第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM
独自のエロティックな美学に貫かれた怪奇幻想世界を作り上げるベルトラン・マンディコ監督の特集上映。短編集『ホルモン』、最新作『アポカリプス・アフター』、初長編『ワイルド・ボーイズ』を一挙上映。トークには、マンディコ監督と出演者のエリナ・レーヴェンソンさんが登壇。司会は文筆家の五所純子さん、通訳は人見有羽子さんです。
マンディコ監督作品には、性的な器官のモチーフがよく表れています。「ジェンダーの境界を越えていく上で、性的器官が性の象徴であるという意味を薄くしていくのではなく、逆にその意味を過剰にしていくことで、ジェンダーの境界を突破していくような力がある」という五所さんの感想に対して、監督は「私自身境界というものは好きでありません」と述べ、男性性と女性性の間を行ったり来たりし、性的な器官を自然の中で表象することで単なる美術セットをセクシュアルなものにして、コラージュによって文脈を生み出すという独自の制作の発想についてお話されました。また監督が目指しているのは単なる奇形的なものではなく<新しいエロティシズム>であるとのこと。それは、機械的で反復的なポルノグラフィーに対して、ステレオタイプから解放されたもっとぎょっとさせるようなエロティシズムであると述べられました。
演じる女性像についての質問で、ハル・ハートリー監督作品ではノーブルな女性を演じていたエリナさんは、「若い頃は美しさというイメージに囚われがちなのですが、それから年を重ねてそこから自分を解放しようという気持ちになった」と述べられました。マンディコ監督作品のエリナさんは、ハル・ハートリー監督作品におけるかわいさとは異なる解放的で妖艶な魅力に溢れています。
異形なものを導入する点で共通点があり自身も影響を受けたという寺山修司について、マンディコ監督は、寺山を1970年代のカルメロ・ベーネやヴェルナー・シュレーター、ジャック・スミス、ケネス・アンガーといったシネアストの系列にあると位置づけ、「彼らは映画というものが単なるインダストリー(産業)ではなく、アートなんだという模範を示してきた人たちです」とコメント。実験的な作品を作ってきた映画作家たちに敬愛しつつ、同時にストーリー性も大事にして観客に観てもらえる作品を作りたいと述べていました。
デジタルトリックを使わずフィルム撮影をするこだわりについては、「フィルムを使うとスタッフ・キャストがとても集中します。キャストは<俳優>という意味でのアクターではなく、<参加者>という意味でのアクターになります。ある錬金術の儀式のようなものが生まれるのでフィルム撮影には魔法があると思います」とマンディコ監督。エリナさんからは、マンディコ監督作品の撮影現場について「監督が自分でカメラを覗くことで、監督と役者の間にダイアローグが生まれている」、「同時録音はせず、カメラの前で俳優が演技をしているときに監督がダメ出しをできることでダイレクトな交流が生まれます」という発言があり、ユニークな撮影現場の様子が垣間見えました。
その他客席からの質問では、澁澤龍彦やマルコ・フェレーリ、ウィリアム・バロウズに因んだ質問があり、知的な熱気に包まれたとても興味深いトークとなりました。
【C-3】異形の饗宴‐ベルトラン・マンディコ監督特集 ―日仏映画交流― | 第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM