思春期の子供達・大林宣彦特集

11月23日 「思春期の子供達・大林宣彦特集」 (やまばとホール)

転校生
1982年/日本テレビ、ATG/1時間52分
 
監督=大林宣彦
原作=山中恒
脚本=剣持亘
音楽=林昌平
撮影=阪本善尚
出演=小林聡美、尾美としのり、佐藤允、宍戸錠
 
[コメント]
 男と女がもし入れ変わったらという奇抜な発想から展開する大林監督の代表作の1つ。小学6年生に連載された山中恒の児童小説「おれがあいつであいつがおれで」の映画化で主人公が小学生という設定から中学生に書き換えられている。キャスティングは当時無名だった尾美としのりと小林聡美を起用し、話題になった。なお尾美としのりはこの作品から大林作品の常連となる。まだ恋とも友情とも呼べない子供達の内面をコメディタッチの明るいトーンで描き全編面白さが詰まったそれでいて切ない絶妙のバランスで観客を魅了する。子供の内面を描くと云えば85年の「台風クラブ」があるが精神的に追いつめられていく子供の内向的な気持ちを深く掘り下げるこの作品に比べ厳しい問題に出遭っても主人公の子供達の表情は活き活きとしていて素晴らしい。この元気なひたむきさが子供そのものって気がするのだ。そしてラストの8ミリカメラを使ったシーンは本当に切ない傑作。 (舟)

時をかける少女
1983年/角川春樹事務所/1時間44分
 
監督=大林宣彦
原作=筒井康隆
脚本=剣持重
音楽=松任谷正隆
撮影=阪本善尚
出演=原田知世、尾美としのり、高柳良一、根岸季衣
 
[コメント]
 原田知世の“魅力爆発”という映画。原作は筒井康隆のSF小説だが本篇はSFよりも青春映画の香り漂う淡いラブストーリーになっていて全体を包むパステルカラー調のフィルムも大林作品中、屈指の美しさだろう。公開された当時は角川映画の2大看板娘(もう1人は薬師丸ひろ子)の話題作という扱いでそれ以降、さして評価も受けずに終ってしまった覚えがあるが、今ふたたび見返してみると1つの事実に気付いた。それは作品の出来云々という問題では無く、主演の原田知世の清楚な美しさがこの作品の全てを語っているという点だ。こう書くと他は何も無いのかと思う人もいるだろうが勿論そんな事はない。この作品の原田知世が特別なのだ。まさに思春期特有の一瞬の美しさがスクリーンで輝いている。大林監督はこういった少女たちのほんの一瞬を捉えるのが本当に巧い。「さびしんぼう」の富田靖子や「ふたり」の石田ひかりもそうだ。しかしスクリーンの中で決して色あせない美しさを手に入れたのは原田知世ただ1人である。「キューポラのある街」の吉永小百合のように。 (舟)

さびしんぽう
1985年/東宝+アミューズシネマシティ/1時間52分
 
監督=大林宣彦
原作=山中恒
脚本=剣持亘、大林宣彦、内藤忠司
音楽=宮崎尚志
撮影=阪本善尚
出演=富田靖子、尾美としのり、藤田弓子、小林稔待
 
[コメント]
 いつもカメラのファインダーを通して、名前も知らない話したこともない一人の少女を追いかけている少年、ふとしたことから少女と出会う事が出来、少年にとっては胸がウキウキする様な楽しい一時を過ごす。再びプレゼントを少女に渡そうとして必死で探しまわる少年、やがて少女は去っていく。いつの間にか少年も大人となり、少女との思い出も青春の1ぺ−ジとなっていく。“さびしんぼう”という少年の母の少女時代の想いを詰め込んだ様な「存在」も登場し、更にとどめに別れの曲が流れることによって、青春時代への思い出が切なく感じてくる。
 この作品に限ったことではないが大林宣彦監督の作品というのは、見終った後、何となく青春時代への思い出が切なく、胸がキュンとなる様な感覚におそわれる。そして、その感覚を味わいたいが為に、人々は再び大林映画を見にいくのだと思う。 (武)

ふたり
1991年/ギャラック、PSC、NHKエンタープライズ/2時間30分
 
監督=大林宣彦
原作=赤川次郎
脚本=桂千穂
音楽=久石譲
撮影=長野重一
出演=石田ひかり、中嶋朋子、宮司純子、岸部一徳
 
[コメント]
 ドジでのろまな実加が幽霊となって出てくる姉と、時には語らい、時にはぶつかりあいながら様々な出来事を乗り越えて、やがて自分のいるべき位置を見つけて成長していく。
 とにかくこの映画は素晴しい! ファーストシーンからいきなり映画の世界に引きこまれる様な音楽と映像の絶妙さといい、尾道という土地の魅力がにじみ出ている様な風景描写といい、石田ひかりの演技といい、どれをとっても見応え十分である。
 話はそれるが私は何を隠そう、中嶋朋子の大ファンである。ささやく様に話す口調、なにかを訴えかけている様でいて神秘性をも感じさせる様な眼。何かと微妙な立場である役を演じることが多いにもかかわらず、脇役にとどまってしまうことが多いのか、出番が余まりなくてファンとしては今ひとつ物足りなさを感じるが、良く考えてみると、中嶋朋子の魅力は「微妙な立場の役」を演じることで引きだされるのではないかと思う。「ふたり」にしても幽霊という非常に微妙な役を演じていて妹である実加に対しても様々な影響を与えて盛りたてていく。主役を盛りたて、尚自分の存在のアピールを忘れてはいない、いわば影の主役を演じている。
 作品は息もつかせぬ程素晴しい場面の連続の2時間半。満足感を味わう事でしょう。 (武)