俳優・田中哲司特集

11月26日 「俳優・田中哲司特集」 (ベルブホール)

●Time Table●
13:00−14:13
14:30−14:50
15:00−15:50
16:00−16:27
16:35−17:15
17:30−19:13
バースデー・ウエディング
渦中の人
私立探偵濱マイク『私生活』
バナナの皮
トーク 田中哲司氏、岩松了氏
夢の中へ

バースデー・ウエディング -母が教えてくれたいちばん大切なこと-
2005年/『バースデー・ウェディング』製作委員会製作/タキコーポレーション配給/1時間13分
 
監督=田澤直樹
脚本=児玉頼子
音楽・主題歌=矢野絢子
出演=上原美佐、木村多江、田中 哲司、忍成修吾
 
バースデー・ウエディング
 
[ストーリー]
 21歳となった千晴(上原)が結婚式の前夜、箪笥の奥から見つけたビデオテープ。幼い自分と当時の父(田中)と母(木村)。映像が終わったと思った瞬間、そこに映し出されたのは若くして亡くなった在りし日の母の姿だった。結婚式当日、千晴は新郎(忍成)とともに、特別な“贈り物”を準備することに……。
 
[コメント]
 この映画には、夫婦愛、父子愛、母子愛などいくつもの愛情に溢れている。とても大切でかけがえの無いものなのに、忘れがちになってしまう感情だ。“女性にとって人生で最も感動的な瞬間”と言っても過言ではない結婚式を舞台に、ふと大切なことに気づかせてくれる。
 女性にとっては思い入れるところが多いだろうし、さらに、娘を持つほとんどの父親にとって切実に胸に響くものがあるはず。泣いちゃいますね、きっと。そんな良き父親を演じるのが田中哲司。ほんとに役の振れ幅が広い。今回は30歳代からいっきに50歳代まで演じている。少し白髪が混じり、歳を経るごとに寡黙になる父、久しぶりに会うとうしろ姿が寂しく小さく感じる父、など身近なことに重ねてすごく感情移入してしまい、ほろりと目頭が暖かくなる。
 監督は「天体観測」「美女か野獣」「東京湾景」など人気ドラマを多数手掛けてきた田澤直樹。上原美佐、木村多江のふたりは演じる母娘の心の通じ合いを繊細に演じ、また恋人役で出演する忍成修吾にも注目して欲しい。
 バースデーケーキの火を消す瞬間、何か願い事が叶うような期待とうれしさで感情が高ぶる、そんな幸せなひとときを味わえる作品。 (お)

渦中の人
2005年/DV/15分
 
監督・脚本・編集=伊刀嘉紘
撮影=永野敏、国松正義
音楽=鶴見幸代、Anonymass
企画=TAMA CINEMA FORUM
制作=金青黒 (SABIKURO)
出演=田中哲司、菜摘りお、延堂庸子、藤崎卓也
 
渦中の人
 
[ストーリー]
 14階でエレベーターをおりて正面の部屋。震える指で私は呼び鈴を鳴らす。かつて愛しあった男の新居。いまは別の女と暮らしてる。男は迷ったすえに私をなかに請じ入れるだろう。そしてベランダに出た私の背後から胸もとに手をまわし、私にキスすることになる。そのとき向かいのビルに潜んでいる私の企みに気がつきさえしなければいい。それですべてうまくいく。すべて……。
 
伊刀 嘉紘(いとう よしひろ)監督

 1970年生まれ、愛知県出身。現在は東京在住。おもな作品に『100匹目のサル」』『笑う胃袋』『イマジナリーライン』『梅心中』『SEXTET』など。『笑う胃袋(2004年完成版)』で第5回TAMA NEW WAVEグランプリ受賞の他、みちのく国際ミステリー映画祭オフシアター部門グランプリ、Asian International Film Festivalグランプリ、釜山アジア短篇映画祭など多数の映画祭で入選。また近作がフランクフルト、パリ、バルセロナ、チューリッヒなどで巡回上映されている。
 
