ガクの冒険 |
1990年/ホネ・フィルム/55分 |
監督・脚本=推名誠 原作・撮影=佐藤秀明 脚本=沢田康彦 音楽=高橋幸宏 出演=ガク、野田知佑 |
[ストーリー] |
彼の名前はガク。カヌーイストであるとうちゃん(野田)と一緒に川を下っている犬。腹が減ったら川の魚を捕って食べ、夜は川辺で焚き火をして過ごす。とうちゃんとはいいコンビだ。ある時、カヌーが急流で、バランスを失って転覆する。ガクは岸に泳ぎ着いたが、とうちゃんはカヌーと共に下流へ流され、離れ離れに。とうちゃんを探してガクの冒険が始まる。ガクはとうちゃんに会うことができるのか。 |
[コメント] |
ガクととうちゃんとの関係は、犬と飼い主、主従の関係ではない。それは、対等で、お互いがお互いを必要としている、男同士の友情のように感じられる。カヌーの前にガク、後ろにとうちゃんが乗り、カヌーを操るのはとうちゃん、魚を捕るのもとうちゃんだが、ガクだってしっかりと前方を見据え、バランスをとりながら、いっしょに川を下っている。彼らから見れば、人間たちはなんていい加減で、身勝手で、独善的なことだろう。ガクととうちゃんの、固い信頼で結ばれた絆が、大袈裟にならない程度に、しかし、しっかりと描かれている。川の風景といろいろな動物たちに囲まれていれば、ガクととうちゃんにとっては、人間の社会よりもカヌーで川を下っているほうが居心地がいいに違いない。たくさんの動物たちとともに、お馴染み「怪しい」面々が登場しているのも楽しい。動物が演技できるかどうかはわからないが、ガクには確かに表情がある。いい気分のガク、途方に暮れたガク、お願いするガク、喜びのガク。犬にもキチンと感情があるのだ。 (明) |
白い馬 |
1996年/ホネ・フィルム/1時間46分 |
監督・原作・脚本=推名誠 脚本=岸田理生、山上梨香 撮影=高間賢治、明石太郎、鈴木悟、松島孝助 音楽=木村勝英、伊藤幸毅 出演=ガンホルデイン・バーサンフー、アデイルビシーン・ダシビルジェ |
[ストーリー] |
少年ナラン(G・バーサンフー)は7歳。夏休み、町の寄宿舎から、モンゴルの草原で遊牧民として暮らしている家族のもとへ、帰ってきた。祖父母・両親・5人の兄弟たち、そしてナランの大切な白い馬と一緒に、ゲルでの生活が始まる。自然と共存していくなかで、ナランも一家の重要な働き手だ。ある日、ナランは馬頭琴を弾く老人から「スーホの白い馬」の伝説を聞く。全身傷を負いながらもスーホの元へ帰り、その腕のなかで息絶えた馬の話にナランは激しく心を揺さぶられる。そんな時、体の弱かった兄トムルが亡くなる。ナランは自分の白い馬で、少年競馬ナーダムヘ出ることを決意する。 |
[コメント] |
少年ナランの顔は、無邪気な7歳の子供の顔と同時に、モンゴルの厳しい自然の中で生きる、凛とした「男」の表情も持っている。それが顕著に現われるのは、やはり馬に乗っているとき。遊牧民と馬との関係は、伝説「スーホの白い馬」で語り継がれているとおりで、そんな彼らの最高の名誉は、ナーダムに出場して勝つことである。この映画はナランという少年の一夏の成長と、家族愛を描いているだけではない。モンゴルの人々の遊牧民としての生活様式を、モンゴルの自然と共に忠実に描いている。たとえば、ナランたちの住んでいるゲルでの生活には、必要最小限の物と家畜しかない。かといって不自由な生活をしているわけでもない。自然から与えられる恵みと、時には試練のなかで、自然にあわせて共存している。この映画でも見せ場となっているナーダムでは、小さな子供が大人顔負けの馬術で馬を乗りこなし、自らの誇りをかけて勝負に挑む。親から受け継ぐべきものをしっかりと受け継いでいる遊牧民の子供たち。この映画は、そんなモンゴルの人々の精神をも生き生きと描いている。 (明) |
遠野灘鮫腹海岸 (オムニバス映画『しずかなあやしい午後に』の一篇) |
1996年/ホネ・フィルム/30分 |
監督・原作・脚本=椎名誠 原作=林政明 撮影=中村征夫 音楽=高橋幸宏 出演=林政明、猪熊寅次郎、浜田明子 |
[ストーリー] |
男(林)は大変アセった。気ままな旅に出かけ、キャンプ地でも探そうと、とある海岸へ車を乗り入れたところ、砂地にタイヤをとられ動けなくなったのだ。アクセルを踏めば踏むほど、タイヤは空しく空回りし、どんどん車体が沈んでいく車は沈み続け、ちょうど車サイズの穴にスッポリとはまってしまったようだ。やっとの思いでサンルーフから外に出たが、もはや男は自力で穴から脱出できなくなっていた。上を見上げても、小さな四角い空が見えるばかり。そんなところへ、穴の上から覗き込む人の顔が……。 |
[コメント] |
椎名的SF超常世界を描いた小作品。息が詰まるような狭い空間に閉じ込められ、じわりじわりと追い込まれていく。「もし自分がこんな状況に置かれたら」と考えると、おかしくなってしまいそうな、想像したくない世界。ありきたりの日常から、いきなり<ポン>と別の世界に迷い込んでしまい、どんなにあがいてもそこからは出られない。自分の意志とは無関係に陥ってしまった状況に対して、誰でも最初は「一体どうなってるんだ!」という怒りを感じるだろう。でも、その障害の前に自分はいかに無力かを知ると、この男のように「もういいや、どうなったって」という諦めの境地から、かえって状況に従順になってしまうのではないだろうか。椎名監督の持つ、暗い陰の部分。しかし、ただ恐ろしいだけでなく、妙な可笑しみを併せ持っている。あの状況のなかでチャーハンを作り、中華鍋からお箸(さすがにスプーンは持ってなかったか)で食べる男とか、親切なのか冷酷なのか理解を超えた村人の対応など……。映画作りの原点に戻って、映画好きの仲間たちと楽しんで作ったという椎名監督。とにかく、いろんな角度から椎名ワールドが楽しめる。 (明) |