映画は原作を超えられるか

11月23日 「映画は原作を超えられるか」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
13:00−14:34
14:50−16:42
17:00−18:50
サイドカーに犬
腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
アヒルと鴨のコインロッカー

チケット購入-> @電子チケットぴあ / ローソンチケット(Lコード: 35985) / その他

| プログラム一覧 | プログラム日程 |

サイドカーに犬
2007年/『サイドカーに犬』フィルムパートナーズ製作/ビターズ・エンド、CDC配給/1時間34分
 
監督=根岸吉太郎
原作=長嶋有
脚本=田中晶子、真辺克彦
撮影=猪本雅三
音楽=大熊ワタル
出演=竹内結子、古田新太、松本花奈、谷山毅、ミムラ、鈴木砂羽
 
サイドカーに犬
© 『サイドカーに犬』フィルムパートナーズ
 
[ストーリー]
 父(古田)と喧嘩の絶えなかった母(鈴木)が家を出て行ったある夏の日、薫(松本)の家に“ヨーコさん”(竹内)は突然やって来た。母とは正反対のヨーコの姿に戸惑う薫だが、次第に、さっぱりとカッコ良く生きているヨーコに憧れや友情のような感情を抱いていく。
 
[コメント]
 幼い頃、自分の周りに魅力的な大人がいたか考えてみたが、誰も思い浮かばない。皆、良くも悪くも「ふつう」だった。
 この映画の薫の場合は10歳でヨーコさんという素敵な人に出会った。ヨーコさんは豪快で大雑把で、今まで悪いとされていたことすべてをやすやすとやってのける。薫はそんな彼女に目を丸くしながらも、ちゃんと自分のものさしでヨーコさんの素晴らしさに気付く。それが薫のいいところ。いや、ほとんどの子供は自分のものさしを持っているのに、それを封じているのは親の押し付けかもしれない。ヨーコさんのいいところ。自分に正直である。子供と対等に接する。余計なことは言わず、大切なことは自分の言葉でしゃべる。
 ラストに流れるYUIの主題歌—夕暮れに伸びる影 幸せの形が変わる♪というフレーズが胸に沁みる。幸せの形はひとつじゃないし、物事には色々な側面がある。小さい頃に価値観をひっくり返されるような出会いをした人にはそれが自然にわかるのだろう。
 コーラを飲むと歯が溶けるよ!という大人になってしまった私にはちょっぴり羨ましい。 (黒)

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
2007年/モンスターフィルムス、ティー・ワイ・オー、アミューズソフトエンタテインメント、ファントム・フィルム、ソニー・ミュージックエンタテインメント製作/ファントム・フィルム配給/1時間52分
 
監督・脚本=吉田大八
原作=本谷有希子
撮影=阿藤正一、尾澤篤史
音楽=鈴木惣一朗
漫画=呪みちる
出演=佐藤江梨子、佐津川愛美、永作博美、永瀬正敏、山本浩司、土佐信道
 
腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
© 2007「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」製作委員会
 
[ストーリー]
 女優を目指して上京していた和合澄伽(佐藤)は、両親の訃報を受け、帰省する。自分が女優として成功しないことを妹の清深(佐津川)が過去にしでかした事件のせいだと疑わない澄伽は、異常なやり方で妹に復讐を始める。兄の宍道(永瀬)や兄嫁の待子(永作)も澄伽の身勝手な振る舞いに巻き込まれ、やがてまた事件が起きてしまう。
 
[コメント]
 澄伽のように、「自分は特別な人間だ」と思い込んだり、「何者かになりたい」という思いを抱いたりすることは、誰もが経験することではないだろうか。でも、幸か不幸か大抵の人間は「普通」で、自分には特別なものはないと気づいた時、人は自意識過剰な思春期を卒業して、大人になってゆく。澄伽はそのことに気づくことができず(それゆえに努力もせず)、ただ周りに当り散らす子供だ。そんな姉を冷酷なまでに冷静に見つめる清深の目を意識して、初めて澄伽は客観性を得ることができたのではないだろうか。
 原作者は、この小説で三島由紀夫賞候補に選ばれた弱冠28歳の本谷有希子。この作品は自らが主宰する「劇団、本谷有希子」で上演された戯曲であり、彼女のデビュー作でもある。山間で起こる家族劇という設定は一見舞台向きに思えるが、CM界の鬼才・吉田大八監督はサトエリを画面いっぱいに暴れさせ、アイデア満載のユニークな仕掛けで映像ならではの作品に昇華させた。永作博美の怪演や永瀬正敏の渋い演技も見どころ(個人的にはこの2人が格闘するシーンが好き)。ラストは原作と違うそうだが、映画はブラックユーモアの中にどこか哀愁や爽やかな余韻があって良かった。 (奈)

アヒルと鴨のコインロッカー
2006年/アミューズソフトエンタテインメント、スカパー・ウェルシンク、デスペラード、ダブ、読売広告社、東日本放送、河北新報社製作/ザナドゥー配給/1時間50分
 
監督・脚本=中村義洋
原作=伊坂幸太郎
脚本=鈴木謙一
撮影=小松高志
音楽=菊池幸夫
出演=濱田岳、瑛太、関めぐみ、松田龍平、田村圭生、大塚寧々、関暁夫、なぎら健壱、キムラ緑子
 
アヒルと鴨のコインロッカー
© 2006『アヒルと鴨のコインロッカー』製作委員会
 
[ストーリー]
 「一緒に本屋を襲わないか。」仙台の大学に通い始めた椎名(濱田)はアパートの隣に住む河崎(瑛太)から本屋襲撃に誘われる。そして同じアパートに住むブータン人に広辞苑をプレゼントしたいと言う。困惑しながらもモデルガンを手に本屋襲撃を手伝ってしまった椎名は、夜になると出かけてしまう河崎の後を追い始める。
 
[コメント]
 若手の実力派俳優のなかでも特筆すべきは瑛太だろう。ボブ・ディランの「Blowin' in the Wind(風に吹かれて)」を聞くと彼の無邪気な笑顔と暗い部屋で俯く姿を思い出さずにはいられない。
 本作品がここまでに人の心を引きつけたのはなぜだろう。一因には作中に身の回りにある社会的な問題が存在するからではないだろうか。感じたことのある残酷な感情と憐れむ気持ちが観ているときに蘇った気がするのだ。そして物語のなかの彼らの辛さを思う気持ちがあるからこそ、ラストにこの作品の優しさを感じ取ることができるのだ。
 しかしながら私たちは神に見捨てられたと思うほど残酷な運命に陥ったときはどうすればいいのだろうか。残念ながらこの作品を観てもわからない。ボブ・ディランは「The answer is blowin' in the wind」、答は舞う風のなかにあると歌いかけている。 (高)

◆主催・お問合せ◆

   TAMA映画フォーラム実行委員会 / 財団法人多摩市文化振興財団

   〒206-0025
   多摩市永山1-5
   多摩市立永山公民館内
   事務局 TEL 080-5450-7204(直通)
   TEL: 042-337-6661 FAX: 042-337-6003