TAMA映画賞授賞式として、4年ぶりに戻ってきたパルテノン多摩大ホール。ホールの内装も一新され、胸章、Tシャツ、トートバッグなど映画祭オリジナルグッズを販売する物販コーナーに長蛇の列ができ、華やかに彩られた会場がにぎわいました。授賞式には、深田晃司監督、吉野耕平監督、佐藤二朗さん、松坂桃李さん、倍賞千恵子さん、広瀬すずさん、宮本信子さん、狩山俊輔監督、小林啓一監督、久保和明プロデューサー(磯村勇斗さん代理)、横浜流星さん、河合優実さん、伊東蒼さん、片山慎三監督、森井勇佑監督がご登壇。芦田愛菜さんがビデオメッセージで参加されました。
第14回TAMA映画賞授賞式を受賞者コメントから振り返ります。トップバッターは最優秀新進男優賞の横浜流星さん。受賞作『流浪の月』について、「更紗(広瀬すずさん)と文(松坂桃李さん)に影響を与えないといけないし、観ている方にも嫌悪感を与えないといけない役でとても挑戦的だったんですが、撮影中は悩みながらも監督を信じてなんとか乗り越えられた気がします」と語り、更に「来年、7年のお付き合いになる藤井道人監督の『ヴィレッジ』と『春に散る』(瀬々敬久監督)の公開が控えていて、いずれも挑戦的な作品なのでたくさんの方に届けばいいなと思っています」と今後を見据えていらっしゃいました。お忙しいなか時間を作ってご登壇いただき、受賞コメントを述べられた後、すぐにまた撮影現場へと向かわれました。
お二人目の磯村勇斗さんは授賞式直前に体調を崩され、受賞作『ビリーバーズ』の久保和明プロデューサーが代理でご登壇され、「磯村さんはこの受賞を『ビリーバーズ』に関わったみんなで獲った賞だと喜んでいました」と代弁してくださりました。
最優秀新進監督賞では、『こちらあみ子』で受賞された森井勇佑監督は、「自分のなかの<あみ子像>を主演の大沢一菜が超えてきたところがあったので、それをできるだけ削がないように大沢さんの魅力をそのまま伝えられるように思いながら撮影しました」と、あみ子を演じた大沢一菜さんを称賛されていました。
『さがす』で受賞された片山慎三監督は、「高校生の時に父親が阪急電車の中で指名手配犯を見たという話を始め、その犯人が捕まって足取りを調べたら本当にその電車に乗っていたことがわかり、それが本作の着想につながった」と、作品創作の経緯を語ってくださりました。
最優秀新進女優賞の伊東蒼さんは、大阪の出身。受賞作『さがす』について、「ここまで長く関西弁でお芝居をしたのは初めて。台本を読んだときから楓ちゃんを身近に感じることが出来て、大阪の街並みで撮影出来たのはすごく楽しかったです」と、撮影当時の様子を話してくださりました。
河合優実さんは「『PLAN 75』で倍賞さんにいただいた言葉を思い出しています。私がオールアップする時に倍賞さんが「頑張っていれば、誰かが見てくれているからね」と言ってハグしてお別れしてくださって、映画祭で賞をいただくこということは目の前にあることを楽しんでまっすぐ取り組んだ結果、皆さんの思いがこういう賞という形で私のもとに届くのかなと思います」と感謝の言葉を述べられました。
特別賞では、『恋は光』の小林啓一監督は、SNSなどで本作を支持した方々による通称“チーム恋は光”の影響について質問されて、「ご覧になった方の反応がすぐに反映されるようになった。ちゃんと物を作っていけば(観客の方が)応えてくれるとわかったので、本当に一生懸命作って良かったなと思っています」と、にこやかに答えられました。
『メタモルフォーゼの縁側』では、宮本信子さんと狩山監督が受賞コメントを述べられたところで、サプライズで芦田愛菜さんから宮本さん、狩山監督にお祝いを伝えるビデオメッセージが投影されました。宮本さんは、「以前(『阪急電車』)は、祖母と孫という役柄で、私が幼い芦田さんの手を引いて歩いていましたが、10年経ち本当に素敵な女性になられていました。うららさん役が芦田さんで本当によかったなと思います。歳の差はありますがプロ同士なので、初日に一生懸命頑張りましょうと言い合いました」と、芦田さんを称賛されていました。
最優秀男優賞では、松坂桃李さんが「舞台袖で佐藤二朗さんが「俺がしゃべりやすいように場を柔らかくしろ」と言われて、しゃべることを考えていたんですけど、今何をしゃべっていいか分からなくなってしまいました(笑)」と話されると、舞台袖から佐藤さんが「バラすなよ、桃李!」と叫んで、会場が一気になごみました。「チャップリンは「あなたのベストアクトは何ですか?」という質問に対して「NEXT ONE」。僕のベストは常に次だと答えています。まだまだチャップリンには遠く及ばないのですが、『流浪の月』は間違いなく僕のなかでのベストだと思っています」と述べて、客席から大きな拍手を浴びました。
