水橋研二特集

11月30日 「水橋研二特集」 (ベルブホール)

●Time Table●
11:00−11:45
12:00−13:26
13:26−14:00


14:40−16:28
16:45−18:15
18:25−19:15
みつかるまで
自殺マニュアル
トーク
 水橋研二氏、福谷修監督、葉山陽一郎監督(『サル』)
フレンズ
日曜日は終わらない
トーク
 水橋研二氏、橋本直樹監督、司会:斎藤芳子氏(映画ライター)

みつかるまで
2002年/映画美学校製作/16ミリ/45分
 
監督=常本琢招
脚本=藤田一朗、常本琢招
撮影=志賀葉一
音楽=クマガイコウキ
出演=板谷由夏、水橋研二
 
みつかるまで
 
[ストーリー]
 絵を描くことを止めて、電車で居眠りをしている乗客のカバンを盗み続けて一年半の毛利芳美(板谷)。いつものように盗みをはたらき、追ってきた乗客から逃れている芳美と路上でたまたますれ違った小高哲史(水橋)。芳美が気になった哲史は芳美に付きまとうように一緒に行動する。お互いがかけがえのない存在になった頃、二人は別れる運命を辿る。
 
[コメント]
 『みつかるまで』とは、何がみつかるまでなのだろうかと観ていた。かつて美大で絵を描いていた芳美のVTRで語られている「水滴が落ちる一瞬の振動」をもがきながら今の芳美が追い求めている。しかしなかなかキャッチすることができない。キャッチしようとした時はいくらでもあった。作品中に出てくるコップの中に落ちる水滴のデッサンを始めた芳美の姿、電車の窓の曇った部分に何気なく絵を描く芳美の姿。そして最後には自らの血で(その時出た瞬間の血で)一本の木の絵を描き始める。
 芳美を突き動かした哲史との出会いは、それは大きなものであっただろう。哲史が芳美に会話の端々で言う、おせっかいな、けれど非常に愛を感じる言葉。決して大げさにならないその言葉は、芳美の心に確かに刻まれていた。さりげない好演をみせた水橋研二氏に更なる魅力を感じたのは、私だけではないはずだ。 (朋)

自殺マニュアル
2003年/アムモ、ベンテンエンタテインメント企画・製作/ベンテンエンタテインメント配給/1時間26分
 
脚本・監督=福谷修
製作:小田泰之
撮影=岡雅一
VFX・CGデザイン=坂本サク
特殊メイク・造形=広瀬諭
音楽=西村麻聡
出演=水橋研二、森下千里、中村優子、榊英雄、前田綾花
 
自殺マニュアル
 
[ストーリー]
 TVディレクターの悠(水橋)は、半年前に男女4人が自殺したアパートを取材した。そこで、自殺に加わるはずだった高校生のななみ(前田)と出会う。ななみは、自殺サイトの案内役をする謎の女、リッキー(中村)から送られた黒いDVDを悠に渡す。それは、あらゆる自殺の方法を記したマニュアルだった。悠は慄然とするが、彼もまたそのDVDにのめりこんでいく……。
 
[コメント]
 『自殺マニュアル』というタイトルを聞いたときにみなさんはどんな内容を思い浮かべるだろう。さまざまな自殺の実演、ショッキングな映像の数々……? 自殺志願者が崇める謎の女「リッキー」から送られてくる黒いDVDには確かにそんな映像が収められていた。しかし、その映像は妙に現実感が無く、そこからこの映画の奇妙さは増幅してゆく。予想をはるかに上回る意外な展開に戸惑いつつも、引き込まれていった。
 自殺シーン以上に恐ろしかったのは、唯一現実感を持った存在だった悠が次第に精神状態が悪化してゆくさま。彼と一緒に見ているこちら側も出口の無い世界をさまようこととなる。
 いかにも、なホラーシーンは少なく、心理的にじわじわ来るハイレベルな恐怖をたっぷり味わわせてもらった。役者陣の演技力によるところも大きいだろう。前作『レイズライン』に続いて自殺を扱いながらも、全く別のテイストで野心的な作品を作り上げた福谷監督の力量を感じた。映画ファンにこそ観て欲しい作品。 (黒)

