本年は前年に引き続き「府中芸術の森 どりーむホール」で開催。初めて指定席制をとったため、例年のように朝から長蛇の列ができることはなくなり、一抹の寂しさも覚えましたが、それでもロビーではパンフレットや映画祭関連グッズを求める長蛇の列ができ、授賞式らしい華やかな賑わいがありました。授賞式には、岨手由貴子監督、山本晃久プロデューサー(濱口竜介監督代理)、役所広司さん、菅田将暉さん、尾野真千子さん、有村架純さん、土井裕泰監督、岨手由貴子監督、駒井蓮さん、藤原季節さん、金子大地さん、伊藤万理華さん、藤元明緒監督、松本壮史監督がご登壇。濱口竜介監督、三浦透子さんがビデオメッセージで参加されました。
第13回TAMA映画賞授賞式を受賞者コメントから振り返ります。トップバッターは最優秀新進女優賞の伊藤万理華さん。マントを纏ったような個性的な衣装で登場され、壇上がひときわ明るくなったように感じられました。「15歳でデビューした際、映像の世界で活躍していきたいと思いましたが、10年後にこうして賞をいただけて嬉しい。映画を未来につなげていきたいです。」と前を向いて語ってくださりました。お二人目の三浦透子さんはビデオメッセージをくださり、「これからも丁寧に素直にお芝居に向かっていきたいです。」と抱負を語ってくださりました。
続いて最優秀新進男優賞では、金子大地さんが「北海道出身なので、北海道を舞台にしたいい作品を残したい」と地元に対する思いを語ってくださりました。藤原季節さんは受賞作品『のさりの島』の「のさり」と言うのは良いこともそうでないことも天からの授かりものであるという説明された上で、「のさりました!」とトロフィを掲げられて舞台となった天草の方々に御礼する姿が印象的で、山本起也監督もお祝いに駆けつけてくださりました。
最優秀新進監督賞では、『サマーフィルムにのって』の松本壮史監督は伊藤万理華さん、金子大地さんと3人揃っての受賞を喜んでくださり、壇上アクリル板を挟んで3名並んだなかで、「二人のラストシーン1カットに込める想いや迫力が想像を超えるもので素晴らしかった」と絶賛されていらっしゃいました。藤元明緒監督は「8年前ミャンマーで占って貰った際、ミャンマーの方と結婚するということと、43歳で世界的に有名な監督になると言われ、前者は当たったので後者も実現するよう頑張っていきます」と力強く語られました。
特別賞では、『いとみち』の横浜聡子監督と主演の駒井蓮さんが登壇されました。駒井さんがこの映画のために1から津軽三味線を始めて撮影に間に合うか心配だったとおっしゃったのに対して、「駒井さんはじょっぱり(負けず嫌い)ということに気づいていたので、必ずや成し遂げてくれると思っていました」と語ってくださり、お二人の絆の強さを感じさせてくださりました。『花束みたいな恋をした』の土井裕泰監督は「恋愛映画を撮るということは恋を描くだけではなくその背景にあるものもひっくるめで描いているので、このコロナ禍のなかでいろいろな見方をして貰えたのかなと思っています」と反響の大きさを分析してくださりました。
最優秀女優賞では、まず有村架純さんが「(『花束みたいな恋をした』で土井監督、脚本の坂元裕二さんと再びお仕事されたことに関して)おこがましいですがお二人には本当に心から信頼を寄せているので、その方々と時間を共有させていただくのが幸せでした。」と信頼関係を語られました。尾野真千子さん「(『茜色に焼かれる』の現場に関して)コロナ禍で普段の現場の半分くらいしか人がいない、一人で全部やらないといけない状況において、心が本当に一つになっていい作品が生まれたんだと思います。」と感慨深く語って下りました。
最優秀男優賞では、菅田将暉さんが受賞コメントを述べた後、司会者から「プライベートでもおめでたいニュースが入って参りました。おめでとうございます。」と挟むと会場が祝福の拍手に包まれ温かい雰囲気になりました。その後、土井監督、有村架純さんと3人で『花束みたいな恋をした』の好きなシーンや本作が共感を呼ぶ理由について語り合ってくださりました。役所広司さんは「映画を観てくださったお客さんのおかげでこんないい賞をいただけたと思っています。ありがとうございます。日本中の映画祭が映画を支えてくれているということを身に染みて感じます。30年、40年と映画祭を守っていただけると幸せです。どうぞよろしくお願いします。」と映画祭を運営する者に身に余る言葉を頂戴しました。