佐藤二朗さんは「31歳から映像の世界に入って今年で22年目ですが、俳優として唯一もらった賞は<NG大賞>です。今回はじめて褒められた感じがします。よくバイプレーヤーと言いますが、そういった俳優がこういう賞をいただくということは、たくさんの俳優、もしかするとたくさんの見ている方、そして言うに及ばず、僕自身の励みになります。……今日、11月26日。<いい二朗の日>」と言うと、割れんばかりの拍手が巻き起こりました。アクリル板の間に入っての片山慎三監督、伊東蒼さんとのトークでは、娘役の伊東さんに優しいお父さんぶり(?)を発揮されていました。
最優秀女優賞では、広瀬すずさんが、「自分のなかでは凄い苦しい撮影だったのですが、今こうして、『流浪の月』という作品が多くの方に届いていたんだなと思うし、本当に踏ん張って良かったと思っています」と喜びを語られました。その後、共演された松坂桃李さんと並んで、李相日監督の張りつめた緊張感のある撮影現場のお話になり、お互いに支えあった信頼関係が垣間見えるトークになりました。
倍賞千恵子さんは、「トロフィーが大好きな黄色で結構重たいです。こんなにたくさんの方の前で、こんな立派な賞をいただいて、本当に舞台袖でドキドキしながら待っておりました。『PLAN 75』という映画で素晴らしいスタッフの皆様と一緒に『PLAN 75』という山を登れたことを、本当に光栄に思っております」と喜びを語られました。祝福に駆け付けた『PLAN 75』の早川千絵監督、共演された河合優実さんとのトークでは、早川監督、河合さんの倍賞さんに対するリスペクトの大きさが手に取るようにわかり、心温まるトークとなりました。
最後の受賞は最優秀作品賞。『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督は、「この作品はエンドロールが非常に長くなっています。なぜなら、映画1作と(作中の)アニメ2作分のスタッフが関わっているからです。まさにキャスト・スタッフ、これらすべてに対しての勝負です。これで作品賞を頂けたことは、すごく光栄でうれしく思っています」と、喜びを語られました。
『LOVE LIFE』の深田晃司監督は、作品に関わったスタッフ・俳優さん、及び「LOVE LIFE」という楽曲からこの映画を作ることを許諾してくださった矢野顕子さんへの感謝を述べられた後、「今でも自主映画を作っているような感覚で映画を作っているので、こつこつと精進して映画を作り続けたいです」と今後の抱負を述べて締めくくられました。
楽しかった時間もあっという間に終わり、緞帳がいったん降りた後、記念撮影の席の並びになり、受賞者一人ひとりがカーテンコールで登場して客席からの大きな拍手に。ご登壇者、観客、スタッフの映画愛に包まれて、暖かい雰囲気を共有できて幸せでした。授賞式終了後、ホール内ではご登壇者全員のサインが入ったポスターの写真を撮る方がひっきりなく訪れ、そして会場を出ると、名物のイルミネーションが。お客様は夢見心地で会場を後にしている様子でした。
-本年度最も活力溢れる作品の監督、及びスタッフ・キャストに対し表彰-
『LOVE LIFE』
深田晃司監督、及びスタッフ・キャスト一同
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平和な日常が一転し、深い哀しみやばかばかしいほどの虚しさに覆われたヒロインが、深層にあった愛を選び、踏み出していくさまは人生の本質を映し出していた。映像と楽曲を重奏させた「LOVE LIFE」に拍手を贈りたい。 |
『ハケンアニメ!』
吉野耕平監督、及びスタッフ・キャスト一同
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好きを原動力に「誰かの胸に刺され」と強い想いで邁進する登場人物たちと、この映画製作に関わったすべての人々の情熱がリンクし、主人公と同じように生きる私たちに大きな共感と明日への希望を見せてくれた。 |
-映画ファンを魅了した事象に対し表彰-
年齢差を超えた二人の友情を越えた関係が、前に踏み出せないでいる私たちの背中を押してくれた『メタモルフォーゼの縁側』に対して
芦田愛菜、宮本信子、及びスタッフ・キャスト一同
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芦田愛菜さん演じるうららの内に秘めた「好き」と宮本信子さん演じる雪のまっすぐな「好き」が響きあって前に進む姿が、縁側のひだまりのような温もりを感じさせると共に、自分らしく自由に生きることの大切さと喜びを教えてくれた。 |
“恋とは何か?”という哲学的なテーマを扱いながら作品世界を何度も体験したくなる多幸感に浸れる『恋は光』に対して
小林啓一監督、及びスタッフ・キャスト一同
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恋における心の揺れ動きを可視化及び言語化した独自のファンタジー世界を構築し、趣きのあるロケーションや魅力的なキャラクターを活かしてみずみずしく表現することで、恋愛映画の枠組みを越えた魅惑の作品を誕生させた。 |
