今を生きる彼女たちの恋愛模様

11月26日 「今を生きる彼女たちの恋愛模様」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
11:00−12:44
13:30−15:36
15:55−18:02
18:15−18:55
好きだ、
やわらかい生活
ストロベリーショートケイクス(R15)
トーク 矢崎仁司監督、中村優子氏、狗飼恭子氏、司会:森直人氏

好きだ、
2005年/『好きだ、』製作委員会製作/ビターズ・エンド配給/1時間44分
 
監督・脚本・編集=石川寛
撮影=石川寛、尾道幸治
音楽=菅野よう子
出演=宮崎あおい、西島秀俊、永作博美、瑛太、小山田サユリ、野波麻帆、加瀬亮
 
好きだ、
 
[ストーリー]
 17歳のユウ(宮)は、同級生のヨースケ(瑛太)が弾く下手なギターを川辺でいつも聴いている。互いに好意を持ちながらも、うまく伝えることができない2人。そのうち、ある出来事をきっかけに、2人は会わなくなってしまう。それから17年の月日が経ち、2人は偶然、再会する。
 
[コメント]
 前作『tokyo.sora』では都会に生きる女性の姿をリアルに描いた石川寛監督。今作では好きな相手に想いを伝えることができないという誰もが経験する感情を、詩的な映像と素朴で温かいギターの音色で切なく描いている。
 17歳のユウを演じるのは、若手女優の中では実力No.1の宮崎あおい。撮影当時、実際に17歳だったという彼女は、ヨースケに惹かれながらも素直に気持ちを伝えられないユウを瑞々しくも繊細に演じている。また、ユウの気持ちに上手く応えられない不器用なヨースケを、瑛太が自然な佇まいでリアルに演じている。近くにいるのに伝えられない、2人のもどかしい気持ちが映像から迫ってくるようで切なくさせられる。誰もが過去(或いは現在)の自分の姿に重ねてしまうことだろう。
 34歳になったユウとヨースケを永作博美と西島秀俊が演じる。17歳の2人からは全く違和感を抱かせないが、それでも大人になって変わってしまった部分が見え隠れする。2人の変わらなかった想いは果たして伝わるのだろうか—。その想いのゆくえは、是非スクリーンでご覧ください。 (河)

やわらかい生活
2005年/『やわらかい生活』製作委員会製作/松竹配給/2時間6分
 
監督=廣木隆一
原作=絲山秋子
脚本=荒井晴彦
撮影=鈴木一博
音楽=nido
出演=寺島しのぶ、豊川悦司、松岡俊介、田口トモロヲ、妻夫木聡、柄本明、大森南朋
 
やわらかい生活
 
[ストーリー]
 一流大学卒、大手企業総合職とエリート街道を進んできた優子(寺島)は、両親と親友の突然の死をきっかけに、鬱状態になってしまう。趣味のいい痴漢(田口)に出会い、蒲田に引っ越してきた優子の周りに、鬱病のやくざ(妻夫木)、元同級生でEDの議員(松岡)、そして従兄弟の祥一(豊川)が集まってきて、優子の心は次第にほぐれていく。
 
[コメント]
 『ヴァイブレータ』の廣木隆一監督と寺島しのぶが再びコンビを組み、前回に引き続き心に病を持つ現代女性の姿を描いたこの作品は、都会の外れにある街、蒲田を舞台に描かれる。エリート街道を進んできた優子がドロップアウトした後に移り住む、ちょっとやさぐれた雰囲気のこの街で、大きな喪失感を抱え、躁鬱を繰り返す優子の周りに集まってくる、何とも風変わりな男たち。彼らとの奇妙な関係は、通俗的に言えば愛の彷徨を描いたものと言えるのだが、それをきわめて日常のなかに埋没させてしまうかの様に描いているのが印象的だ。
 生きることに疲れて、都会の片隅で自分らしさを取り戻していくヒロインを演じる寺島しのぶは、本当にその辺にいそうなリアルな存在感を醸し出している。ヒロインを取り巻く男たちも何かしら孤独や弱さを抱えているのだが、そのなかでも豊川悦司演じる祥一の優しいダメ男っぷりがいい。都会に浮遊する彼らはどこへ行くのか。夕景が似合うこの街で、優子がたそがれのなかに見たものは……? (河)