フレンズ
2003年/北海道テレビ製作/ウィルコ配給/1時間48分
 
監督=橋本直樹
企画=中野聖、長澤雅彦
脚本=三澤慶子
撮影=柳田裕男
音楽=神津裕之
出演=小山田サユリ、水橋研二、加瀬亮、沢尻エリカ
 
フレンズ
 
[ストーリー]
 満ちる(小山田)(23歳)は、実家のスポーツ用品店を手伝っている。ある日、高校時代のスキー部仲間、須貝(水橋)と千石(加瀬)に、顧問だった野口の結婚パーティーへ行こうと誘われる。千石の彼女マミ(沢尻)を加え、4人は満ちるの車でパーティー会場である山小屋へ向かうが、その道中さまざまなアクシデントに見舞われる。車もガス欠し仲間が諦めかけるなか、満ちるは毅然として歩き始めた。
 
[コメント]
 ゆったりと流れる北海道の風景は、登場人物の感情を描くのに最適だといっていい。特に劇的なことが起こるわけではない。日常の「あぁ、こんなことありそう」という状況のなかで、主人公の満ちるが日々悶々と思っていることが増大し、ついには爆発する。満ちるの感情が爆発する過程が、見事に丁寧に描かれている。高校時代からの友人による何気ない一言、気の利かない態度。それぞれが一生懸命生きているだけなのに、それが満ちるには羨ましく思えて仕方がない。ふと何かを考えている時の満ちるの視線の先にあるものは、ただ一面に広く奥に広がる北海道の風景。そこでかつて熱中していたはずのスキーの思い出。高まっていく感情を、静かに、しかし沸々と見ている者に感じさせる。そしてただただ広い雪道に向かって一人歩き出すその姿に、密かにエールを送りたくなった。 (朋)

日曜日は終わらない
1999年/NHK製作/1時間30分
 
監督=高橋陽一郎
脚本=岩松了
音楽=りりィ&Yoz
制作=峰島総生
出演=水橋研二、林由美香、渡辺哲、りりィ、塚本晋也
 
日曜日は終わらない
 
[ストーリー]
 一也(水橋)は、同じ会社で働く父(渡辺)からリストラ宣告を受ける。一也は離婚した母(りりィ)のもとに身を寄せるが、母は間もなく祖母を轢いてしまった男(塚本)と再婚する。居場所を失った一也はピンクサロンで働く佐知子(林)を出会い、日曜日に海へ行こうと約束するが、その日自分でも説明のつかない衝動に駆られ、義父を殺してしまう。数年後、刑務所から戻ってきた一也を待っていたのは実父であった…。
 
[コメント]
 第36回シカゴ国際映画祭正式出品(国際批評家連盟賞受賞)、第53回カンヌ国際映画祭正式出品など海外でも高い評価を受けている作品である。
 1996年に製作された同監督作品『水の中の八月』でも主演を務めた水橋研二氏の好演が印象的だった。口数は多くはないものの、その表情から読み取れる主人公の複雑な気持ちが痛いほどよく分かる。周りの状況が変化するなか、常に一緒にいたのは自分の自転車。それを颯爽とこいでいる時、一番自然な一也になれているのだろう。その大事な自転車を義父に貸すということ、善意と分かっていながらも、義父がタイヤに空気を入れたということ、こんな些細なことが積もり積もって、一也のなかに義父に対する思いが固まっていったのではないだろうか。
 淡々としたリズムのなかで主人公、義父、実父の感情の交わりが浮き出ている作品であった。 (朋)

●メッセージ
常本琢招監督

 TAMA CINEMA FORUM 水橋研二特集おめでとうございます。
 『みつかるまで』は2002年1月の、非常に寒い時期の撮影でした。ずいぶん遠い昔のよう……。
 この映画は、僕自身あまりに愛着がありすぎて、ほかの人に観せるのが惜しくなり、半ば封印状態にありますので、今回の上映は非常に貴重な機会になります。お目に触れた方々の気に入っていただけるとうれしいです。気に入らなければ忘れてください。
 水橋君にやってもらった役は、現実感の希薄な役で、非常にやりづらかったと思います(現場でもやりづらそうでした)。結果はどうだったか……まあご覧になってみてください。
 
高橋陽一郎監督

 『日曜日は終わらない』は、4年前の夏に撮影をした作品です。主演の水橋君とは『水の中の八月』に続く2度目の仕事でしたが、山奥の廃墟まで道なき道を連日往復してもらったり、荒れる海に命がけで飛び込んでもらったりと、前作以上の身体を張った役作りに、現場では何度も頭の下がる思いでした。
 完成以来、ほとんど公開の場を持たなかった作品ですが、今回、貴重な機会を与えてくださり、本当に感謝しております。