-本年度最も心に残った男優を表彰-
佐藤二朗
『さがす』『truth 姦しき弔いの果て』『バイオレンスアクション』
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『さがす』において、堕落した生活困窮者、妻思いの夫、冷血な犯罪加担者といった多面性のある父親役を多彩で濃淡をつけた演技は、観客を震撼させると共に感動にまで導き、役者としての凄みを見せてくれた。 |
松坂桃李
『流浪の月』
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文という人間が抱え続けた繊細な感情の機微を零すことなく丁寧に演じた。役を存在させる温度感が絶妙で、長い年月をかけた愛の灯を静かに的確に表現し、観客を物語へ引き込んだ。 |
-本年度最も心に残った女優を表彰-
倍賞千恵子
『PLAN 75』
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長寿が祝福されない世相においても日々の暮らしを大切に営み、根源的に持つ「生」の力が何より優先することを示してくれた。生き抜くことを訴えかける目の力と陽に照らされた凛とした佇まいの残像が頭から離れなかった。 |
広瀬すず
『流浪の月』
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過去の傷を背負い生きてきた主人公・更紗が、愛する人との再会によって抑圧から解放され、少女期のように溌剌と息づく様は、燃え立つ愛の炎のように静かな美しさを放っていた。 |
-本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰-
片山慎三監督
『さがす』
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観客がどこに連れていかれるのか予想だにしない展開のなかで命の尊厳や家族愛を描く構成力と、衝撃的なシーンのみならず心に残るカットを織り込みながら市井の男を狂気の沙汰に追い詰める演出力が絶妙に調和した。 |
森井勇佑監督
『こちらあみ子』
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常識に染まる前のピュアな心を持ち、自由闊達なあみ子の視点を通して、不条理な出来事を達観して描く世界観が秀逸だった。他者に届かぬ思い「応答せよ、応答せよ、こちらあみ子」の明るい声が観る者の胸の内で響いた。 |
-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰-
磯村勇斗
『ビリーバーズ』『PLAN 75』『異動辞令は音楽隊!』『さかなのこ』『前科者』『彼女が好きなものは』『ホリック xxxHOLiC』『劇場版 きのう何食べた?』『MIRRORLIAR FILMS Season3』
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どの役柄でも演技以上の工夫を凝らした見せ方で、存在感のあるキャラクターを造形していた。『ビリーバーズ』では欲望との葛藤や内なる狂気を表現し、人間の振り切れるほどの幅を演じ分けられる俳優としての力量を見せてくれた。 |
横浜流星
『流浪の月』『アキラとあきら』『嘘喰い』『あなたの番です 劇場版』『DIVOC-12』
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『流浪の月』において、恋人の心が離れていると悟ったときの豹変した姿に、抱えていた孤独や愛への渇望から生じた心の闇の深さがずしりと伝わり、俳優として底知れぬスケールを感じさせた。 |
-本年度最も飛躍した女優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰-
河合優実
『PLAN 75』『愛なのに』『ちょっと思い出しただけ』『女子高生に殺されたい』『百花』『冬薔薇』『偽りのないhappy end』
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さまざまな役柄で物語を動かす印象的な役作りを行い、洞察力・想像力に裏打ちされたメッセージを籠めた視線が観客の心を射抜いた。多様化し、変容する社会において、発信力のある稀有な役者として輝き続けることを期待したい。 |
伊東蒼
『さがす』『恋は光』『MIRRORLIAR FILMS Season4』
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『さがす』において、突然の親の失踪により孤独と不安に苛まれながら、思慮深さや健気さを失わず果敢に父の真実をさがし求める姿は、観客の心を掴んだ。難役を見事にこなした研ぎ澄まされた感性は今後更に光り輝くだろう。 |