開催日:2019年11月17日(日)
会場:中央大学 多摩キャンパス クレセントホール
授賞式上映作品(上映順):
『長いお別れ』『嵐電』

第11回の最大のトピックは、中央大学で開催したこと。授賞式には、鈴木卓爾監督と『嵐電』スタッフ・キャスト12名、中野量太監督、井浦新さん、蒼井優さん、前田敦子さん、伊藤絹恵さん(『天気の子』制作)、河村光庸プロデューサー(『新聞記者』)、成田凌さん、清水尋也さん、岸井ゆきのさん、シム・ウンギョンさん、山戸結希監督、奥山大史監督がご登壇。藤井道人監督がビデオメッセージで参加されました。

第11回TAMA映画賞授賞式を受賞者コメントから振り返ります。『僕はイエス様が嫌い』の奥山大史監督が「ヨーロッパの映画祭で上映したときに、日本人なのにどうして我々のイエス様への思いがわかるのかと言われました」と作品を語り、『ホットギミック ガールミーツボーイ』、『21世紀の女の子』で受賞された山戸結希監督は「実行委員の女性の方が泣きながら感想を伝えてくださり、世界の見え方が変わる受賞になった」と語られました。

シム・ウンギョンさんが「本来一度しかない新進の賞を、日本で再び頂けることになって心が温かくなった」と感謝の言葉を述べられ、岸井ゆきのさんは「表参道で1日に3回も『愛がなんだ』を観ましたと声をかけられて、ヒットしているのかな」と実感を語られました。

清水尋也さんが「二十歳になった節目の年に初めての映画賞を受賞できて嬉しい」と述べられた後、山戸監督から「清水さんは天才なので、清水さんにしか出来ない役を突き進んで欲しい」と言われて、「大勢の前で天才と言われて気持ちが引き締まりました。これからもより一層頑張ります」と意気込みを語られました。成田凌さんは「映画界に欠かせない人間になれるようにこれからも精進していきたい」と決意を語られました。成田凌さんの受賞では、『愛がなんだ』の今泉力哉監督がサプライズで登壇されて、成田さん、岸井さんを祝福されました。役作りのために成田さんとの距離を取ろうとしていた岸井さんの配慮に気づいていなかった点で、成田さんは役のマモルと相通じるところがあると客席の笑いを誘っていました。

前田敦子さんが「今年は一番映画に参加させていただけた年。また映画の世界にがっつり携われるよう、ひたむきにやっていきたい」と抱負を語られ、蒼井優さんは「新しい一歩を踏み出す時期に受賞できてとても光栄ですし、叱咤激励だと思って真面目に映画作りに取り組んでいきます。皆さんもどうか映画を信じてください」と語りかけてくださりました。

井浦新さんが「生まれ育った地元で中央大学を横目で見ながら高校に通っていたので、TAMA映画賞をここでいただけたことは感慨深いです」と感謝の念を述べられていました。

中野量太監督が「20年前に卒業制作で初めて撮った映画を唯一評価してくれたこの映画祭はずっと僕のことを見ていてくれて、また作品賞を頂きました。今後も見ていていただきたい」と謝意を述べられました。『嵐電』では鈴木卓爾監督とスタッフ・キャスト12名がご登壇され、ひとり一人作品への思いと抱負を語ってくださり、最後に井浦新さんが「ここにいる若手俳優たちはいずれ成田凌君たちを突き上げていく存在になるので覚えていてください」と締めくくられました。

2時間半を超える授賞式になりましたが、ご登壇者の誠意とお客様の醸し出す温かい雰囲気によっていいセレモニーになりました。

ギャラリー
受賞者・受賞理由

最優秀作品賞

-本年度最も活力溢れる作品の監督、及びスタッフ・キャストに対し表彰-

『嵐電』
鈴木卓爾監督、及びスタッフ・キャスト一同

映画草創期に撮影所が立ち並んだ京都の街並みを誰かの想いをのせて走る嵐電は映画を撮ること、観ること、生活することという確かな手ざわりを夢幻の眼差しでとらえていた。孤独と向きあいながらも、想像することの尊さに気づかせてくれた。

『長いお別れ』
中野量太監督、及びスタッフ・キャスト一同

<長いお別れ>により家族の形態に変化が訪れても、心に刻まれている何かは変わらない。夫婦の深い愛情によって親を敬う心や家族のDNAが育まれるさまを丁寧に描き、演技・台詞・演出の絶妙なブレンドにより至福な思いに観客をあまねいた。

特別賞

-映画ファンを魅了した事象に対し表彰-

天空のさまざまな事象をモチーフに、観る人の心を奮わせるような『天気の子』の壮大であり緻密なアニメーション描写に対して
新海誠監督、及びスタッフ・キャスト一同

まばゆいばかりに緻密に描かれた雨の描写や東京の街並みは魅惑的で、少年・少女が彷徨っていたその街並みから壮大な天空に放たれた開放感は言葉に表現できないほどの映像体験を観客にもたらし、圧倒した。

