PFF出身の作家たち

11月23日 「PFF出身の作家たち」 (ベルブホール)

●Time Table●
12:00−13:44
14:05−15:21
15:35−16:43
17:00−18:30
18:40−19:30
WEEKEND BLUES
モル
星ノくん・夢ノくん
ある朝スウプは
トーク 高橋泉監督、荻上直子監督、天野真弓氏(PFFスカラシッププロデューサー)

WEEKEND BLUES
2001年/ビデオ/ぴあ配給/1時間44分
 
監督・脚本・編集・撮影=内田けんじ
撮影=松尾光弘
音楽=石橋光
出演=中桐孝、熊沢麻衣子、横田大吾、内田けんじ
 
WEEKEND BLUES
 
[ストーリー]
 長年つきあっていた彼女にふられ、人生に絶望していた平凡なサラリーマンが、ひょんなことから、“自信が出て幸せになれる”というふれこみの薬を、偶然手に入れる。しかしその薬を飲み、目が覚めると丸1日の記憶が全く無くなっていて、何故か家から遠く離れた見知らぬ千葉の町にいた。そこから、誤解と勘違いと徒労に満ちた彼の冒険が始まるのだった……。そして、その失われた1日を、親友の健二とその空白の記憶を推測していくが、そこには想像だにしない事実がーーその驚愕の事実とは?
 
[コメント]
 劇中に、「誰かに必要とされることが必要」という台詞があるが、この作品は正にそれが映像として表されていて、本当に仲の良い友人関係で製作された映画なのが観ている側にも伝わってきて、説明不足なのがむしろ心地よい。
 出演者やスタッフは全員友人関係という、自主ならではの、ほのぼのした雰囲気に加え内田けんじ監督本人が、主人公の友人として出演しているのも見逃せません。人間関係に疲れて、誰かを信じられなくなったとしたら、観てほしい作品です。 (ひ)

モル
2000年/ビデオ/ぴあ配給/1時間16分
 
監督・脚本=タナダユキ
撮影・編集=久保延明、山田麻理枝
音楽=山田康博(Y-SONIQ)
出演=タナダユキ、石川貴子、岩波才靖 、水田真靖
 
モル
 
[ストーリー]
 西原ゆかり(タナダ)25歳。ある日突然、生理になると必ず自殺を試みようとしている人を目撃して高熱を出す、という特異体質に陥る。自分で買うのにはばかられる坐薬を母親に頼んで手に入れて、なんとかモデル稼業を続けている。それでもろくな男にも巡り合えず、勘の鋭い親友のはなちゃん(石川)は、そんなゆかりの彼氏のダメ男ぶりを一目で見抜いてやさしく厳しく忠告するのだが……。
 
[コメント]
 『あまりの破天荒な面白さに「すげぇ?」ってうならざるを得なかった。何が凄いって、生理のつらさ(男にはわかりませんが)や坐薬を使う恥ずかしさやショウもない男とつきあってしまった情けなさとか、どこにでも転がっている平凡な日常の出来事を、観客をぐいぐい引き込むエンタテインメントに仕上げていることだ。同じく日常生活をエンタテインメントに仕上げてしまう作家として矢口史靖監督がいるが、矢口監督の作風が、登場人物が次から次と事件に巻き込まれていくヒッチコック型エンタテインメントだとすれば、タナダ監督の作風は、小道具(オセロ、坐薬、ウクレレなど)を巧みに取り入れたビリー・ワイルダー型エンタテインメントと言えるかもしれない。
 いずれにせよタナダユキ監督の今後の活動から目を離せそうにない。 (淳)

夢ノくん、星ノくん
2000年/ビデオ/ぴあ配給/1時間18分
 
監督・脚本・編集=荻上直子
音楽=Lay Kar Kho
出演=星島耕介、出口哲也、塩沢えみな、石橋勉
 
夢ノくん、星ノくん
 
[ストーリー]
 ある星から、地球への修学旅行に来た星ノと夢ノ。楽しいはずの修学旅行だが、一転して2人は道に迷って森に入り、帰りの汽車に乗り遅れてしまう……。次の汽車に乗るためには、地球上にある、他の到着ポイントに行かなくてはならず、通りすがりの人に案内を頼むと、交換条件をだされ、人のいい2人はしぶしぶ引き受ける。ある星からきた2人の見た地球とは? 果たして2人は無事に星に帰れるのか?
 
