]
 この映画に出てくる高校生の周史は、岡山で実際に起きた事件がもとになっている。親を殺した後、2週間くらい逃げていたという事件で、監督の李相日さんは「その間どういう気持ちでどんな旅をしたのかに関心があった」と語っている。
 監督は『青〜chong〜』で在日の若者たちの姿を伸びやかなタッチで描き、この『BORDER LINE』はPFFスカラシップを受けての初長編作品になる。映画で描かれている登場人物たちはどこにも行き場がなく、閉鎖した日本社会の中でそれぞれが深い傷を抱えてもがき苦しんでいる。特に主人公の周史は、超えてはならない境界線を越えてしまっている。そこからの修復の旅が東京から北海道へと続く。
 最初から悪意を持っている人はそんなにいないのかもしれない。その境目なんて深いようで本当は浅いものなのかもしれない。劇中で現在日本全体が抱えている問題に直面している主人公たちの心の葛藤を見てそういう気持ちにさせられる。 (小里)

IKKA:一和
2002年/PFFパートナーズ=ぴあ、TBS、レントラックジャパン、TOKYO FM、日活、IMAGICA製作/デイズ製作協力/ぴあ株式会社 PFF事務局配給・宣伝/1時間15分
 
監督・脚本=川合晃
脚本=青木豪
撮影=藤井良久
美術=須坂文昭
編集=普嶋信一
出演=國村隼、秋野暢子、三浦誠己、西興一朗
 
IKKA:一和
 
[ストーリー]
 「祝い事がある日はファミレス集合」そんな今時珍しい家族の慣例行事を行っている太田家。そして今日は次男・勇(西)の二十歳の誕生日を祝うためのファミレス集合。ところがひょんなことから店員や客を人質にとって立てこもる(!)ことに。警察やSATも登場する大騒動に発展、家族4人の秘密も次々とあらわになって、さあどうする太田家!
 
[コメント]
 「んなアホな!」みたいな設定にも疑問を抱かずのめりこんでしまう、勢いのある作品。こてこての、関西人らしいパワフルな雰囲気が、神奈川生まれ神奈川育ちという、こてこての関東人の私にも伝わります。さらに阪神タイガースへの愛がたっぷり。残念ながら、私はプロ野球を全くみないのでわからないのですが、ファンならきっと「わかっとるやんけ!」(?)と叫んでしまうことでしょう。後ろの細かい小物なども凝りに凝っていて、サービス精神旺盛な監督に頭が下がる思いです。二度目には「ウォーリーを探せ」みたいな鑑賞の仕方をしても楽しめるんじゃないでしょうか。劇中の曲も素敵。
 おかん役の秋野暢子さんはやっぱり格好良い。私も将来はあのような母になりたいし、國村隼さんのような渋い旦那さんが欲しい……そんなことをふと考えた、乙女の秋なのでした。 (綾)

蛇イチゴ
2002年/『蛇イチゴ』製作委員会(バンダイビジュアル、エンジンフィルム、テレビマンユニオン、シィースタイル、IMAGICA)製作/ザナドゥー配給/1時間48分
 
監督・脚本=西川美和
プロデューサー=是枝裕和
撮影=山本英夫
美術=磯見俊裕
音楽=中村俊
編集=宮島竜治
出演=宮迫博之、つみきみほ、平泉成、大谷直子、笑福亭松之助
 
蛇イチゴ
 
[ストーリー]
 しっかり者の倫子(つみき)、優しい母(大谷)に働き者の父(平泉)、呆けてはいるが明るく楽しい祖父(松之助)。ごく平凡で、平穏で、そんな幸せを誰もが感じている(はずの)明智一家。そんな家族のもとに、勘当され行方不明だった放蕩息子・周治(宮迫)がふらりと帰ってきた。その頃、明智家の平和の裏に隠されていた嘘や欺瞞が、小さな亀裂から噴出そうとしていて……。
 
[コメント]
 厳しい現実や悲しい事実に直面してどうしようもなくなっちゃうと、人間笑っちゃうもんで、これはそんな映画だと思う。作中にはたくさんの人の悪意とか嘘とかが渦巻いているわけだけども、思わず大笑い(もういやらしいくらい狙ったところで爆笑)。そしてだからこそ、余計に胸にがつんとくる。私は家族ってのは、血のつながりがどうのこうのってなことじゃなくて、結局個人の集まりなんだと思ってる。だから、「家族になる」努力を怠っちゃいけないんだと。なので、家族という名のもとで得られると信じている幸せを求めて右往左往する明智一家は、観ていて可笑しくて、切なくて、愛しかったわけなのです。
 小気味良いテンポの脚本も然ることながら、宮迫博之・つみきみほの兄妹コンビ、痴呆の祖父をシニカルに熱演する笑福亭松之助(明石家さんまのお師匠さんです)など、俳優陣の好演も光り輝いているこの作品。さらにカリフラワーズによるファンキーな劇中歌も良いです。 (綾)

