心に刻まれた絆

11月23日 「心に刻まれた絆」 (やまばとホール)

●Time Table●
11:00−13:07
13:55−15:52
15:52−16:20
16:40−18:37
明日の記憶
博士の愛した数式
トーク 小泉堯史監督、司会:北川れい子氏(映画評論家)
私の頭の中の消しゴム

明日の記憶
2006年/『明日の記憶』製作委員会製作/東映配給/2時間2分
 
監督=堤幸彦
原作=荻原浩
エグゼクティブ・プロデューサー=渡辺謙
脚本=砂本量、三浦有為子
撮影=唐沢悟
音楽=大島ミチル
出演=渡辺謙、樋口可南子、坂口憲二、吹石一恵、香川照之、大滝秀治
 
明日の記憶
© 2006「明日の記憶」製作委員会
 
[ストーリー]
 広告代理店に勤める佐伯雅行(渡辺)は今年50歳になる。ありふれてはいるが、穏やかな幸せに満ちていた。そんな彼を突然襲う「若年性アルツハイマー病」。現実を受け止める余裕もないままに、雅行の記憶から日常がひとつひとつ消えてゆく。妻・枝実子(樋口)は共に病と向き合い、懸命に彼の妻であり続けようと心に決めるが……。
 
[コメント]
 広告代理店の仕事にも脂がのり、家庭円満、一人娘は結婚間近と、人生のまさに“円熟期”に突然、病を宣告される主人公を演じるのは渡辺謙。『ラストサムライ』『バットマンビギンズ』『SAYURI』で世界へ活躍の場を広げる彼が、ハリウッド滞在中に荻原浩の原作に出会い、自らぜひ映画化したいと申し出て実現した。その熱い想いがこめられた本作で、彼は俳優としてだけでなく、プロデューサーとして映画製作に密に関わるという意気込みを見せ、主人公の苦悩や絶望、生への覚醒を全身全霊で演じきっている。そして、妻・枝実子役の樋口可南子は、病が判明してからも健気に夫を支える妻の揺れる心を繊細に表現している。確かに原作のテーマは重い。しかし、堤幸彦監督は、その中に心和ませるユーモアを織り込み、喪失を乗り越えていく夫婦の深い情愛を描き出した。前向きに生きる力を与えてくれる……。そんな作品だ。 (久)

博士の愛した数式
2005年/『博士の愛した数式』製作委員会製作/アスミック・エース配給/1時間57分
 
監督・脚本=小泉堯史
原作=小川洋子
撮影=上田正治、北澤弘之
照明=山川英明
音楽=加古隆
出演=寺尾聰、深津絵里、齋藤隆成、吉岡秀隆、浅丘ルリ子
 
博士の愛した数式
© 『博士の愛した数式』製作委員会
 
[ストーリー]
 家政婦として働くシングルマザーの杏子(深津)は、事故の後遺症で記憶障害を持つ数学博士(寺尾)の家に派遣される。ある日、杏子に10歳の息子(齋藤)がいることを知った博士は、息子も通わせるように告げる。博士は息子を“ルート”と名づけ、博士と杏子、ルートの和やかな日々が始まるのだが……。
 
[コメント]
 「君の靴のサイズはいくつかね」ーー家政婦である杏子は、玄関先で博士から毎日同じ質問を受ける。博士は記憶が80分しかもたない。そのため、何を話したらいいか混乱した時、博士は言葉の代わりに数字を用いた。この作品の所々で博士が語る数式は、観る者までもワクワクさせる。まるで自分が杏子になったかのように。数式というと小難しいものを連想させるが、ここでは、こんなにも美しく、ロマンチックなものだったのか! と驚かされる。
 次第に博士に対して友情の様なものを抱きはじめる杏子とルート。明日になればまた初対面に戻ってしまうが、それでも博士に寄り添い続ける。「心で見れば時間は流れない。大事なのはこの今ではありませんか。」という杏子の台詞が胸を打つ。
 『雨あがる』『阿弥陀堂だより』に引き続き、小泉監督作品主演3作目の寺尾聰が博士を味わいたっぷりに演じるほか、深津絵里が凛とした爽やかな演技で杏子役を好演している。博士の義姉役の浅丘ルリ子の深みのある演技もまた素晴らしい。 (河)

私の頭の中の消しゴム
A Moment to Remember
2004年/韓国/ギャガ・コミュニケーションズ配給/1時間57分
 
監督・脚本=イ・ジェハン
製作=チャ・スンジェ
撮影=イ・ジュンギュ
音楽=キム・テウォン
編集=ハム・ソンウォン
出演=チョン・ウソン、ソン・イェジン、ペク・チョンハク、イ・ソンジン、パク・サンギュ、キム・ヒリョン
 
私の頭の中の消しゴム
 
[ストーリー]
 工事現場で働く大工のチョルス(チョン・ウソン)と、社長令嬢のスジン(ソン・イェジン)。ふとしたハプニングから二人は出会い、まっすぐに惹かれあう。やがて永遠の愛を誓い合い、幸せな結婚生活を送る二人。何もかも順風満帆にみえた二人に、突然やってきたのは妻スジンが若年性アルツハイマー症に侵されているという医師からの宣告だった。
 
[コメント]
 人は運命の相手に出会ったら、きっとびっくりするほどのスピードで恋に落ちるのだろう。この物語の主人公チョルスとスジンも、ふとした出会いから急速に恋に発展する。生まれ育った環境も、仕事も、性格もまったく違う二人が愛し合う。“こんなことありえないよ”と皮肉を言ってみたくなるかもしれない。しかしそんな皮肉も吹き飛ばすほどの、純粋でまっすぐな愛のかたちは、ワタシの鈍っていたハートにも、意外とすんなり入ってきた。そしていつも思うのだが韓国映画の良いところは、「直球ストレート勝負」的なストーリー展開だ。どんな大投手でも、ここ一番で投げるのは必ずストレート。変化球なんかありえない。チョン・ウソンが演じる男気あふれるチョルスが投げたストレートな言葉は、多くの女性の心の中から消されはしないだろう。そしてソン・イェジンのストレートなまなざしに癒された男性は、その記憶を消すことはできないだろう。 (ひなた)

●ゲストの紹介
小泉 堯史(こいずみ さとし)監督

 1944年生まれ、茨城県水戸市生まれ。70年早稲田大学卒業後、黒澤明、木下恵介、市川崑、小林正樹の4人の巨匠が結成した「四騎の会」所属となり、以後黒澤明に師事する。2000年山本周五郎原作の『雨あがる』で劇場公開作品監督デビュー。日本アカデミー賞では最優秀作品賞をはじめ8部門の最優秀賞を受賞。続く『阿弥陀堂だより』(02年)も絶賛を浴びた。
 
司会:北川 れい子(きたがわ れいこ)氏

 東京中野生まれ。映画評論家。1970年代初め、国家公務員の傍ら映画批評を書き始め、各誌に精力的に執筆。85年に公務員を退職し、現在、キネマ旬報、シナリオ、週刊新潮、夕刊フジ、その他に寄稿。「週間漫画ゴラク」誌の日本映画批評は開始からそろそろ四半世紀で連載1,300回を越す。ミステリ評も手がける。猫10匹とも同居。