授賞式には、山下敦弘監督、阪本順治監督、真利子哲也監督、柳楽優弥さん、三浦友和さん、オダギリジョーさん、小泉今日子さん、蒼井優さん、前田司郎監督、小泉徳宏監督、若葉竜也さん、村上虹郎さん、松岡茉優さん、小松菜奈さんがご登壇。鈴木卓爾監督はビデオメッセージで参加し、別日のプログラムに登壇されました。
第8回TAMA映画賞授賞式を、受賞者のコメントから振り返りましょう。山下敦弘監督は、「この作品は全員野球が合言葉」と明かし、壇上のオダギリジョーさん、蒼井優さんと喜びを分かち合いました。阪本順治監督は、「時代に合わせて撮れないタイプですが、これからは以前とは違うものをやりたい」と今後の抱負を語りました。
オダギリジョーさんが、「11月19日という、あの有名な松崎しげるさんが誕生した記念すべき日に……」と、ぼけると、直後に登壇した三浦友和さんは「11月19日は……」と、いったん間をあけた後に「偶然にも私たちの結婚記念日です」と話し、満席の会場は拍手喝采で応えました。蒼井優さんは、「会場もバックヤードも本当にあったかい映画祭」とコメント。小泉今日子さんは、「本当に映画が好きな人たちが、自分たちの手で作っている映画祭だということがよく分かりました」と感想を述べられました。
真利子哲也監督が「次は穏やかな作品を」と語れば、柳楽優弥さんは「ラブコメに出ていきたいです」と反応。意表をついたコメントに会場が沸きました。鈴木卓爾監督がビデオメッセージで笑いを誘った後、『ジョギング渡り鳥』のスタッフ・キャストの13名が本作での役割を紹介しました。
村上虹郎さんは『ディストラクション・ベイビーズ』で伊予弁を覚えるのに苦労したエピソードを述懐。若葉竜也さんは(『葛城事件』で共演した新井浩文さんとのエピソードに触れて)「新井さん、やりました!」と誇らしげでした。小松菜奈さんは、「重く暗い役が楽しい」と『ディストラクション・ベイビーズ』の撮影を振りかえりながらコメント。松岡茉優さんは、「若手女優陣、男優陣で映画界を盛り上げていきたい」と今後の意気込みを語りました。
2時間を超える授賞式となりましたが、ご登壇者の誠意とお客様の醸し出す温かい会場の雰囲気が印象的な第8回TAMA映画賞授賞式でした。
-本年度最も活力溢れる作品の監督、及びスタッフ・キャストに対し表彰-
『オーバー・フェンス』
山下敦弘監督、及びスタッフ・キャスト一同
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心に痛みを抱え、未来に望みを持てずにいる人々の悲哀がそれぞれの迷いに寄り添いながら描かれ、彼らが自らの殻を破って新たな道を歩んでいくさまは、雲の切れ間から差す光のように観客に希望を与えた。 |
『団地』
阪本順治監督、及びスタッフ・キャスト一同
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団地という小宇宙における市井の人々の生活をコミカルに描く一方、天から見下ろした世界観で家族の情愛を描き、見事な演技のアンサンブルで両者を融合させて、慈愛に溢れる心に響くドラマを誕生させた。 |
-映画ファンを魅了した事象に対し表彰-
現代社会に画然と存在する暴力を善悪を超えてストレートに描き出した『ディストラクション・ベイビーズ』の衝撃に対して
真利子哲也監督&柳楽優弥、及びスタッフ・キャスト一同
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常軌を逸した主人公の理由なき暴力は、人間が潜在的に持つ暴力への渇望やみなぎる魂の叫びを鮮烈に浮かび上がらせ、戦慄と共にその本質が何であるかを観客に強く投げかけた。 |
『ジョギング渡り鳥』における映画の新たな可能性を切り開く自由で豊かな創造性に対して
鈴木卓爾監督、及びスタッフ・キャスト一同
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新しい映画を共に探求するスタッフ・キャストそれぞれの眼差しの交錯が、登場人物の孤独ひいてはそれをみつめる観客の孤独をも優しく包み込み、かつてない驚きと喜びに溢れた映画体験をもたらした。 |
-本年度最も心に残った男優を表彰-
三浦友和
『葛城事件』『64 -ロクヨン-』
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『葛城事件』において、孤立無縁の自分のありさまに目をつむり、屈折した愛情で家族を支配するモンスターのような父親でありながら、家族の小さな幸せを願う心根の優しい一面をものぞかせる奥行きの深い演技で、その存在を観客の脳裏に深く刻んだ。 |
オダギリジョー
『オーバー・フェンス』『FOUJITA』
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『オーバー・フェンス』において、内面に欠落を抱えた男が、心に傷を持つ人々や自分自身と向き合うことで、新たに人生を切り開いていく姿を演じきった。歳を重ねたことで、豊かな表現力に磨きがかかり、人生の苦さをにじませる役柄に血を通わせた。 |
-本年度最も心に残った女優を表彰-
小泉今日子
『ふきげんな過去』
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小泉今日子として生きてきた時間のすべてが役柄を演じるうえで厚みとなり、非日常的な不思議な世界のなかで忘れがたい存在感を残した。年齢を重ねた美しさと何ものからも自由である強さは女性にとっての希望である。 |
蒼井 優
『オーバー・フェンス』『岸辺の旅』『家族はつらいよ』
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『オーバー・フェンス』において、傷つきながらも他者との繋がりを渇望し、愛を希求し続ける女性の姿を大胆かつ危うげに演じ、その豊かな表情と奔放でしなやかな動きは見る者すべてを夢中にさせた。 |
-本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰-
前田司郎監督
『ふきげんな過去』
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少女にとって想像の域を出ない平凡な日常に苛立つ日々のなか、それを壊していく爆弾のような母との交流を経て、想像よりも面白い日常に気づき未来が拓けていく、唯一無二のひと夏の空気を切り取った。 |
小泉徳宏監督
『ちはやふる -上の句-』『ちはやふる -下の句-』
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「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」の歌にある眩い紅葉と煌めく水面の如く輝く登場人物の青春を描き、その輝きで作品のすみずみまで色鮮やかに染め上げた。 |
-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰-
若葉竜也
『葛城事件』
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支配的な父の元で心を歪ませていく少年の姿と、事件を起こした後の面会で目が据わりふてくされた自暴自棄の態を、実在する人物と見紛うまでに真に迫って演じ、観客を圧倒した。 |
村上虹郎
『ディストラクション・ベイビーズ』『夏美のホタル』『さようなら』
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思春期の危うい空気感を醸し出しながらいつも遠くをみつめている、不安と希望をあわせ持つ若者像をセンシティブに創りだす姿は、日本映画の新たな地平を切り拓いていく大きな期待を抱かせた。 |
-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰-
松岡茉優
『ちはやふる -下の句-』『猫なんかよんでもこない。』
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若くして役柄やシーンの魅力を掌握できる力は群を抜き、『ちはやふる』ではかるたクィーンとして主人公・千早とのライバル関係を際立たせることにより、青春映画としての躍動感を一気に加速させた。 |
小松菜奈
『ディストラクション・ベイビーズ』『黒崎くんの言いなりになんてならない』『バクマン。』『ヒーローマニア -生活-』
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白いキャンパスが何色にも染められるように、多彩な役柄を色鮮やかに演じた。吸い込まれそうな奥深い瞳は観客を魅了するとともに、将来の活躍を期待させる魅力に満ちている。 |