第1部 ヨーロッパ映画特集
第2部 自立した生き方

11月23日 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
第1部
10:15−12:21
12:40−14:30
第2部
15:00−17:14
17:30−19:40

セラフィーヌの庭
あの夏の子供たち

春との旅
RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語

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第1部 ヨーロッパ映画特集

セラフィーヌの庭
Séraphine
2008年/フランス・ベルギー・ドイツ/アルテシネラン配給/2時間6分
 
監督=マルタン・プロヴォスト
撮影=ロラン・ブリュネ
音楽=マイケル・ガラッソ
プロデューサー=ミレーナ・ポワロ
出演=ヨランド・モロー、ウルリッヒ・トゥクール、アンヌ・ベネント、フランソワーズ・ルブラン、ジュニヴィエーヴ・ムニシュ
 
セラフィーヌの庭
© TS Productions/France 3 Cinéma/Climax Films/RTBF 2008
 
[ストーリー]
 パリ郊外で家政婦として生計をたてながら、豊かな自然と親しみ、ひとり絵を描き続けていたセラフィーヌ(Y・モロー)。ある日、妻とともに越してきたドイツ人画商のヴィルヘルム・ウーデ(U・トゥクール)のところで働くことになり、才能を見出される。第1次世界大戦を経て再会した2人は、数々の作品を世に送り出していくが……。
 
[コメント]
 郊外に暮らし、独自の視点で鮮やかな絵画を残したセラフィーヌ・ルイ。彼女のユニークな存在感は、周囲の人たちにとって、ときに微笑ましく、ときに奇異に感じられたのだろう。緑色に包み込んでくれる木々、笑顔でそばにいてくれる草花、ゆるやかな流れで誘う小川など、豊かな自然とのつながりのなかで色彩を感じとり、独特の手法でそれを表現しようとする彼女の様子から、その関係性が伝わってくる。
 素朴派といわれる画家たちには、ほかに職業を持ちながら、正式な教育などを受けずに活動を続けた者が多い。彼らは権威からは離れたところで、人々の心を打つ作品を多数生み出したといえる。
 後年、才能を認められて創作に集中できる環境を手にしたセラフィーヌは、徐々に社会との関係が保ちにくくなってしまう。その変化のなかに、都市的なもの(あるいはビジネス的なもの)と、郊外の田園にあるものとの対比が感じられた。第1次世界大戦や世界恐慌など、激動の社会情勢がひとりの画家の運命を大きく左右しても、美しくそこにある自然は、いまだにやさしく私たちを見守り続けている。(渉)

あの夏の子供たち
Le pére de mes enfants
2009年/フランス/配給/1時間50分
 
監督=ミア・ハンセン・ラブ
出演=キアラ・カゼッリ、ルイ・ドー・ド・ランクザン、アリス・ド・ランクザン
 
あの夏の子供たち
 
[ストーリー]
 映画プロデューサーとして精力的に働き、人生を謳歌していたように見えた父。彼が何よりも愛していたイタリア人の妻と3人の娘たち。いつでも笑いが絶えなかった一家を、突然ある悲劇が襲う……。
 
[コメント]
 ひとことで表すならば「映画業界残酷物語」だと思う。ここまで映画業界の厳しさを描いた作品はあっただろうか。映画業界というのは、表からはとても華やかで楽しい世界にしか見えないかもしれないが、実際は非常に大変で、毎日忙しく、追い込まれる。流行る映画の裏には流行らない映画があり、こういった人たちが存在するのである。
 それでもこの作品が鮮やかで美しく見えるのは、彼の、妻と娘たちへ愛情の深さにあるのであろう。悲劇は本当に前振りなく襲う。あんなに笑い合っていたのに、あんなに幸せだと思っていたのに、何故……戸惑い、心にぽっかり穴が空き、ただ涙が流れるだけ。
 でも、泣いているだけではだめだから、彼女らは再出発をはかる。決して力強いと言えるほどの再出発ではないかもしれない。父の深い愛情を思い出しながら、彼女たちなりの歩み方で、一歩一歩踏み出していく。
 ラストに、おなじみの「ケ・セラ・セラ」が流れるが、この曲がどんなに麗しく聞こえただろうか。より一層輝いて、私の耳に、心に、残った。(瑞)