[コメント]
 とある星からきた2人。その2人の見た地球の何気ない一日が丁寧描かれ、伝えたい一貫性が要所要所にちりばめられていて、普遍的でありながらも、共感できる。
 『恋は五・七・五!』の荻上直子監督の原点とも言える作品で、この作品のあと『バーバー吉野』に繋がっていく様が、ストーリー、役者、展開などからも良く分かる。
 友達っていいな……。そんな作品です。 (ひ)

ある朝スウプは
2004年/ビデオ/ぴあ、ユーロスペース配給/1時間30分
 
監督・脚本・撮影・編集=高橋泉
音楽=並木愛枝
出演=廣末哲万、並木愛枝、高橋泉、木村利絵
 
ある朝スウプは
 
[ストーリー]
 社会から隔絶しまった男性とそれを修復しようする女性の秋から春にかけての物語を、アパートの一室を舞台に描く。
 北川(廣末)は電車の中で突然過呼吸の発作に襲われ、病院でパニック障害と診断される。引き篭もってしまった北川に対して同棲している志津(並木)は、いらだちを感じながらこれまでどおりの生活を続けている。しかし、北川は次第に新興宗教にのめり込んでいき、二人の溝は深まっていく……。
 
[コメント]
 アパートの一室での二人の間に流れる空気が肌で感じ取れるほど、緊迫感伝わる見事な演出に息を呑んだ。
 社会に適合できなくなって新興宗教へ傾倒していく人の話は、自分の周囲でも聞いたことがある現代的なテーマだ。しかし、この映画は社会的なテーマを扱っているのではなく、そのような状況に陥ってもこれまでどおりの男女の関係を続けていこうとする女性の意思と二人の関係に主眼が置かれている。この関係が夫婦ではなく恋人同士というのが、この映画のミソだ。夫婦であれば、社会的な立場やこれまでのしがらみもあって、まずはそれを修復することに迫られるだろう。しかし、恋人同士であればその気になればその関係をいつでも破棄できるはずだ。二人で貯めた貯金を新興宗教に貢いでしまっても毎日の朝食の会話がまったくかみ合わなくなっても、なんとかその関係を取り戻したいと願う女性のひたむきな想いが画面から痛いほど伝わってくる。
 ずしりと心に堪える恋愛映画である。 (淳)

●ゲストの紹介
荻上 直子(おぎがみ なおこ)監督

 1972年生まれ、千葉県出身。千葉大学工学部画像工学科卒業。94年渡米、南カリフォルニア大学(USC)大学院映画学科に入学する。在学中CMやPV、映画の撮影助手として働く傍ら、短編映画などの製作も行う。『夢ノくん、星ノくん』が2001年PFFアワードで音楽賞を受賞。2003年にPFFスカラシップ作品として『バーバー吉野』を監督し、劇場公開したのに続き、04年には『恋は五・七・五!』を監督した。
 
高橋 泉(たかはし いずみ)監督

 1973年埼玉県生まれ。2001年より廣末哲万と共に映像ユニット「群青いろ」を結成。廣末と20数本の映像作品を自主製作する。また、廣末が監督・主演を勤めたPFFアワード2004準グランプリ作品『さよならさよなら』では脚本を担当した。最新作は廣末監督・高橋脚本のコンビによる『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』(04年)。
 
天野 真弓(あまの まゆみ)氏

 PFFスカラシッププロデューサー。PFF第13回スカラシップ作品として荻上直子監督の『バーバー吉野』をプロデュース。来年度のスカラシップ作品として高橋泉脚本・廣末哲万監督作のプロデュースを予定している。