“明日への元気を与えてくれる・夢を与えてくれる・活力溢れる<いきのいい>作品・監督・俳優を、映画ファンの立場から感謝をこめて表彰する”ことを目的とし、2009年に創設したTAMA映画賞。「映画祭 TAMA CINEMA FORUM」の一つの顔とも言える本映画賞は、2018年に節目となる第10回目を迎えました。
当日は朝早くから開場を待つ長い列ができ、授賞式が始まる頃には立って見られる方の姿もあるほど、大勢の来場者で埋め尽くされた会場。まずは、最優秀新進女優賞から始まり、深川麻衣さんが登壇。「憧れだった映画の世界に飛び込ませていただいた作品で、初めての主演でもあり、自分にとって大切で思い入れのある作品で受賞できたことが嬉しい」と挨拶。続く、伊藤沙莉さんは「9歳からこの仕事を始めて15年間、楽しいことばかりではなかったが、このように誰かに認めてもらえたり求めてもらえたりすることは幸せ。この賞をスタートラインとして精進したい」と感極まるなか、前向きな決意を述べました。
最優秀新進男優賞の一人、吉村界人さんが「僕みたいな奴がこういう場所に立てることは稀有なことで笑ってしまいますよね」と会場内の笑いを誘いつつ、「色んな気持ちがあって、俳優をやらせてもらっている」と受賞の喜びを語りました。吉沢亮さんは「このような受賞は今回が初めてで、映画を愛しているたくさんの方から選んでいただいたことが嬉しい。3年ほど前から、“(事務所と)映画を中心にやっていきたい”と話しており、そこで出会った方々のお陰と思っている。映画の現場が本当に好きなので、これからも映画をメインにもっとやっていきたい」と、映画への熱い思いを披露しました。
最優秀新進監督賞の三宅唱監督は、「(受賞作は)函館にある小さな映画館が企画した作品。それを、映画祭で評価していただけたことは、色々とたいへんな状況の世の中で“映画をつくるぞ”というエネルギーが、まさしく『きみの鳥はうたえる』のタイトルのよう」と力強く語りました。今泉力哉監督は「第10回の“TAMA NEW WAVE”でグランプリをいただき、今回のTAMA映画賞もちょうど10回目。縁のある回に、こうして新進監督賞受賞という形で戻ってこられたことが嬉しい」と述べ、監督作品『パンとバスと2度目のハツコイ』で同じく受賞された深川麻衣さん、伊藤沙莉さんと共に喜びを分かち合いました。
最優秀女優賞は、『万引き家族』の安藤サクラさんに。「産後間もない私を、“信代”という役に是枝監督にすり合わせていただいたことで、できた役だと思っている」とビデオメッセージで語りました。続いて、松岡茉優さんが「今回の最優秀女優賞がもし1名であったら私はここにはいない。(安藤)サクラさんにいつか追いつきたい、追い越したいと思えるようになったのは、ここで俳優として認めてもらえたから」と『万引き家族』にて共演した安藤さんへの特別な思いを語ったあと、「今回も、俳優としての自信と、多くの人が映画を観てくれたという心強さをもらえた」とコメント。
最優秀男優賞の松坂桃李さんは、「TAMA映画賞は10回目とのこと。僕も演技を始めて10周年なのでご縁があるなと思いました。今年で30歳となるため、これからはこれまでに受けた、たくさんの恩を丁寧に一つひとつの作品に向き合うことで返していきたい」と今後の意気込みを語られました。
特別賞の表彰に移り、最初は『カメラを止めるな!』チームが。市橋浩治プロデューサーと出演者10名の皆さんが登壇。上田慎一郎監督のビデオメッセージに続き、出演者のお一人が「みんなで汗まみれ泥まみれになりながら作り上げた作品。関わったすべての方があってこそだと思い、心から感謝している」と喜びを噛み締めるようにコメント。『モリのいる場所』からは沖田修一監督と山﨑努さん。沖田監督は「山﨑さんの横に立ち、監督した映画で受賞し、こうしてトロフィーを持っていることが我ながら不思議」と予想外であった心境を述べ、山﨑さんご本人は「ここに樹木希林が居ればもっと良かったが、残念だ」と、今回3名で受賞されながら、この年の9月に逝去された女優・樹木希林さんへ想いを馳せました。
最優秀作品賞からは『寝ても覚めても』濱口竜介監督代理の福嶋更一郎プロデューサーが、カンヌ映画祭をはじめとする海外での反響の大きさを語りました。同じく、最優秀作品賞の『万引き家族』是枝裕和監督代理の松崎薫プロデューサーが最後に登壇。是枝監督はフランスにて映画撮影中であったため、名作『シェルブールの雨傘』(1963)などで知られるジャック・ドゥミ監督(1931-1990) の墓石の前で撮影したご自身のビデオメッセージを寄せてくださいました。
なお、最優秀男優賞の東出昌大さんについては、当日のご登壇が叶わなかったため、翌日の特集プログラム内にて個別授賞式を行いました。
TAMA映画賞創設時からの授賞式会場であったパルテノン多摩がこの後に長期改修工事に入ったため、本施設での授賞式は一旦、最後となったこの年。多彩な顔ぶれの授賞者と過去最多の観客が集い、華やかな式典となりました。
-本年度最も活力溢れる作品の監督、及びスタッフ・キャストに対し表彰-
『万引き家族』
是枝裕和監督、及びスタッフ・キャスト一同
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人は寄り添わなければ生きていけない。血がつながっていてもいなくても、いがみあうこともあれば無償の愛を注ぐこともある。この作品は当たり前と思っているその集合体がどのような結びつきなのか、改めて観客に問いかけ、胸に迫る。 |
『寝ても覚めても』
濱口竜介監督、及びスタッフ・キャスト一同
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「人は人のどこに惹かれ、愛する気持ちが生まれるのか」。この哲学的なテーマを本能の赴くままの行動が引き起こす乱反射から炙り出し、理性の影に潜む愛の奥深さを観客に味わわせた。 |
-映画ファンを魅了した事象に対し表彰-
