VIVA!! 映画誕生100年前夜

11月22日 「VIVA!! 映画誕生100年前夜」 (やまばとホール)

八月の濡れた砂
1971年/日活/1時間31分
 
監督・脚本=藤田敏八
脚本=峰尾基三、大和屋竺
撮影=萩原憲治
音楽=むつ・ひろし
美術=千葉和彦
出演=村野武範、広瀬昌助、テレサ野田、藤田みどり
 
[ストーリー]
 石川セリのアンニュイな主題歌にのって、70年代初頭の湘南を背景に、自分たちのエネルギーを撫焼しきれない若者の姿を描く。清(広瀬)は、海岸で不良たちに強姦された少女早苗(テレサ)を助ける。清の仲間の健一郎(村野)は、母の愛人の亀井が父親気取りしているのを鼻持ちならないと感じ、反発していたが、亀井の雇った3人のチンビラに襲われてしまう。ある日、亀井のヨットを乗っ取った健一郎は、清、早苗、早苗の姉真紀(藤田)の4人で海へと繰り出す。
 
[コメント]
 目標がなんであるか分からない、若者の苛立たしさ、大人になりたい気分、大人への不信感、また、女の性の悲しさ等を盛り込んで、1970年代の若者の心理をひと夏のストーリーの中に描き出している。今も昔も、若者の心理は変わらないような気がします。なつかしい背景の中で村野武範が20代の若さをぶつけて好演しています。ラストシーンからタイトルバックまで、海とヨットと光の中のワン・カット撮影が素晴らしい。最後までごゆっくりお楽しみ下さい。 (安)

伊豆の踊子
1963年/日活/1時間27分
 
監督・脚本=西河克巳
原作=川端康成
脚本=三木克巳
撮影=横山実
音楽=池田正義
美術=佐谷晃能
出演=吉永小百合、高橋英樹、大坂志郎、宇野重吉
 
[ストーリー]
 講義を終えた老教授(宇野)は、街頭で教え子のひとりに仲人を頼まれる。相手は踊り子(吉永=2役)だという。教授は40年前を思いだす。旧制一高生の彼(高橋)はひとり伊豆へ旅に出て天城峠あたりで旅芸人の一行と出会った。その中のひとり、薫という16才の踊り子(吉永)の純真さに心をひかれる。彼らは下田まで2、3日の同行となるが、その間に薫も一高生にほのかな思いを寄せる。しかし座長格のお芳は、身分の差を考えて薫が不幸になることを放っておけず、2人を引き離す。薫は下田港の桟橋で青年の乗った船を涙をためて見送った。教授は回想から醒めた。学生と踊り子は嬉しそうに雑踏の中に消えていった。
 
[コメント]
 『伊豆の踊子』は現在までに6作あり、この映画は第4作目にあたる。(第6作目も西河監督によって山口百恵主演で撮られている)なぜ彼らは6作もリメイクしたのであろうか。百恵ちゃんのあと20年経つが、その後は、いかに…。私はその答えを求めて、「踊り子号」に乗り、小説片手に伊豆への旅に出てみたい。 (松)

警察日記
1955年/日活/1時間50分
 
監督=久松静児
原作=伊藤永之介
脚本=井手俊郎
撮影=姫田真佐久
音楽=団伊玖磨
美術=木村威夫
出演=森繁久彌、三国連太郎、二木てるみ、宍戸錠
 
[ストーリー]
 会津・磐梯山麓の小さな町の警察署を舞台にその町で繰り広げられる人間模様をほのぼのと描く、久松静児監督の代表作。捨て子の姉妹を拾い、赤ん坊の妹を料理屋の女将に預け、姉(二木)を自分の家に預かる吉井巡査(森繁)、周旋屋にひっかかり売り飛ばされそうになった娘を助け、彼女に恋心を抱く花川巡査(三国)、剣道自慢の薮田巡査(宍戸)などいくつかのエピソードをスケッチ風に綴っていく。農民文学の第1人者、伊藤永之介の原作を、方言の面白さを生かして描いた人情喜劇。
 
[コメント]
 確かに日本にはこんな時代があったとなつかしさに似た感情が湧いてきます。磐梯山のふもとの小さな町の警察を舞台にした庶民の生活のスケッチ集ともいえる映画です。高度経済成長期直前の日本……ビルも大工場もない、広々とした田園風景の中をおんぼろの消防自動車や荷馬車がガタゴトと動きます。そういった中で繰り広げられる笑いと共に庶民の貧しさが描かれます。生活苦から子供を捨てた母、子供のために万引きする母、農家の娘にいい仕事を紹介し、言葉巧みに誘う周旋をなりわいとする女……、このような女たちの姿に焦点をあてながら人情味にあふれる警察官を狂言まわしに仕立てていくつかの事件を綴っていきます。そういった中で久松静児監督は、子役の二木てるみの仕草や表情に自分の思いをぶつけているようです。この時の二木てるみはいくつだったのでしょう。天使のような輝きがありました。ちょっと過剰とは思いますが。気持ちのよいセンチメンタルな映画でありました。 (信)