[メッセージ]
 このたび貴映画祭が15回目の節目を迎えられたとのこと、おめでとうございます。思えばちょうど一年前にTAMA NEW WAVEグランプリを頂戴いたしましてから、拙作の特集上映に引き続き、このたびは短篇映画制作の機会までも与えていただいたこと、大きな驚きと感謝の気持ちで受け止めております。これほどまでに受賞作家に手厚い映画祭を私は他に知りません。
 さて正直申しまして、本稿執筆の時点ではまだ、この作品の編集作業に着手したばかりであります。しかしながら、2の線と3の線の間を自在に往還する田中哲司さんの演技の幅の妙、小学校の学芸会を除けばこれが初めての芝居だという菜摘りおの瑞々しくも妖艶な存在感、昨年のTAMA NEW WAVEにてベストキャラクター賞を受賞した延堂庸子の爽やかさ、そして、ただそこにいるだけでもおかしみ溢れる藤崎卓也さんの怪演と、なかなかに絶妙なハーモニーになっているのではないかと思いますし、また、少数精鋭のスタッフ陣の働きにより、きわめて準備期間が短かったのが嘘みたいに円滑に、質の高い撮影が行われました。感謝を申し上げます。

私立探偵濱マイク『私生活』
2003年/よみうりテレビ/52分
 
原作=林海象
監督・脚本=岩松了
出演=永瀬正敏、小林薫、小泉今日子、石橋けい、田中哲司
 
[解説]
 林海象監督&永瀬正敏主演による劇場版3部作をもとに、2002年に制作されたTVドラマ版「濱マイク」シリーズ。情にもろくて女にも脆い万年金欠の私立探偵・濱マイク。彼が関わる事件を各話異なる監督が描き、しかもTVなのにフィルム撮影という徹底振りで当時話題を集めたもの。今は無き映画館・横浜日劇の姿が拝めるのもこのドラマならでは。
 第7話「私生活」は、劇作家・演出家・俳優など様々な顔を持つ岩松了監督によるもの。ドラマではひときわ謎に包まれている情報屋のサキ(小泉)を軸に、2組の夫婦の関係から生じた狂言誘拐事件が展開していく。この作品は漂う雰囲気・匂いのようなものを大切にしている、ように感じる。登場人物たちが巻き込まれていく事件をゆっくりと、哀しくも繊細に、唐突かつ美しく描いていて見れば見るほど味が出てくる。最後のシーンはすごく好き、キョンキョンがすごくいい!のだ。
 決してテンポ良く進むでもない物語は、登場人物たちのぎこちない関係そのもので、しかし、いつのまにかその世界観に引きずり込まれてしまうという、不思議な体験ができる作品。 (お)

バナナの皮
2003年/DV/27分
 
監督ほか=オダギリジョー
出演=田中哲司、村上淳、松岡俊介、河原さぶ
 
[解説]
 “あるもの”のせいで、依頼された仕事に失敗してしまった男3人。演技派俳優たちによる、噛み合うことなく絡み合う会話の妙がとにかく可笑しい。罪のなすり合いとヘンテコな会話をハイテンションで飛ばしまくり、緊張と脱力の反復が加速して行くのだが、またそれが細かい部分でツボにはまってふきだしてしまうことも多々あり。30分弱という時間はあっという間に過ぎ、終わってしまうのが惜しい、もっと観ていたいと思わせる作品。登場人物はみんなはまり役、でそれぞれにおいしい部分がある。そして楽しそうに奔放自在にハジけていて、それでも成立しているという奇跡。これは、役者陣の演技力はもちろんだが、監督の演出による所も大きいはずだ。現場はめちゃめちゃ楽しかったのではないかと、そういう雰囲気も伝わってくる……想像するに、だが。
 田中哲司、村上淳、松岡俊介、そして河原さぶという、ちょっととんでもなく最高なキャストの組み合わせ。そして監督は、俳優としてだけではなく絵や音楽など多彩な才能を持つオダギリジョー。今回上映させて頂くことが出来たのは本当に光栄です。この場を借りて、お礼を申し上げます! (お)