1日の暮らしから「画家・熊谷守一」の豊かな世界を描き出した『モリのいる場所』に対して
沖田修一監督及び山﨑努・樹木希林、はじめスタッフ・キャスト一同
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熊谷守一夫妻のお互いの深い理解と愛情に裏打ちされた労わりあう姿や、草木が生い茂り、多様な生き物たちが生息する庭で飽くことなく過ごすモリの佇まいが、ほっこりとした感動をもたらしてくれた。 |
面白い映画を観てもらいたいとの熱意と工夫が大きなムーヴメントを起こし、自主映画界に勇気を与えた『カメラを止めるな!』の快挙に対して
上田慎一郎監督、及びスタッフ・キャスト一同
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めくるめく仕掛けによる映画の楽しさと手作り感溢れる上田監督・スタッフ・キャストの疾走感が観客にも感染し、映画界だけでなく多くの人を巻き込むムーヴメントを起こしている。 |
-本年度最も心に残った男優を表彰-
東出昌大
『寝ても覚めても』『菊とギロチン』『パンク侍、斬られて候』『OVER DRIVE』『予兆 散歩する侵略者 劇場版』
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二役を演じた『寝ても覚めても』をはじめ、静から動まで役柄を幅広く演じ、躍動的でありながら温もりをも感じさせた。それは東出昌大の人間的魅力が画面ににじみ出て、役者・東出昌大のアイデンティティを確立させたようにも思えた。 |
松坂桃李
『孤狼の血』『娼年』『不能犯』『彼女がその名を知らない鳥たち』
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作品ごとにまったく異なる境遇に生きる若者の姿をほとばしる情熱で息衝かせた迫真の演技は観客を魅了した。役を生き、役と共に成熟へと向かう姿は観客の心を掴んで離さない。 |
-本年度最も心に残った女優を表彰-
安藤サクラ
『万引き家族』『DESTINY 鎌倉ものがたり』
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『万引き家族』において、信代という女性のこれまで生きてきた時間が体温ごと伝わってくるような迫真の演技は、架空の人物と思えないほど、観終わった後の観客の心に確かな実在感を残した。 |
松岡茉優
『勝手にふるえてろ』『万引き家族』『ちはやふる -結び-』『blank13』
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『勝手にふるえてろ』において、稀にみるこじらせ型のヒロインに血を通わせ、強いシンパシーと共に観客の心をふるわせるバイタリティ溢れる女優は松岡茉優以外に考えられない。 |
-本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰-
今泉力哉監督
『パンとバスと2度目のハツコイ』
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ままならない人生や、行き場のない想いや、孤独も引き受けて自分の足で歩いていく人たちの姿が清々しく、平凡な日常のなかにも存在する美しさや尊さに気付かせてくれる。 |
三宅唱監督
『きみの鳥はうたえる』
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いつか終わってしまう青春を抱きしめるような男女3人のささやかなやりとりは愛おしく、柔らかな光に包まれた函館の街を歩き、音楽に身をまかせ夜を越えていく様は幸福感に溢れている。 |
-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰-
吉村界人
『モリのいる場所』『悪魔』『サラバ静寂』『ビジランテ』
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『悪魔』をはじめ劇中で発せられる言葉にならない叫びは痛みを伴い、真に迫る姿は観る者の心を強く揺さぶった。また、『モリのいる場所』では小さくも豊かな日常の出来事に好奇心を募らせていく様を表現し、モリとその世界に心惹かれる体験を観客と共有した。 |
吉沢亮
『リバーズ・エッジ』『猫は抱くもの』『銀魂2 掟は破るためにこそある』『ママレード・ボーイ』『悪と仮面のルール』『レオン』『斉木楠雄のΨ難』
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多彩な表情で心の奥に闇を抱えた役から相手を包み込む優しさをもつ役まで幅広く演じ、その奥深い眼差しは観る者を虜にした。繊細で深みのある佇まいは、まだ見ぬ新たな表現を期待させる。 |
-本年度最も飛躍した女優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰-
深川麻衣
『パンとバスと2度目のハツコイ』
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淡々とした日々の生活のなかでひとりで生きる時間を尊ぶ姿を身に備わった奥ゆかしさで表し、役に融和した。孤独に包まれ佇んでいる様に表情・しぐさ・声色で繊細な表現を加え、作品に温もりを与えた。 |
伊藤沙莉
『榎田貿易堂』『パンとバスの2度目のハツコイ』『寝ても覚めても』『blank13』
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悩み、寄り添い、実直に物言う姿は、小さな日常にある誰しも思いあたる一面を気づかせてくれた。周りの俳優と化学反応を起こしながら自在に作品に溶け込み、「伊藤沙莉」ならではのキャラクター造形により作品に奥行きを与えている。 |