第30回映画祭TAMA CINEMA FORUM
大林監督の頭の中に蓄積された膨大な映画の記憶・映像世界をすべて叩き込んだと思われる、壮大かつ鮮烈なイマジネーションが炸裂し、戦争とは何か人間の本性とは何かを明示しつつ、映画の未来は明るいと観客に希望を託した。
初恋の記憶・亡き母の人生が「手紙」によって現在に呼び起こされ、過去への憧憬や悲しみを抱きながらも人生を歩みつづける希望として、登場人物たちの心に差し込んでいくさまを、瑞々しい映像と多面的な物語のなかで描きあげた。
応援席の高校生たちにフォーカスしたカメラフレームは、風で揺れる木々やブラスバンドの演奏、打球音を織り込み、「しょうがない」から「ガンバレ」へと感情の変化を捉え、観客をアルプススタンドに引き込んで、落涙するほどの感動を与えた。
音楽に縁遠かった男子高校生たちが初めて音を出した喜びからその魅力に目覚めていくさまを、繊細且つ膨大な線の動きと音楽のシンクロによってエモーショナルな作品に仕上げ、観客を興奮の坩堝に誘い込んだ。
『ラストレター』において、若かりし日の恋慕を引きずりつつも前を向かないといけないと逡巡する作家の姿を、一文字一文字大切に綴る手紙の如くワンシーンごとに情感をこめて演じることにより、作品の世界観に溶け込み、観客の心に強く響いた。
『喜劇 愛妻物語』において、妻との丁々発止のやりとりのなかでダメ男の願望やリアクションを絶妙の間で展開しつつも、根っこにある家族への愛情をにじませ、どこにでも居そうだけれど唯一無二のにくめないキャラクターを創りあげた。
『喜劇 愛妻物語』において、うだつの上がらない夫に浴びせる辛辣で小気味良い罵倒で悪態をつきつつも、心のどこかで夫を信じ、期待している芯の強さを示し、切れ味ある演技に悲喜交々をまとわせて一段の進境を示した。
『MOTHER マザー』において、感情移入する毎に絶望の底へ観客を落とし込むかのごとく翻弄し、脳裏から離れられない凄みを表現した。壮絶なまでの“影”に挑み、自堕落でありながら魅惑的な母親を演じることで、新境地をスクリーンに刻み付けた。
生まれつき障がいをもつ一人の女性が、人生の喜びを得たいと願い、愛がゆえに掛け違う母との関係をも克服しながら、殻を破って自分の世界を輝かせていくさまを、アニメーションや漫画などを織り交ぜ、多彩に表現してみせた。
さまざまな悩みを抱え、一筋縄ではいかない高校生たちの心の内側を描きあげた。孤独を感じる彼らが人を想うことで痛みを伴いながらも他者と心を通わせようと世界を切り拓いていく姿に勇気づけられた。
物静かな佇まいと透き通るような眼差しは、孤独や不安など、心の揺れ動くさまをありのままに表現し、葛藤しながらも壁を乗り越えていく姿からは、静かな力強さが感じられた。役に真摯に向き合う姿勢は、表現者としてのさらなる飛躍を予感させる。
憂いをおびた眼差しや細やかな心情を表現するふとした仕草で魅了するだけでなく、心に届く声のトーンでも観客の共感を呼び覚ました。どのジャンルにおいても地に足の着いたキャラクターとして存在させる力は、今後の躍進を確信させた。
映画の情景と調和する創造的な柔軟性で、時に言葉以上に全身の表情やふるまいで語り、作品に確かなリアリティを与えてくれた。静かな情熱に支えられた豊かな表現力でこの先より高く羽ばたくことを感じさせる。
『ラストレター』において、天真爛漫な役を輝くような透明感をもって活き活きと演じ、物語に爽やかな風を送り込んだ。高い感受性で、あどけなさから愁いをおびた表情まで豊かに表現する姿は、女優としての未来を期待させる。