政治テーマのサスペンス・ドラマとして、 幅広い世代の共感を得た『新聞記者』に対して
藤井道人監督、及びスタッフ・キャスト一同

昨今の政治的題材に取り組みながら、大きな情勢に翻弄され苦悩する個人に光を当てた人間ドラマを作り上げ、劇場では満席が相次ぎ、終演で拍手が起こるという所謂「新聞記者現象」を引き起こした。

最優秀男優賞

-本年度最も心に残った男優を表彰-

山﨑努
『長いお別れ』

認知症の進行により周囲が見えなくなり言葉や表情が失われていくなかで一瞬みせる敬愛する家族の長としてのお父さんの姿は、観客からも応援したくなる魅力に溢れ、俳優・山﨑努の凄みを感じさせた。

井浦新
『嵐電』『こはく』『赤い雪』『止められるか、俺たちを』『宮本から君へ』『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』

経験に裏打ちされる思慮深さ、知性と品、大人の色気、それらを役柄によって自在に調節し作品のカラーに溶け込む、映画界になくてはならない存在である。また、作品への愛に溢れるふるまいは賞賛に値する。

最優秀女優賞

-本年度最も心に残った女優を表彰-

蒼井優
『長いお別れ』『宮本から君へ』『斬、』『ある船頭の話』『海獣の子供』

『長いお別れ』で病が進む老父の傍らで笑い泣きする次女を、『宮本から君へ』で公然プロポーズを意地で撥ね退ける愛しい恋人を、『斬、』で無常の時代に届かない叫びをあげる村娘を。多岐にわたる役柄を演じ分け、観客の脳裏に鮮烈に焼き付けた。

前田敦子
『旅のおわり世界のはじまり』『葬式の名人』『町田くんの世界』『マスカレード・ホテル』『コンフィデンスマンJP』

『旅のおわり世界のはじまり』において、右も左もわからない異国の地で孤独感に苛まれるかよわさと、それに対峙してはね返す強靭さを兼ね備える女性像は、女優・前田敦子の資質・魅力と鮮やかにシンクロし、稀有な存在感を放った。

最優秀新進監督賞

-本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰-

山戸結希監督
『ホットギミック ガールミーツボーイ』『21世紀の女の子』

瞬きも出来ないような映像の密度と美しさ、胸を高鳴らせる音楽と言葉、そして語られる闇と光が交差する物語。「新しい映画」の定義を更新し続ける山戸結希監督と同じ時代に生きて最新作を受け取れることはこの上ない希望である。

奥山大史監督
『僕はイエス様が嫌い』

少年の無垢な思いが神聖な輝きを放ち、セリフはわずかなのに画面が雄弁に語りかけて観客の心を揺さぶる。一方、テーマにアクセントを与える手のひらサイズのイエス様が出現。初の長編作品で崇高且つユーモア溢れる作品を創り上げた才気に感服した。

最優秀新進男優賞

-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰-

成田凌
『愛がなんだ』『チワワちゃん』『さよならくちびる』『人間失格 太宰治と3人の女』『翔んで埼玉』『スマホを落としただけなのに』『ビブリア古書堂の事件手帖』『ここは退屈迎えに来て』

『愛がなんだ』『さよならくちびる』ではごく身近にいそうな自然な佇まいで役に溶け込み、『チワワちゃん』では誰もが持つ弱い部分を丁寧に演じるなど多彩な表現力で観客を魅了した。

清水尋也
『ホットギミック ガールミーツボーイ』『パラレルワールド・ラブストーリー』『貞子』

『ホットギミック ガールミーツボーイ』において、冷徹な態度と相反する狂熱な想いを秘めている不器用で一途な少年を、優れた感性と瞬発力で的確に内面を引き出した。 清水尋也にしかない独特な存在感は、何かを起こしてくれそうな期待を抱かずにはいられない。

最優秀新進女優賞

-本年度最も飛躍した女優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰-

岸井ゆきの
『愛がなんだ』『ここは退屈迎えに来て』『いちごの唄』『ゲキ×シネ「髑髏城の七人」Season風』

『愛がなんだ』において、振り切った感情で突き進んでいくヒロイン・テルコを、大胆な立ち居振る舞いと繊細な眼差しで体現し、リアルな恋愛群像劇のなかにキュートな魅力をもって立ち上がらせた。

シム・ウンギョン
『新聞記者』

真実を問いかけ追い続ける真剣な表情・確かな演技力は、言葉や思想を越えて観るものを強烈に作品に引き込み、初出演の日本映画で鮮烈な印象を残した。これからの彼女の歩みの先を期待せずにはいられない。