ストロベリーショートケイクス
2005年/アップリンク、エス・エス・エム、コムストック、TOKYO FM製作/アップリンク、コムストック配給/2時間7分
 
監督・編集=矢崎仁司
原作=魚喃キリコ
脚本=狗飼恭子
撮影=石井勲
音楽=虹釜太郎
出演=池脇千鶴、中越典子、中村優子、岩瀬塔子、加瀬亮、安藤政信
 
ストロベリーショートケイクス
 
[ストーリー]
 大失恋を乗り越え、今は恋の訪れを待つフリーターの里子(池脇)。同級生への叶うことのない想いを貫こうとする、人気デリヘル嬢の秋代(中村)。男に愛されることでしか自分の存在を認められない、結婚願望の強いOLちひろ(中越)。プライドが高く、強く生きようとするがために、過食と嘔吐を繰り返すイラストレーターの塔子(岩瀬)。仕事もタイプも異なる彼女たちがそれぞれの思いを抱え、傷つきながらも人生に向かい合った時、小さな奇跡が起こる。
 
[コメント]
 10数年前、新宿で『三月のライオン』を観た。まだやわらかかった私の心にさっくり突き刺さった。経験より想像の方が豊かだったあの頃、衝撃を受けた映画のことは忘れることが出来ない。
 それからたくさんの映画を観て、たくさんの経験をした。久しぶりに矢崎監督の映画が観られるというので、わくわくしながら映画館に向かった。「恋愛」の話だと思っていたが、それだけではなかった。「生きていくことの大変さ」の映画というべきか。生と死の間にある生活の中での恋は甘いだけではない。影があるから、光がある。死に向かっているから、生きていることを実感する。今しかない時間を一所懸命に生きている彼女たちの姿に、忘れかけていたことを思い出した。
 ラストシーンがハッピーエンドと言えるかは観る人によって分かれるところだろうが、私は清々しい気持ちになった。里子の笑顔が「最悪な出来事を乗り越えられたあたしには、なんだってできるような気がしたんだよ」と言っているようだったから。 (黒)

●ゲストの紹介
矢崎 仁司(やざき ひとし)監督

 山梨県生まれ。1980年に『風たちの午後』を製作。16mm作品としては異例のヒットとなり、ヨコハマ映画祭自主制作映画賞他、多数受賞、海外でも多数の映画祭に招待される。91年には『三月のライオン』を発表し、ベルギー王室主催ルイス・ブニュエル『黄金時代』賞を受賞。多くの海外映画祭にも招待され、高い評価を受ける。『Maybe Next Time』(93年)、『百年前 予告編』(94年)を発表した後、95年に文化庁芸術家海外研修員として渡英。2000年、ロンドンを舞台にした『花を摘む少女と虫を殺す少女』を発表する。寡作ながら、常に国内外から注目され、新作を待ちわびていたファンも多い。
 
中村 優子(なかむら ゆうこ)氏

 福井県出身。1999年『金融腐蝕列島〜呪縛〜』(原田眞人監督)でスクリーンデビュー。2001年に出演した『火垂〜ほたる〜』(河瀬直美監督)で、ブエノスアイレス映画祭主演女優賞を受賞する。主な出演作に、『TRUTH :A STREAM』(01年・槌橋雅博監督)、『軒下のならず者みたいに』(03年・青山真治監督)、『自殺マニュアル』(03年・福谷修監督)、『血と骨』(04年・崔洋一監督)、『イン・ザ・プール』(05年・三木聡監督)、『蝉しぐれ』(05年・黒土三男監督)、『心中エレジー』(05年・亀井亨監督)などがある。この他、CM、TV、WEBドラマなどに多数出演している。
 
狗飼 恭子(いぬかい きょうこ)氏

 埼玉県出身。1992年に第1回TOKYO FM『LOVE STATION』ショート・ストーリー・グランプリにて佳作を受賞。高校在学中より雑誌などに作品を発表。95年に小説第一作『冷蔵庫を壊す』を刊行。以後、小説・脚本・エッセイ等、多方面において活動の場を広げる。(DECADEオフィシャルホームページより)
 
司会:森 直人(もり なおと)氏

 1971年、和歌山県生まれ。映画批評、ほかライター業。著作に映画評論集『シネマ・ガレージ〜廃墟のなかの子供たち〜』(フィルムアート社)がある。編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)など。