第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM
人は寄り添わなければ生きていけない。血がつながっていてもいなくても、いがみあうこともあれば無償の愛を注ぐこともある。この作品は当たり前と思っているその集合体がどのような結びつきなのか、改めて観客に問いかけ、胸に迫る。
「人は人のどこに惹かれ、愛する気持ちが生まれるのか」。この哲学的なテーマを本能の赴くままの行動が引き起こす乱反射から炙り出し、理性の影に潜む愛の奥深さを観客に味わわせた。
熊谷守一夫妻のお互いの深い理解と愛情に裏打ちされた労わりあう姿や、草木が生い茂り、多様な生き物たちが生息する庭で飽くことなく過ごすモリの佇まいが、ほっこりとした感動をもたらしてくれた。
めくるめく仕掛けによる映画の楽しさと手作り感溢れる上田監督・スタッフ・キャストの疾走感が観客にも感染し、映画界だけでなく多くの人を巻き込むムーヴメントを起こしている。
二役を演じた『寝ても覚めても』をはじめ、静から動まで役柄を幅広く演じ、躍動的でありながら温もりをも感じさせた。それは東出昌大の人間的魅力が画面ににじみ出て、役者・東出昌大のアイデンティティを確立させたようにも思えた。
作品ごとにまったく異なる境遇に生きる若者の姿をほとばしる情熱で息衝かせた迫真の演技は観客を魅了した。役を生き、役と共に成熟へと向かう姿は観客の心を掴んで離さない。
『万引き家族』において、信代という女性のこれまで生きてきた時間が体温ごと伝わってくるような迫真の演技は、架空の人物と思えないほど、観終わった後の観客の心に確かな実在感を残した。
『勝手にふるえてろ』において、稀にみるこじらせ型のヒロインに血を通わせ、強いシンパシーと共に観客の心をふるわせるバイタリティ溢れる女優は松岡茉優以外に考えられない。
ままならない人生や、行き場のない想いや、孤独も引き受けて自分の足で歩いていく人たちの姿が清々しく、平凡な日常のなかにも存在する美しさや尊さに気付かせてくれる。
いつか終わってしまう青春を抱きしめるような男女3人のささやかなやりとりは愛おしく、柔らかな光に包まれた函館の街を歩き、音楽に身をまかせ夜を越えていく様は幸福感に溢れている。
『悪魔』をはじめ劇中で発せられる言葉にならない叫びは痛みを伴い、真に迫る姿は観る者の心を強く揺さぶった。また、『モリのいる場所』では小さくも豊かな日常の出来事に好奇心を募らせていく様を表現し、モリとその世界に心惹かれる体験を観客と共有した。
多彩な表情で心の奥に闇を抱えた役から相手を包み込む優しさをもつ役まで幅広く演じ、その奥深い眼差しは観る者を虜にした。繊細で深みのある佇まいは、まだ見ぬ新たな表現を期待させる。
淡々とした日々の生活のなかでひとりで生きる時間を尊ぶ姿を身に備わった奥ゆかしさで表し、役に融和した。孤独に包まれ佇んでいる様に表情・しぐさ・声色で繊細な表現を加え、作品に温もりを与えた。
悩み、寄り添い、実直に物言う姿は、小さな日常にある誰しも思いあたる一面を気づかせてくれた。周りの俳優と化学反応を起こしながら自在に作品に溶け込み、「伊藤沙莉」ならではのキャラクター造形により作品に奥行きを与えている。