第2部 自立した生き方を求めて

春との旅
2010年/『春との旅』フィルムパートナーズ製作/ティ・ジョイ、アスミック・エース配給/2時間14分
 
監督・原作・脚本=小林政広
撮影=高間賢司
照明=上保正道
録音=福田伸
音楽=佐久間順平
出演=仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、田中裕子、淡島千景、柄本明、美保純、香川照之
 
春との旅
© 2010「春との旅」フィルムパートナーズ
 
[ストーリー]
 北海道、増毛。元漁師の祖父・忠男(仲代)は、共に暮らす孫娘・春(徳永)が地元で失業し、都会に出たいと言い出したのをきっかけに、足の悪い自分の生活の面倒を見てもらおうと、それまでずっと疎遠にしていた兄弟たちを訪ね歩く旅に春と出るのだがーー。
 
[コメント]
 私の親たちも老いの時期を迎え、叔父叔母たちも同様。みんな自分の生活があり、必死。兄弟は他人の始まりとはよく言ったもので、兄弟だからと今さら言われても、はいそうですかとお互いの願いや希望に簡単には応じられず、けれどやはり兄弟だもの、優しくしたいし力になりたいけどなかなかままならず……。忠男の突然の来訪にとまどい、怒り、それでも何とか力になりたいと思う兄弟たちの姿に、私は自分の親たちと兄弟たちの姿を思わず重ねて観ていました。
 わがままなおじいちゃんを時には叱り飛ばしつつもしっかり寄り添い、そして自分のことにも旅のなかで向き合う春ちゃん。ほとんどガチンコ勝負にすら見える二人の姿は見事です。今まで日本の映画界・演劇界を支えてこられた大俳優である仲代達矢さんから若い徳永えりさんへの、芝居という命脈をつなぐ旅がこの作品でもあると思いました。(越)

RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
2010年/「RAILWAYS」製作委員会製作/松竹配給/2時間10分
 
監督・脚本=錦織良成
脚本=ブラジリィー・アン・山田、小林弘利
撮影=柳田裕男
美術=磯見俊裕
音楽=吉村龍太
主題歌=松任谷由美
出演=中井貴一、高島礼子、木仮屋ユイカ、三浦貴大、奈良岡朋子
 
RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
© 2010「RAILWAYS」製作委員会
 
[ストーリー]
 49歳の筒井肇(中井)がふとこれまでの人生に疑問を持ち始めるようになった矢先、田舎で暮らす母(奈良岡)が倒れ同期の親友までもが事故死した。肇は故郷の景色のなかで、これまで脇目も振らず仕事一筋に走り続けてきた自分をふと振り返り、将来に向かってある一大決心をする。それは幼い頃の夢、バタデンの運転手になることだった……。
 
[コメント]
 私を含めた現在50歳前後の世代は「もはや戦後ではない」という当時の世論が実質ともに頂点を極めた時代に生まれ出て、団塊世代の競争社会と高度成長期の勢いに影響されてきた。また、戦前の情操教育から資本主義の狭間で成長し、目に見えない人情や思いやりの精神よりも現実的なモノ・カネ重視の社会風潮へと流れて現代に至っている。
 しかし、最近この主人公のように真逆の価値観を求める人々が、身近な範囲で徐々に広がりつつあるのを感じる。本当の幸せは、ささやかであっても自分が本来目指している夢に向かって生きることと気づけば、いくつになっても再び新たな気持ちで前に進むことが出来るのかもしれないと、この作品を観て何だか妙にワクワクした気持ちになれた。
 エンディング主題曲が松任谷由美というのも、彼女の歌に癒されながら青春時代を過ごした者にとっては嬉しいプレゼントである。(S井)

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