夢の中へ
2005年/『夢の中へ』製作委員会製作/アルゴ・ピクチャーズ配給/1時間43分
 
監督・脚本=園子温
企画・制作=浅野博貴
撮影=柳田裕男
出演=田中哲司、夏井ゆうな、村上淳、オダギリジョー、市川実和子
 
夢の中へ
 
[ストーリー]
 30過ぎの冴えない役者・鈴木ムツゴロウ。多少TVなどの露出はあるものの基本的には売れない、女にもだらしがない、しまいには性病にかかってしまう……。もう自分ではどうしようもない最悪の1日に振り回され、倒れるように布団に倒れ込み眠りに落ちる。するとそこでは新たな世界が広がり始め、夢かうつつか境界が曖昧になり、リアルな夢に引き込まれて……。
 
[コメント]
 夢と現実、自意識と無意識の中をさまよい、不可解な出来事に翻弄されていく男。これは現実逃避で、ただの妄想なのかそれとも……?という推理をする間は全くなし、そんな謎解きはこの映画には無意味! 途中で止まっていたら置いてかれてしまうのだ。
 主人公・ムツゴロウを演じる田中哲司。出ずっぱりで映画の軸となり、彼と様々な役者陣が繰り広げる会話劇はとても魅力的で面白い。市川実和子、村上淳、オダギリジョーなど映画畑の面々、そして手塚とおる、岩松了、麿赤兒など演劇界の重鎮、とひとくせもふたくせもある役者陣が目まぐるしく登場する。物語が進行するに連れ、夢と現実が交錯し始めるスピードもだんだん速くなってくる。すると、観てるこっちまでその勢いに押されながらも、どうしようもなくダメな男の現実が憎めず、可笑しくなって笑ってしまうのだ。
 監督は映像詩人と呼ばれる園子温。彼の詩集のように言葉の波とリズムが怒涛のごとくなだれこんできて圧倒的なパワーを感じる。そこに田中哲司という役者との絶妙なコラボが功を奏し、彼の初主演作にして代表作品となるのは間違いない!と言い切れる。個人的に今年観た邦画ベスト1位!です。 (お)

●ゲストの紹介
田中 哲司(たなか てつし)氏

 1966年三重県出身。蜷川カンパニー、ZAZOUS THEATER作品を経て「時間ト部屋」「欲望という名の電車」「ワニを素手でつかまえる方法」「溺れた世界」等の舞台に出演。また05年には新国立劇場で上演された、フランツ・カフカ原作、松本修構成・演出の舞台「城」に主演し、好評をはくす。また、映画出演作には、『ゲロッパ!』(03)『この世の外へ クラブ進駐軍』『海猿』(04)、『夢の中へ』『バースデーウェディング』『スクラップ・へブン』(05)、公開待機作に『水の花』『花よりもなほ』『ベロニカは死ぬことにした』『いちばんきれいな水』がある。
 
岩松 了(いわまつ りょう)氏

 長崎県出身。劇作家、演出家、俳優。
 「竹中直人の会」、「岩松了プロデュース公演」、「タ・マニネ公演」などで幅広く活躍。1989年「蒲団と達磨」で第33回岸田國士戯曲賞、94年「こわれゆく男」、「鳩を飼う姉妹」で第28回紀伊国屋演劇賞個人賞、98年「テレビ・デイズ」で第49回読売文学賞、映画『東京日和』(竹中直人監督)で第21回日本アカデミー賞脚本賞を受賞。TVドラマでは、「私立探偵 濱マイク『私生活』」(2002年/監督・脚本・出演)、「社長をだせ!」(2005年/監督・脚本・出演)。映画監督作に『バカヤロー2〜幸せになりたい〜』『お墓と離婚』。2005年映画出演作に『イン・ザ・プール』『亀は意外と速く泳ぐ』(ともに三木聡監督)がある。