最後の受賞は最優秀作品賞。『あのこは貴族』の岨手由貴子監督は「富裕層を描いた作品にもかかわらず現場は過酷な状況で、そのなかでワンカットを信じてやるしかない、これが監督として最後のカットになるかもしれないという思いのなか撮った作品で受賞出来て嬉しい。」と喜びを語ってくださりました。『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督はビデオメッセージをくださりましたが、代理でご登壇の山本晃久プロデューサーに「ビデオメッセージの時はテンションが低かった気がするので、改めて手紙を書きます」との伝言があり、山本プロデューサーが改めて手紙を朗読されました。
楽しかった時間もあっという間に終わり、緞帳がいったん降りた後、記念撮影の席の並びになり、受賞者一人ひとりがカーテンコールで袖から登場して、記念撮影が行われました。ご登壇者、観客、スタッフの映画愛に包まれて、暖かい雰囲気を共有できて幸せでした。
2年間TAMA映画賞授賞式は府中市のご厚意で府中の森芸術劇場どりーむホールで開催させていただきました。この会場でたくさんのよい思い出ができました。ありがとうございました。
-本年度最も活力溢れる作品の監督、及びスタッフ・キャストに対し表彰-
『ドライブ・マイ・カー』
濱口竜介監督、及びスタッフ・キャスト一同
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手話を含む多言語が交錯する舞台劇とさまざまな人物から語られる物語が幾重にも重なり、これまで味わったことのない、新しい感性を刺激する映画が誕生した。常に喪失を抱えながら生きる人々は私たち自身であり、その再生への道のりには涙を禁じ得ない。 |
『あのこは貴族』
岨手由貴子監督、及びスタッフ・キャスト一同
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東京を舞台に、出自も生きる階層(セカイ)も違う二人の女性がその出会いを通して、恋愛や結婚だけではないそれぞれの幸せを見つけ、人生を自らの手で切り拓いていくさまを丁寧に描くことで、生きづらさを抱える人々の心を解放へと導いた。 |
-映画ファンを魅了した事象に対し表彰-
幅広い世代が語り合わずにはいられなくなる珠玉の恋愛作『花束みたいな恋をした』に対して
土井裕泰監督、坂元裕二氏、及びスタッフ・キャスト一同
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20代という時季にある恋愛・生活・心の移ろいを、脚本・演出・演者が一体となって緻密に描きだした。日常と地続きのような作品世界は、スクリーンを飛び越えて観客自身の物語と呼応し、誰しも「語りたくなる」ほどの感動を残した。 |
わかりやすさに忖度しない生粋の津軽弁と、津軽三味線のリズムにのって、じょっぱり(意地っ張り)の成長譚を描いた『いとみち』に対して
横浜聡子監督、及びスタッフ・キャスト一同
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ヒロイン・いとがコンプレックスの源泉だった津軽弁訛りや三味線演奏に「わあ(自分)」を見い出し、周囲の「けっぱれ(がんばれ)」の声によって爽やかに力強く「いとみち=自分の道」を歩みだす姿が、多くの観客の琴線に触れた。 |
-本年度最も心に残った男優を表彰-
役所広司
『すばらしき世界』『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』『竜とそばかすの姫』
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『すばらしき世界』において、報われない一人の男の美しさ、暗さと人生のさまざまな深遠を憎めない愛らしい一面をも覗かせることで、観る者に胸を締め付けられるような切なさ、虚しさの思いを掻き立たせ、[純真]という秋桜の花言葉の意味を気づかせてくれた。 |
菅田将暉
『花束みたいな恋をした』『キャラクター』『キネマの神様』『浅田家!』
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時代・地域・役柄・作風の全く異なる幅広いジャンルの作品に出演し、日常も虚構も自在に着こなして魅せる個性は、実在の人物のような手触りとともに唯一無二の輝きを放っていた。その陰影は作品の世界観に奥行を与え、観客の記憶には鮮烈な彩りをも残した。 |
-本年度最も心に残った女優を表彰-
