第1部 人類の大地 アフリカ
第2部 <韓国のブニュエル>キム・ギヨン生誕90年祭!

11月23日 (ベルブホール)

●Time Table●
第1部
11:00−12:42
12:55−14:47
第2部
15:30−17:18
17:30−18:10

バオバブの記憶
ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷

下女
トーク ゲスト:高橋洋氏(脚本家・映画監督)、篠崎誠監督(予定)、古澤健氏(映画監督・脚本家)
 ほか覆面上映作品1本

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バオバブの記憶
2009年/日本/サスナフィルム・ポレポレタイムス社配給/1時間42分
 
監督=本橋成一
撮影=一之瀬正史
語り=橋爪功
音楽=トベタ・バジュン
出演=モードゥ・デュフ、トゥーバ・トゥール村の人々
 
バオバブの記憶
 
[ストーリー]
 セネガルのトゥーバ・トゥール村には精霊が宿るといわれるバオバブの樹があり、村人たちはその恩恵を受けながら暮らしている。一方で近年、都市部では急速な近代化が進み、バオバブの樹が無残に切り倒されている現状もある。村で暮らす少年モードゥ・デュフと彼を取り巻く人々を通して、人間と自然とが共存するとはどういうことなのかを静かに問いかける。
 
[コメント]
 写真家でもある本橋成一監督は、どんな想いでこのバオバブの物語を映像に残そうとしたのだろうか。彼は何度か訪れるうちに次第にこの樹に魅せられていき、「この個性的な形は、人間や動物たち、そして大自然と関わってきた証に思えてきた。幹に記された模様にも、そのバオバブの記憶が記されているように見えてきた」。そんな想いでアフリカを訪れたあるとき、時代の流れで急速に進む都市開発のために切り倒されて無残に横たわったバオバブを眼のあたりにしてしまう。
 かつて崇拝されたバオバブの記憶を持つ風景を求め、たどり着いたのがトゥーバ・トゥール村だった。そこで暮らす12歳の少年、モードゥとその家族を通して、本橋監督は記憶のなかのバオバブと再会を果たす。この映画はバオバブの樹と人間との共生を丹念に描きつつ、少年が生きる未来へ向け、「なぜ人間だけが地球上の生き物たちの時間を追い越して暴走したのか」を静かに問いかける。その地から遠く離れた我々は、この問いかけをどう受けとめて進んでいけばいいのだろうか。(S井)

ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷
Return To Goree
2006年/スイス/アルシネテラン配給/1時間52分
 
監督・脚本=ピエール・イヴ・ボルジョー
プロデューサー=ジャン・ルイ・ポルシェ
脚本=エマニュエル・ジェタ
撮影協力=カミーユ・コタヌー
編集=ダニエル・ジベル
出演・音楽=ユッスー・ンドゥール、モンセフ・ジュヌ
 
ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷
© 2003 株式会社エプコット アルシネテラン・ディヴィジョン All rights reserved.
 
[ストーリー]
 世界的人気を誇るセネガル出身のミュージシャン、ユッスー・ンドゥールが、盲目のジャズ・ピアニスト、モンセフ・ジュヌとともにアフリカ黒人奴隷の苦痛に満ちた歴史と現在、その苦しみのなかで生まれた音楽の系譜をたどる。ブルース、ジャズ、ゴスペル、ラップなど、世界各地のミュージシャンたちとセッションを重ね、彼らとともに奴隷貿易の拠点だったアフリカ西端のセネガル・ゴレ島に帰り、魂をこめた歌声を響かせる。
 
[コメント]
 魂を揺さぶるリズムにのせて響く歌声。一体感あふれるハーモニーが醸しだす感情の奥深さ。旅に同行して、ユッスー・ンドゥールが感じていた自身の奏でる音楽と世界各地で息づく音楽との関係性を一緒に確認していくようだった。人々は苦しみや哀しみをリズムにのせて流れ出させたり、音楽を通じ同調し合うことで楽しんだりした。それが伝播・伝承を繰り返し、現在の音楽文化に大きな影響を与えたのだ。見渡せば、私たちの身の回りでも、そんなアフリカをルーツとする音楽がたくさん聴かれている。
 私の勉強不足だったのかもしれないが、かつて奴隷貿易の拠点となったゴレ島のことは具体的に知らないことばかりで、語られることも、そこでの歌も、佇む人々の表情も、すべて強烈に印象に残った。奏でられる音楽はどれも魂の共鳴が感じられ、ユッスー・ンドゥールをはじめとする個性的なミュージシャンたちのパフォーマンスに熱くなった。(渉)

下女
1960年/韓国/国際交流基金提供/1時間48分
 
監督・脚本・編集=キム・ギヨン
撮影=キム・ドクチン
音楽=ハン・サンギ
出演=キム・ジンギュ、チュ・ジュンニョ、イ・ウンシム、アン・ソンギ、オム・エンナン
 
下女
 
[ストーリー]
 音楽教師のトンシク(ジンギュ)は、新築の一軒家で妻(ジュンニョ)と子供(ソンギら)とともに幸せな生活を送っていた。ある日、彼は過労で倒れた妻のためにメイドのミョンジャ(ウンシム)を家に迎え入れた。それが悲劇の始まりだった。身持ちが固い彼だったが、メイドに執拗に肉体関係を迫られてしまい、ついには関係を結んでしまう。それを機に、彼女は一家を破滅へと導いて行く……。
 
[コメント]
 ごくありふれた幸せな家庭が各々の人物のエゴイスティックな振る舞いによって徐々に崩れて悲劇に発展していく本作のドラマは、ギリシャ悲劇のように洗練された力強さを持っている。その筋だけを追えば平穏な家庭が崩壊の一途を辿る陰惨な話である。しかし人物の心情や振る舞い、出来事が過剰にデフォルメされた演出は、そのあまりの「明白さ」ゆえに笑いが起きてしまうくらいである。登場人物の欲望渦巻くドラマが映画内のあらゆる要素、例えばガラス窓や階段、雨や雷の視覚・音響効果、おどろおどろしい音楽などと合わさって劇的に盛り上がるさまは、「凄い」としか表せないような映画的快楽に満ちている。ブニュエルや楳図かずお、増村保造とも形容される彼の作品の「怪物」ぶりをぜひ堪能して頂きたい。(佐友)
 
キム・ギヨン

 1919年生まれ。ソウル大学医学部卒業、歯科医の資格を持つ。大学入学以前から演劇活動に夢中になる。大学卒業後は国立劇団で舞台演出を行う。1955年に『屍の箱』で監督デビュー。1960年の『下女』が転機となり、以後同作の2度のリメイクを含む「女」シリーズと呼ばれる作品群を作る。その他にも『十代の反抗』、『玄海灘は知っている』、『高麗葬』などの名作を数多く製作している。98年に不慮の火災事故で亡くなる。ここ数年彼の作品が世界的に新たな盛り上がりを見せている。

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