第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
平和な日常が一転し、深い哀しみやばかばかしいほどの虚しさに覆われたヒロインが、深層にあった愛を選び、踏み出していくさまは人生の本質を映し出していた。映像と楽曲を重奏させた「LOVE LIFE」に拍手を贈りたい。
好きを原動力に「誰かの胸に刺され」と強い想いで邁進する登場人物たちと、この映画製作に関わったすべての人々の情熱がリンクし、主人公と同じように生きる私たちに大きな共感と明日への希望を見せてくれた。
芦田愛菜さん演じるうららの内に秘めた「好き」と宮本信子さん演じる雪のまっすぐな「好き」が響きあって前に進む姿が、縁側のひだまりのような温もりを感じさせると共に、自分らしく自由に生きることの大切さと喜びを教えてくれた。
恋における心の揺れ動きを可視化及び言語化した独自のファンタジー世界を構築し、趣きのあるロケーションや魅力的なキャラクターを活かしてみずみずしく表現することで、恋愛映画の枠組みを越えた魅惑の作品を誕生させた。
『さがす』において、堕落した生活困窮者、妻思いの夫、冷血な犯罪加担者といった多面性のある父親役を多彩で濃淡をつけた演技は、観客を震撼させると共に感動にまで導き、役者としての凄みを見せてくれた。
文という人間が抱え続けた繊細な感情の機微を零すことなく丁寧に演じた。役を存在させる温度感が絶妙で、長い年月をかけた愛の灯を静かに的確に表現し、観客を物語へ引き込んだ。
長寿が祝福されない世相においても日々の暮らしを大切に営み、根源的に持つ「生」の力が何より優先することを示してくれた。生き抜くことを訴えかける目の力と陽に照らされた凛とした佇まいの残像が頭から離れなかった。
過去の傷を背負い生きてきた主人公・更紗が、愛する人との再会によって抑圧から解放され、少女期のように溌剌と息づく様は、燃え立つ愛の炎のように静かな美しさを放っていた。
観客がどこに連れていかれるのか予想だにしない展開のなかで命の尊厳や家族愛を描く構成力と、衝撃的なシーンのみならず心に残るカットを織り込みながら市井の男を狂気の沙汰に追い詰める演出力が絶妙に調和した。
常識に染まる前のピュアな心を持ち、自由闊達なあみ子の視点を通して、不条理な出来事を達観して描く世界観が秀逸だった。他者に届かぬ思い「応答せよ、応答せよ、こちらあみ子」の明るい声が観る者の胸の内で響いた。
どの役柄でも演技以上の工夫を凝らした見せ方で、存在感のあるキャラクターを造形していた。『ビリーバーズ』では欲望との葛藤や内なる狂気を表現し、人間の振り切れるほどの幅を演じ分けられる俳優としての力量を見せてくれた。
『流浪の月』において、恋人の心が離れていると悟ったときの豹変した姿に、抱えていた孤独や愛への渇望から生じた心の闇の深さがずしりと伝わり、俳優として底知れぬスケールを感じさせた。
さまざまな役柄で物語を動かす印象的な役作りを行い、洞察力・想像力に裏打ちされたメッセージを籠めた視線が観客の心を射抜いた。多様化し、変容する社会において、発信力のある稀有な役者として輝き続けることを期待したい。
『さがす』において、突然の親の失踪により孤独と不安に苛まれながら、思慮深さや健気さを失わず果敢に父の真実をさがし求める姿は、観客の心を掴んだ。難役を見事にこなした研ぎ澄まされた感性は今後更に光り輝くだろう。