昭和を振り返る

11月25日 「昭和を振り返る」 (やまばとホール)

●Time Table●
11:00−13:15
14:00−15:44
16:00−16:30
16:45−18:58
嫌われ松子の一生(PG12)
佐賀のがばいばあちゃん
トーク 倉内均監督、司会:北川れい子氏(映画評論家)
ALWAYS 三丁目の夕日

嫌われ松子の一生
2006年/『嫌われ松子の一生』製作委員会製作/東宝配給配給/2時間10分
 
監督・脚本=中島哲也
原作=山田宗樹
撮影=阿藤正一
美術=桑島十和子
音楽=プリエル・ロベルト、渋谷毅
出演=中谷美紀 、瑛太、伊勢谷友介、香川照之、市川実日子、黒沢あすか、柄本明
 
嫌われ松子の一生
© 「嫌われ松子の一生」製作委員会
 
[ストーリー]
 昭和22年、川尻家の長女として福岡県に生まれた松子(中谷)は、幸せな人生を夢見る明るい少女時代を過ごす。やがて中学校の教師となるが、ある事件をきっかけにクビに。ここから松子の人生はもの凄いスピードで転落していく。誰かを愛する度に不幸になっていく松子は、壮絶な人生の果てに53歳で謎の死を遂げるのだが......。
 
[コメント]
 「松子の人生は不幸のオンパレードである。病弱な妹に父の愛情を独り占めされたトラウマか、「誰かに愛されたい」という思いは人一倍強い。それが追い詰められた時の判断を誤らせるのか、悪い方へ悪い方へと行ってしまう。それでも松子はたくましく立ち上がり、愛する人を信じて突き進んでいく。
 この1人の女の壮絶な人生を、『下妻物語』の中島哲也監督は、ファンタジックな映像とミュージカル、笑いあり涙あり小ネタありで極上のエンターテインメントに仕上げた。豪華キャストも見どころ。背景にある時代ネタ(オイルショックから光GENJIまで!)にもニヤリとさせられる。
 後半になるにつれ、現実から乖離した映像が、逆に不器用でひたむきなヒロインの悲惨な人生を浮き上がらせ、涙を誘う。しかし、端から見れば不幸な人生も、松子にとっては精一杯生きた幸せな人生だったのではないか? 最後にはそんな風に思わせてくれる、愛すべき松子の一生である。 (河)

佐賀のがばいばあちゃん
2006年/映画『佐賀のばがいばあちゃん』製作委員会/ティ・ジョイ配給/1時間44分
 
監督=倉内均
原作・脚本=島田洋七
脚本=山元清多
撮影=三好保彦
音楽=坂田晃一
出演=吉行和子、浅田美代子、鈴木祐真、池田晃信、池田壮磨、緒形拳、三宅裕司、島田紳助、山本太郎、工藤夕貴
 
佐賀のがばいばあちゃん
© 映画「佐賀のがばいばあちゃん」製作委員会
 
[ストーリー]
 戦後まもない広島で、原爆症の父を亡くし、居酒屋で働く母(工藤)と2人で暮らしていた明広(池田壮磨)は、佐賀に住む祖母の家にしばらく預けられることになる。祖父の死後、7人の子供を育て上げ、今も現役の掃除婦として働く祖母(吉行)から、明広は貧乏ながらも楽しく生きる哲学を学び、たくましく成長していく。
 
[コメント]
 とことん貧しくても背筋をしゃんと伸ばして何事も前向きに考えていく—。由緒正しい<清貧>とも呼びたくなるこのおばあちゃんの生き方は、些細なことで思い悩んで疲弊している現代人から見ると、実にたくましく、そして清清しく感じられる。
 この佐賀の田舎で描かれるおばあちゃんの生活は確かに貧しい。明広が毎日もっていくお弁当はいつもご飯としょうがしか入っていないし、野菜も市場から流れてくる売り物にならないものを裏庭の小川で拾い集めて食卓に並べている。それでも「今のうちに貧乏しておけ! 金持ちになったら、旅行へ行ったり、寿司食ったり、着物を仕立てたり、忙しか」とか、「通知表は、0じゃなければええ。1とか2を足していけば5になる!」などなど、落ち込むどころか常にプラスに心の持ち方を方向づけている。正しいことをしていればいつかきっといいことがあるという信念に支えられているように思え、それが観ている者の心を晴れやかにするのだと思う。 (淳)

ALWAYS 三丁目の夕日
2005年/『ALWAYS 三丁目の夕日』製作委員会製作/東宝配給/2時間13分
 
監督・脚本・VFX=山崎貴
原作=西岸良平
脚本=古沢良太
撮影=柴崎幸三
音楽=佐藤直紀
出演=吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希、三浦友和、もたいまさこ、薬師丸ひろ子
 
ALWAYS 三丁目の夕日
© 2005 「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会
 
[ストーリー]
 舞台は東京タワーが完成する昭和33年の東京下町。夕日町三丁目には個性豊かな住民たちが住んでいた。鈴木オートの主人(堤)と奥さん(薬師丸)、一人息子で小学生の一平(小清水)、青森から集団就職で上京した住み込みの六子(堀北)という鈴木家、その向かい側で副業として駄菓子屋を営む売れない作家の茶川(吉岡)、近くで居酒屋を営む元踊り子のヒロミ(小雪)、空襲で妻と娘を失った医者(三浦)等などが織りなす古きよき日本の家族の触れ合いを描いた心温まる人間ドラマである。
 
[コメント]
 この作品を見終わって40数年前にタイムスリップしたような感覚になったのは、私だけではあるまい。昭和30年代、決して裕福ではなかったし、今のように物もなかった時代であるが、人々は明るかったし、未来への夢もあった。そんな時代を東京下町の人たちを通して活き活きと描いている。そして本当に驚くのは、この頃を見事に再現していることである。それゆえに全ての場面が懐かしさであふれている。集団就職、上野駅、建築中の東京タワー、自動三輪車、初めてのテレビ、プロレス中継、冷蔵庫、路面電車、駄菓子屋、街並み等なド......。この再現を担当したスタッフが、その頃を全く知らない若い世代の人たちであるというのも驚きである。
 この作品に惹きつけられるのは、単に懐かしさだけではないような気がする。随所に出てくる建設中の東京タワーが象徴するように、未来に夢と期待を持って伸びようとするあの頃の日本に比べて、物は豊かだが夢がもてない閉塞感が漂っている現代日本。もう一度あの頃のように、未来に夢と希望を持ち明るく生きたいという思いに駆られるからではないだろうか......。それにしてもある世代の人たちの痛いところを突いてくる作品である。 (わたさん)

●ゲストの紹介
倉内 均(くらうち ひとし)監督

 制作会社アマゾン代表取締役。『冬物語』(1989年・東宝)、ドラマスペシャル「炎の料理人・北大路魯山人」(87年放送文化基金賞奨励賞)、「発見! 仏の世界・西村公朝」(2000年ATP賞優秀賞)や「四谷怪談〜恐怖という名の報酬」(2003年ATP賞優秀賞)などを演出。
 『佐賀のがばいばあちゃん』は劇場公開作品としては2本目の監督作品となる。
 
司会:北川 れい子(きたがわ れいこ)氏

 東京中野生まれ。映画評論家。1970年代初め、国家公務員の傍ら映画批評を書き始め、各誌に精力的に執筆。85年に公務員を退職し、現在、キネマ旬報、シナリオ、週刊新潮、夕刊フジ、その他に寄稿。「週間漫画ゴラク」誌の日本映画批評は開始からそろそろ四半世紀で連載1,300回を越す。ミステリ評も手がける。猫10匹とも同居。