魅惑のインド娯楽映画特集

11月28日 「魅惑のインド娯楽映画特集」 (パルテノン多摩小ホール)

●Time Table●
10:00−12:33
13:00−13:40

14:00−16:21
16:40−19:19
この命 踊りに捧げて
トーク 「マサラ・ムービーの魅力ときらめくスターたち」
 ゲスト:松岡環氏
ボンベイ
ラジュー出世する

この命 踊りに捧げて
JHANAK JHANAK PAYAL BAAJE
1955年/インド/ヒンディー語/2時間32分
(フィルム提供:インド大使館、国際交流基金)
 
監督=V・シャーンターラーム
脚本・作詞=ディーワーン・シャラル
撮影=G・バールクリシュナ
作曲=ワサント・デサイ
振付=ゴーピー・クリシュナ
出演=サンデャー、ゴーピー・クリシュナ、K・ダーテ
 
この命 踊りに捧げて
 
[ストーリー]
 大邸宅に住むニーラー(サンデャ)は、古典舞踏の師マハーラージの息子ギルダル(G・クリシュナ)の踊りに感動し、マハーラージ(K・ダーテ)に弟子入りする。厳しい修行にも耐え、ニーラーは上達していくが、次第に共に修行を積むギルダルとの間に恋愛感情が芽生える。それが修行の妨げになると快く思わないマハーラージ。ニーラーは決意を決め、ギルダルを袖にし、幼なじみの金持ちの男性のもとに走ったと見せかけるが……。
 
[コメント]
 今年、『ムトゥ 踊るマハラジャ』の大ヒットで、歌や踊り満載のインド娯楽映画(以下マサラ・ムービー)の魅力が日本の映画ファンの間でも広く認知されるようになった。躍動感あふれるダンス、艶やかな歌声、アクション大活劇、悲劇、社会的メッセージ……、そしてハッピー・エンドと娯楽映画のすべての要素をとりこんで観客を魅了するマサラ・ムービーの存在には、カルチュア・ショックすら覚えた。このうえなく映画的で面白いマサラ・ムービーが40年以上も日本で公開されていなかったなんて、映画ファンにとって大きな損失である。
 この作品は40年以上前に製作された作品だが、その魅力は今、観ても新鮮である。古典舞踏の踊りにキレがあることにも驚かされる。夏に開催された「インド映画祭1998」で新・旧のマサラ・ムービーを観る機会を得て、90年代に入り歌や踊りのシーンが飛躍的に進歩したとの印象を受けた。しかし、一方でマサラ・ムービーの根底に流れているものは変わらないように感じられた。それは作品全体をつかさどるリズムが大河が流れるがごとくゆったりと横たわり、その上に歌・踊り・アクション・笑い・ストーリーがうねるようにあまねいている。
 やはりひとくちにマサラ・ムービーと言っても、そこにはインド文化の深い歴史があるなと思った次第です。 (淳)

ボンベイ
BOMBAY
1995年/インド/タミル語/S・シェリーラム/アジア映画社、オフィスサンマルサン配給/2時間21分
 
監督・脚本=マニラトナム
撮影=ラージーヴ・メーナン
音楽=A・R・ラフマーン
振付=ラージュ・スンダラム、プラブ・デーヴァー
美術=トーッター・タラニ
編集=スレーシュ・アルス
出演=アラヴィンドスワーミ、マニーシャ・コイララ、ナーザ
 
ボンベイ
 
[ストーリー]
 ボンベイから帰郷していたセーカル(アラヴィンドスワーミ)は、瓦職人の娘シャイラー(M・コイララ)と恋に落ちる。セーカルは結婚を申し入れるが宗教・身分の違いから両家の父親から猛反対を受ける。ふたりはボンベイで駆け落ちをし、双子の男の子が生まれるなど幸福な結婚生活が続いていた。92年ボンベイにおいてヒンズー教徒とムスリム教徒の対立が激化し暴動が起きた。二人の身を案じた両家の両親はボンベイを訪れ、そこで和解するが、暴動は激化する一方だった……。
 
[コメント]
 この作品が海外で上映される際、一部の国では歌や踊りのシーンがカットされて単なる社会派ドラマとして公開されていると聞き、驚いた。宗教対立という深刻な社会問題を取り扱っているのに歌や踊りが入るなんて不謹慎だという固定観念が働いたのだろうが、歌や踊りのシーンがなかったらこの映画の雄大なスケールは霧散してしまうだろう。 セーカルがシャイラーに一目惚れする艶やかな祝祭の踊りのシーンや野原で子供たちと駆け巡るミュージカルシーンがあってこそ、終盤の暴徒によって焼け爛れてしまったボンベイ市街の光景が我々の脳裏に鮮明に焼け付けられているのだと思う。
 それにしてもこの難しい社会問題を家族愛の力で包み込んでしまったマニラトナム監督の構成力は凄いと思う。宗教や身分の隔たりよりも家族愛が勝ることを端的に示したのが、その隔たりからまったく相容れなかった両家の父親が、共通の孫である双子の男の子を通してお互いの心を開いていくくだりである。宗教や身分の違いによる争いが人間の情愛に比べれればいかに些細なことであるかを、実に明快に観客に提示している。
 社会性のあるテーマをマサラ・ムービーと合体させ、新たなるエンタテインメントを生み出していくマニラトナム監督から今、目を離せない。 (淳)

ラジュー出世する
RAJA BAN GAYA GENTLEMAN
1992年/インド/ヒンディー語/シッピー・フィルムズ/エスパース・サロウ、シネマサラ配給/2時間39分
 
監督=アズィーズ・ミルザー
脚本=マノージュ・ラールワーニー
撮影=ビノード・プラダーン
音楽=ジャティン・ラリット
出演=シャー・ルク・カーン、ジュヒー・チャーウラー、ナーナー・パーテーカル
 
ラジュー出世する
 
[ストーリー]
 大学を卒業して、一旗揚げるためにボンベイにやって来たラジュー(カーン)は、あてにしていた知人に夜逃げされのっけから調子が狂うが、ジャイ(パーテーカル)と出会い居候の身に。ゼネコンに勤めるお嬢様OLレヌ(チャーウラー)は、最初はラジューと喧嘩調だったが、やがて二人の間には恋が芽生える。そのレヌに紹介されて彼女の勤める会社の採用試験を受けたラジューは見事合格。持ち前の正直な性格が社長に気に入られてあっという間に昇進していく。しかし、ラジューを陥れようとする罠、人身事故が起こり……。ラジュー、ピンチ!
 
[コメント]
 年間約800本の映画を製作する世界最大の映画大国インド。その95%を占める、お色気たっぷり、大笑いのインド大娯楽映画(マサラ・ムービー)が42年ぶりに日本公開。それがこの『ラジュー出世する』でございます。インド映画界きっての凄腕プロデューサーG・P・シャッピーが、今インドで若手No.1女優ジュヒー・チャーウラーと人気もさることながら演技にも定評のあるシャー・ルク・カーンを起用して作ったもの。まさに典型的なこのマサラ・ムービーは、いたるところに目くるめく歌と踊りが入り、お色気、お笑い、アクション、スリルとサスペンス、涙のあらゆる要素が突飛な展開で盛り込まれるからさー大変。もう、コテコテ! あれ? インドとかってカーストとかなんかもっと厳しく辛いイメージだったんだけど……、え? そんなラブシーンしていいの? …… オーッとやっぱり肝心なところは歌になってしまうのね……。2時間半を超える大作で、実際に映画館で興行上映された時には休憩が入ってました(笑)。
 とにかく、何にも考えなくていい! ストレートな面白さ。 (真)