第33回映画祭TAMA CINEMA FORUM
声に出すことのできない思いを抱えて苦しむこどもたちがその悩みから解放された光溢れる世界を映し出すことで、誰しもが「怪物」になり得、「怪物」に見立てられてもしまう実社会の生きづらさを如実に描き出した。
さまざまな家庭環境のなかで楽しい時間を過ごしている少年たちを温かくユーモラスに描き、友に降りかかった危機にそれぞれの覚悟で立ち向かう雑魚どもの奮闘は、大人へと成長する逞しさを感じさせると共に観る者の胸に熱く迫った。
メタファーが絶妙に織り込まれた物語から溢れ出るイマジネーションと細部のリアリティを、余すことなく表現しようとスタッフ・キャストが紡いだアニメーションは、主人公・眞人同様、観客にも創造の積み木を持ち帰らせてくれた。
「2分間」が繰り返される時の牢獄は、翻弄される人間模様の可笑しみとともに、日々の傍らで川のように流れる「時間」の存在を立ち現わせた。ヨーロッパ企画ならではのグルーヴが生み出す物語は、観客に軽妙な笑いと発見の喜びを与えてくれる。
俳優・佐藤浩市ならではの滲み出る渋さと颯爽と放つ華が、若手俳優の魅力も最大限引き出し、作品を輝かせ続けている。時を重ね磨き上げられた刃のような役者魂は、今後も日本映画界を切り開いていくに違いない。
『エゴイスト』において、愛とエゴの狭間で葛藤しながらも恋人とその母に注ぐ献身的な愛は繊細で切なく時に痛々しいほどの表現力だった。入念な準備と深い洞察により強さと脆さを併せ持った主人公・浩輔は実在感あるものとして観る者の心に刻まれた。
故郷へ北上する旅のなかでさまざまな人と出会い、孤独にすごしてきた自身の人生と向き合って、静かに奮い立つ瞬間を表現した。踏み出した明日への一歩には、力強い希望がたしかに込められていた。
『せかいのおきく』において、凛とした所作が美しい武家の娘であり、気っぷがよいおきゃんな娘でもある「おきく」の創出によって、下肥買いの若者たちとの友情や恋を織り込んだ爽やかな青春ドラマに昇華させた。
村社会の縛りに耐えるだけだった凛が、村を離れ山に入って解放される姿は時代を越えて今にも通じる。畏怖される自然を圧倒的な映像と音響で表現し、自然を前にした人間の弱さとその社会から自立する姿を鮮明に描き出した。
自分の思いをぬいぐるみに話しかけ、慎重に思慮深く他者と関係を紡ぐ姿を絶妙なバランス感覚で描いた。スクリーンから溢れ出す優しさは、誰一人同じ人がいないことの尊さを認識させ、私たちを包み込むかのように寄り添ってくれた。
『わたしの幸せな結婚』において、現実世界とかけ離れたキャラクターを華がある演技でスクリーンに焼き付け、観る者をとりこにした。アクションで動きのキレを魅せる一方、美世への想いの移ろいを繊細な感情表現で演じきった。
いずれの作品においても物語に溶け込み、若さゆえの輝きや脆さを繊細に表現した。役柄を的確に捉える優れたバランス感覚と素直な表現力は、映画の未来を担っていくことを予感させる。
『山女』における陰湿な村社会など、どんな困難な状況にも屈せずに逞しく凛と存り続けた姿に圧倒させられた。その強い眼差しには観客たちの心を揺さぶるエネルギーを感じた。
言葉にせずとも目で訴えかける静の佇まいから抑えきれない感情の抑揚を全身で体現する躍動感まで、変幻自在に役に入り込んだ。観客を画面に釘付けにさせるキュートな魅力から目が離せない。