第30回映画祭TAMA CINEMA FORUM
ある町の老医師・三雲八春(柳永)は、院長を甥の伍助に譲って1年目。本日休診の札を掲げて、院長を始め看護婦たちを慰安旅行に出してやった。そんな彼のもとに、次から次へと突飛な事件が舞い込んでくる。
井伏鱒二の同名小説と「遥拝隊長」の2つの短編をもとに、『わが恋は花の如く』の斎藤良輔がシナリオを書いた風俗喜劇。三國連太郎が演じた、戦地で頭に負傷したことから発作的に軍隊時代に逆戻りする青年の姿は、観るものに強い印象を残す。監督の渋谷実は、松竹で成瀬巳喜男らの助監督を務め、戦後、獅子文六原作の『自由学校』(1951年)で監督としての地位を確立、『現代人』(52年)でも知られる。ドライな感覚に鋭い風刺を盛り込んだ作風は、この群像喜劇にも存分に活かされている。主な出演者は、柳永二郎、『母化粧』の増田順二、鶴田浩二、淡島千景、佐田啓二、角梨枝子、三國連太郎、岸恵子などの他に、田村秋子、中村伸郎、十朱久雄、長岡輝子、多々良純などの新劇陣や新派の市川紅梅などが加わっている。(にっしぃ)
新宿でストリッパー斡旋所を経営する金沢(森繁)と竜子(中村)。ふとしたきっかけでそこを出て旅回りをすることになったダンサー・笠子(倍賞)と、彼女を支えようとする自転車修理工・照夫(河原崎)は改造した自動車で南へ向かう。
ヒモだった男のせいで旅に出る決意をした女が、今度は自分の方が男を上手く食い物にしようとするが、別れるタイミングになって相手の深い愛情に気づいて思い直す――ここで終わればハッピーエンドのはずが、さらにひとひねりが加えられて人生のほろ苦さを感じさせられました。途中で出てくる「99のウソと1つの真が許せる場合もあれば、99の真実を語っても、たった1つのウソが許せない場合もある」というセリフが刺さります。
監督の森崎東さんは今年の7月に逝去されました。『男はつらいよ』や『時代屋の女房』などの人情喜劇を手掛けられ、2013年にキネマ旬報日本映画ベストテンで第1位になった『ペコロスの母に会いに行く』はTAMA映画フォーラムの特別上映会でも上映させていただきました。(永)