●ゲストの紹介
水橋 研二(みずはし けんじ)氏

 東京都出身。1996年に映画『33 1/3 r.p.m』(木澤雅博監督)でデビュー。テレビドラマではギリシャ・テッサロニキ国際映画祭グランプリに輝いたNHK−BS『水の中の八月』に主演。‘99『月光の囁き』(塩田明彦監督)で一躍脚光を浴びる。映画『回路』(黒沢清監督)、『ロックンロール・ミシン』(行定勲監督)など幅広い演技力と存在感で出演作ごとに注目を集める。
 今後も『サル』(葉山陽一郎監督)、『クイール』(崔洋一監督)など多数の出演作が公開待機中。
 
メッセージ

 第13回映画祭 TAMA CINEMA FORUM 開催おめでとうございます。
 特集をしていただけるということで、大変嬉しく思っています。4本とも違う年に撮った映画です。その映画たちが一度に同じ空間で上映していただけることが、不思議な気持ちと、期待感でいっぱいです。それぞれの映画に、それぞれの良さがあると思います。映画を観て、何か感じていただければ幸せです。
 すてきな時間がすごせますように。
 ありがとうございました。
 
福谷 修(ふくたに おさむ)監督

 1967年、名古屋市生まれ。91年「ぴあ」編集部に在籍中、フジテレビ「カルトQスペシャル・スピルバーグ」に出演、これを機にライター兼クリエーターとして独立。CGアニメや深夜ドラマなどのシナリオライターとしても活動。2000年、『レイズライン』を自主制作で映画化、02年みちのく国際ミステリー映画祭オフシアター部門でグランプリ&観客賞、第3回TAMA NEW WAVE ビデオ部門特別賞など数々の賞に輝く。03年、『自殺マニュアル』で商業映画監督デビュー。
 
メッセージ

 自殺は、前作『レイズライン』でも扱っており、自分自身こだわりがありました。悩んだ末、今回は流行のホラーサスペンスを装いつつ、実は青年・悠の精神の崩壊を描くことで「自殺とは何か」を問う異色作に仕上げました。その独自の世界観に欠かせなかったのが、悠役の水橋君の圧倒的な芝居の存在感でした。重くせつない、特にファンにはつらい作品ですが、決して目をそらさず、悠の行く末と向き合っていただければ幸いです。
 
橋本 直樹(はしもと なおき)監督

 平成元年より映像制作の仕事を始める。平成4年、株式会社ウィルコを設立。映画・ドラマ・CM・プロモーションビデオ・VPなど、さまざまなジャンルの作品に参加する。
 近年は『リリイ・シュシュのすべて』『ダンボールハウスガール』『玩具修理者』などで、ラインプロデューサーとチーフ助監督を兼務する新しい役職で制作に携わりつつ、北海道文化放送30周年記念ドラマシリーズ[NorthPoint](全4作品)では、「フレンズ」「ファームサイドソング」の監督を務めた。
 
メッセージ

 自分にとって友達とはどういう人を言うのだろうか。なんとなく気が合う。そんなレベルではないだろうか。気が付くと一緒にいる。そんなもんではないだろうか。具体的に何が、と言うことでもなく。
 ドラマの最後に彼らはひたすら歩く。最初は、友のためにしかたなく歩く。しかしいつのまにか自分のために歩くことになる。その瞬間、彼らは友達のことは忘れる。自分との戦い。けれど、最後気が付くとみんな一緒にいる。同じ場所で、同じ方向を向いて。Friends。
 ドラマのなかの彼らは今でも友達だと思う。
 彼らにこのドラマを観せたいと思う。
 最後にTAMA CINEMA FORUM が永遠に続くことを願って。
 
司会:斎藤 芳子(さいとう よしこ)氏

 映画ライター。邦画専門に俳優・監督のインタビュー記事や撮影現場訪問、作品評などを書く。また個性派俳優、若手俳優との交友関係も広い。「キネマ旬報」「男優倶楽部」「アクターズファイル 渡部篤郎」「アクターズファイル 大沢たかお」(以上キネマ旬報社)「BSfan」(共同通信社)などに執筆。日本映画を支える名バイプレイヤーにスポットを当てる「この映画がすごい!」(宝島社)の連載コーナー“THE助演男優SHOW”は50回以上を数えた。またキャスティングも手掛けており、最新作は『isA.』(来春公開予定)。