のんきな姉さん
2002年/ウォーターメロンカンパニー、トランスフォーマー、オービー企画製作/スローラーナー配給/1時間22分
 
監督、脚本=七里圭
原作=山本直樹「のんきな姉さん」(太田出版『夢で逢いましょう』所収)
   唐十郎「安寿子の靴」
   森鴎外「山椒大夫」より
プロデューサー=磯見俊裕、石毛栄典、宇佐美廉
撮影=たむらまさき
衣装=宮本まさえ
音楽=侘美秀俊
助監督=西川美和
編集=宮島竜治
出演=梶原阿貴、塩田貞治、大森南朋、梓、佐藤允、三浦友和
 
のんきな姉さん
 
[解説]
 ふたりぼっちが見た夢は、
 雪原に花火が上がる夢でした。

 美しく、そして脆いガラスのようなひとりの姉とひとりの弟の愛の物語が誕生した。
 エピソードや物語の時間は前後し、ズレはじめ、そして、最後に雪原の空一面に花火が打ち上げられる。姉と弟。遠い炎のなかに、幼い二人が見失ったもの。両親を失ったあの時から、これは二人が見つづけている夢なのかもしれない。
 監督は、廣木隆一監督などの助監督をつとめ、そのデビューが待ち望まれていた新人監督、七里圭。そして、雪原を、そしてふたりの夢のようなうつつのような物語を見つめる監督の目とも言うべき撮影を名匠、たむらまさきが担当。音楽は、七里監督と短編『夢で逢えたら』でもコンビを組み、室内楽集団カッセ・レゾナントの指揮者、侘美秀俊。カッセ・レゾナントのメンバーとともに、全編にわたり生楽器の音が繊細な映像世界を包み込んでいく。

 「山椒大夫」「安寿子の靴」「のんきな姉さん」……。
 三つの物語からひとりの姉と、ひとりの弟のめぐりめぐる愛の物語は生まれた。

 監督は、廣木隆一監督などの助監督をつとめ、そのデビューが待ち望まれていた七里圭。映画『のんきな姉さん』は、三つの物語から生まれました。ひとつは、森鴎外の名作「山椒大夫」、劇作家・唐十郎が作り出した小説「安寿子の靴」、そして、漫画家・山本直樹のコミック「のんきな姉さん」。この三つの作品は「山椒大夫」からインスピレーションを得て劇作家・唐十郎が「安寿子の靴」を、「安寿子の靴」から漫画家・山本直樹がコミック「のんきな姉さん」へとリレーされてゆきました。七里監督は、この三つの作品をもとに映画『のんきな姉さん』の世界を紡ぎ出したのです。

 公式ホームページ:www.nonkisister.com
 お正月第1弾 テアトル新宿にてレイトショー!

◎同時上映◎ 『夢で逢えたら』
2001年/ウォーターメロンカンパニー、シネマンブレイン製作/スローラーナー配給/20分
 
監督、脚本=七里圭
プロデューサー=磯見俊裕
撮影=高橋哲也
音楽=侘美秀俊
編集=宮島竜治
出演=安妙子、大友三郎
 
[解説]
 こんな切れ切れの思いをかき集めて、ぼくはなにをしようとしているのだろう?
 雪原に花火が上がる夢でした。

 バスで眠っているうちに、ぼくは“どこか”にたどり着いた。よく知っているような、でもぜんぜん知らないような街。長い坂道。揺れるブランコ。ぼくは、ひとりの少女に逢った。誰だろう? よく知っているような、知らないような。彼女の部屋。バスは、ゆっくりと坂道を下っていく。その夜、ひどく熱を出した。ぼくは、またバスに乗るだろう。そして、きっと眠ってしまうんだ……。
七里圭監督によって『のんきな姉さん』に先き立って撮られた短編。全編にわたって音声はなく、二人の男女が何を話しているのかは分からない。二人をとりまく現実の音。そして、忍び込む音楽が、この映画の手がかりとなった。まるで夢の中に迷い込んでしまったような寄る辺ない空間の中で出会う少女との出会いと別れ。少女は、男をよく知っていて、彼のことを慕っているかにみえるが、この言葉のない世界の中では、どうすることもできない……。『夢で逢えたら』は不思議な切なさをたたえた作品となった。

●プロフィール
七里 圭(しちり けい)監督

 1967年生まれ。高校で撮った8ミリ映画が、『ぴあフィルムフェスティバル‘85』で大島渚の推薦により入選。その後、早大に進学しシネマ研究会に所属。OBの高橋洋らの自主製作映画を手伝ううちに、在学中から映画の現場で働くようになる。約10年の助監督経験を経て、監督、及び脚本家としての活動を始める。今年12月中旬、テアトル新宿にて、長編映画『のんきな姉さん』、短編『夢で逢えたら』が、同時公開。最近は、室内楽団とのコラボレーション映像の演出にも力を入れている。
 
メッセージ

 『のんきな姉さん』は新作ですが、撮影したのは2001年、まだ三浦友和さんも、スーパー部長になる前のことです。短編にいたっては、2000年の春。二十世紀の映画です。この数年間は、とてもとても辛い思いをしてきました。今日を迎えられるのは、応援してくれた友人たちのおかげです。ありがとう!
 今回の上映は、おそらく国内では、初めての一般公開だと思います。上映してくださるTAMAの皆さん、そして、観に来て下さるすべてのお客さんに、感謝します。