愛の讃歌
1967年/松竹/1時間34分
 
原作=マルセル・パニョール
監督・脚本=山田洋次
撮影=高羽哲夫
音楽=山本直純
美術=梅田千代夫
出演=倍賞千恵子、中山仁、有島一郎、伴淳三郎
 
[ストーリー]
 フランスの劇作家、M・パニョールの「ファニー」を翻案し、舞台をマルセイユから瀬戸内の小島に移して、若い男女の恋の行方を描く。春子(倍賞)は、竜太(中山)と結婚する日を夢見て、幼いふたりの妹を育てながら小島の食堂で働いていた。しかし、父(伴)のもとを逃れて一旗上げたいと考える竜太は、春子を残してブラジルに旅立ってしまう。しばらくして、春子は竜太の子を身籠っていることがわかるが、竜太には告げず出産し、それを不憫に思った療養所の医者吉永(有島)はその子を養子とする。父の容体の悪化から島に戻った竜太は、自分の子供が生まれたことを知る。しかし、赤ん坊に情が移った吉永になじられた竜太は、ひとり大阪へと旅立つ。
 
[コメント]
 評価の定まった作品を映画化するには何かそこに強く投影せざるを得ないそれなりのテーマがあるからなのだと思う。身寄りのない姉妹の面倒をみる粗野だが男気のある父、その圧倒的な力に反発しながらも離脱出来ず、葛藤、相克に陥る息子。この親と子の間にあるはりつめた愛情が印象的である。そして息子の“いいなずげ”として育った娘に抱く初老の医者の恋愛感情があふれてまた美しい。敬虔なクリスチャンで犠牲的、禁欲的な島の医者の物語でもあると言える。そんなヨーロッパ的な精神的風景に、1952年以降の南米移民再開政策や小道具的に使われるコカコーラの日本席巻等々を背景として経済成長期を目前に島を出ることになる若者が重ね合わされる。これは変わりゆく日本の前奏曲が流れ出ている作品ではないだろうか。それにしても若い二人を囲み、笑いと涙の世界を展開させる時代を写しとった配役陣は見事である。 (野)

大学の若大将
1961年/東宝/1時間22分
 
監督=杉江敏男
脚本=笠原良三、田波靖男
撮影=鈴木斌
音楽=広瀬健次郎
美術=村木忍
出演=加山雄三、田中邦衛、星由里子、有島一郎
 
[ストーリー]
 加山雄三主演で作られた若大将シリーズの第1作。京南大学水泳部の田沼雄一(加山)は明朗快活・スポーツ万能で、老舗のすきやき屋の若大将。青大将と呼ばれている石山製菓のドラ息子・石山新次郎(田中)は美人OL・中里(星)に首ったけだが、彼女は雄一を愛している。雄一の縁談話で二人の中はこじれるが、誤解が解けた雄一は、大学の対抗戦が始まっているプールに駆けつけ優勝する。
 
[コメント]
 1961年といえば、日本のプログラムピクチュアが元気な時代だった。加山雄三を売り出すために企画されたこの作品も、東宝の名プロデューサー藤本真澄が戦前の松竹蒲田の明朗スポーツ映画<若旦那シリーズ>(第1作『大学の若旦那』は清水宏が監督)をイメージしたことから生まれたという。そのルーツには、さらにキートンなどのコメディがあった。どうりで屈託のない60年代のオシャレ(!?)なアメリカ的青春群像がほどよく日本風に味つけされ、歯切れのいいテンポで描かれている。監督の名前を知らなくても、同監督作品の美空ひばりら3人娘シリーズ(『じやんけん娘』!)『社長漫遊記』なら知っているはずだ。加山雄三、星由里子、田中邦衛のトライアングル・コメディは本当に面白かった。もちろん作品は大ヒット、17作も作られ、加山雄三はビッグスターになった。今では妙に懐かしい限りだが、あのころ若い娘たちは夢中になって加山雄三に熱いまなざしをむけていたのだ。こんな映画が山のように作られていた時代は2度と来ないだろう。もう1度、プログラムピクチュアという日本映画の宝庫を見直してみたくなった。ところで、幼い私はこのシリーズを観てどういうわけか、牛久沼がウナギ(!)の名産地だと信じ込んだのでした。 (奈)

東京物語
1953年/松竹/2時間16分
 
監督・脚本=小津安二郎
脚本=野田高橋
撮影=厚田雄春
音楽=斉藤高順
美術=浜田辰雄
出演=笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、香川京子
 
[ストーリー]
 一貫して日本の家族の姿を描き続けた小津安二郎監督の集大成と言える作品で、日本映画史に残る傑作。東京で頑張っている子供達に会うのを楽しみに尾道から上京する老夫婦、周吉(笠)と、とみ(東山)。しかし、子供達は初めは歓迎するものの、生活に追われるあまり次第に邪険にしはじめ、ふたりを熱海に行かせたりする始末。結局、一番親身に世話をしてくれたのは戦死した息子の未亡人・紀子(原)だった……。
 
[コメント]
 東山千栄子と孫が土手で遊ぶ姿をロングショットでとらえている。なんともいえず心あたたまる光景である。このようなほほえましい光景は最近全くみかけなくなった。
 そして広島弁の“アリガトウ”“オカゲサンデ”という言葉も最近では余り聞かれない。人々が自分1人でなく他人様のおかげで生かされていることを全く忘れて仕舞っている。この映画が作られたのは終戦後8年たった昭和28年である。その当時でさえ実の親子でも親子関係がなくなっている。当時の東京では誰もが生きていくことで一杯だったのである。それがいまでは全国に広がっており、親子の情、思いやり、人の情はなくなっている。
 それはさておき、杉村春子と中村伸郎の役どころを心得た芸達者ぶりには感心させられる。久し振りに心あたたまる映画を観て、昔は良かったと思うのは私1人だけではないと思う。思わず涙が出て笑われた次第である。 (寺)