尾野真千子
『茜色に焼かれる』『明日の食卓』『ヤクザと家族 The Family』『心の傷を癒すということ 劇場版』
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『茜色に焼かれる』において、理不尽な現実を怒りとともに飲み込みながら、愛と未来のために戦い続ける母親を、緩急の巧みさと気迫ある演技で見事に表現した。全身全霊を投じ生き抜くさまを、鮮烈にスクリーンへ焼きつけた。 |
有村架純
『花束みたいな恋をした』『映画 太陽の子』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』
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『花束みたいな恋をした』において、生活のなかにある会話や沈黙、表情、仕草を細やかに表現し、「八谷絹」という一人の女性に命を吹き込んだ。役柄への深い洞察に基づいた体温を感じさせるような演技は、観客を物語に惹きこむ大きな原動力となった。 |
-本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰-
藤元明緒監督
『海辺の彼女たち』
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凍てつく漁港のどんよりとした空の色と吹きすさぶ風音が観客の身に染みるのは、不法労働を強いられる彼女らの視点に立ち、高い倫理観と問題意識によって創られていることに他ならず、国際問題に真正面から挑む創作姿勢が素晴らしい。 |
松本壮史監督
『サマーフィルムにのって』『青葉家のテーブル』
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『サマーフィルムにのって』において、映画製作に取り組む個性的な高校生たちのひと夏を、SF、ラブコメ、時代劇、友情ドラマなど目が離せない展開により潔いラストまで一気に見せ、映画の可能性と楽しさを明示して観客を魅了した。 |
-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰-
藤原季節
『のさりの島』『佐々木、イン、マイマイン』『空白』『くれなずめ』『明日の食卓』
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『のさりの島』において、悪事に手を染めながらも、本当の孫のように接する老婆に対して生来の優しさを滲ませる青年を繊細に表現した。単純に良し悪しを決められない深みのある人物像を魅力的に創り上げることに秀でていて、ますます目を離せない。 |
金子大地
『サマーフィルムにのって』『猿楽町で会いましょう』『先生、私の隣に座っていただけませんか?』『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』
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混じり気のないストレートな感情を熱く演じる一方で、複雑な感情のゆらぎといった言葉だけでは表しきれない心の機微をも体現した。その多彩な表現力は作品をより一層魅力的にし、末永く俳優として愛されていくことを確信させる。 |
-本年度最も飛躍した女優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰-
三浦透子
『ドライブ・マイ・カー』『椿の庭』『おらおらでひとりいぐも』『アイヌモシリ』
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『ドライブ・マイ・カー』において、心地よいなめらかな運転同様に相手の心を柔らかく受け止められる女性ドライバーを、感情を表に出さない抑えた演技で体現し、彼女の発する言葉の一つ一つが観客の心のなかで反響した。 |
伊藤万理華
『サマーフィルムにのって』『息をするように』
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『サマーフィルムにのって』において、表情がクルクル変化するかと思えば女子高生のダルさを醸し出し、極めつけはキレキレの殺陣で潔さを表した。我武者羅に役に入り込む伊藤万理華ならではの情熱で、今後どんな表現をするのか楽しみでならない。 |