第31回映画祭TAMA CINEMA FORUM

プログラムレポート

【B-4】プレヴュー「"L/R15" 今泉力哉×城定秀夫」『猫は逃げた』

11/14[日] ヴィータホール

今泉力哉監督と城定秀夫監督がお互いの脚本を映画化するというプロジェクトが発表されてから数ヶ月後、2022年春の劇場公開前に本映画祭(2021年11月14日)にて世界初上映されるとあって、いち早くチケットが完売したプログラム。2009年の第10回TAMA NEW WAVEコンペティションで、グランプリを受賞して以来、何度もTAMA映画祭にお越しいただいている今泉監督と、『アルプススタンドのはしのほう』で昨年、第12回TAMA映画賞特別賞を受賞、上映プログラム〝鬼才の狂宴 いまおかしんじ監督×城定秀夫監督〟のトークにご登壇いただいた城定監督をゲストにお迎えし、映画評論家の森直人さんを聞き手として、このプロジェクトのスタートから今回の世界初上映までの流れと裏話などを伺いました。本作品の主題歌を担当したミュージシャン、LIGHTERSの皆さんによる「don’t cry」のミニライブも行い、映画の余韻に浸る貴重なひと時となりました。

【B-3】プレヴュー「"L/R15" 城定秀夫×今泉力哉」『愛なのに』のプログラムで行われたトークに続き、再度ご登場いただいた今泉監督と城定監督。そして、再び聞き手の森さんの「おもしろい!」ひと言から始まり、「アガペーからエロース」の台詞について質問が投げかけられると場内には笑いが…。これは、登場人物の映画監督の台詞で、城定監督の脚本にあったワードを今泉監督がかなり付け足したことを明かし、試写会で観た城定監督も、そのシーンには思わず笑ってしまったとのこと。

続いて森さんから、なぜ猫の話を書いたのかとの問いに対し、城定監督は、ご自身が猫を飼っていて、猫と夫婦の話は実感があったこと、谷崎潤一郎の「猫と庄造と二人のをんな」と自分の思い出とミックスさせたと解説したのに対し、森さんは、内田百閒の「ノラや」の世界を感じたと返すと、そうかもしれないと城定監督。猫好きにはたまらない脚本づくりのきっかけも語られました。

脚本を読んだ今泉監督は、「ここで猫が叫ぶ」とか、「ここで駆け出す」と書かれていて、「これはちょっと…」と文章を消すしぐさを見せ、会場から笑いが起こっていました。また、前のプログラムで上映された、『愛なのに』は、自分で撮らないから好きに(脚本を)書けたり、城定さんが撮ってくれるなら、という甘えもあったりしたと打ち明けました。

『猫は逃げた』も両監督の良さがブレンドされていると感じた森さんから、今泉監督に寄せたのかと問われた城定監督は、今泉作品を研究していたので…と話すと、今泉監督も最初に読んだとき、自分のテイストがあると感じたと笑いながらおっしゃっていました。また、最後の4人の会話のシーンもかなり長く書いたけれども、完成したものを観たら、さらに長くなっていたそうです。

キャストについては、オーディションとオファーが混ざっていて、山本奈衣瑠さんに出会えたことは、この作品にとって大きかったことや毎熊克也さん、手島実優さん、井之脇海さんとご一緒できてよかったこと。そして、オズワルドの伊藤俊介さんに関しては、自分(今泉監督)から名前を挙げてダメ元で当たってもらったら、OKの返事をもらい、撮影後にABCお笑いグランプリでオズワルドがグランプリを取ったタイミングで、他のキャストの発表もしていないのに、「今日、情報解禁しましょう!」と先走ったメールをプロデューサーに送ったという笑い話も披露していました。

『愛なのに』は結婚前、『猫は逃げた』は結婚後の話で、お互いに意識していたのかどうかというと、特に擦り合わせてはいなかったとのこと。城定監督は今泉ワールドに寄せつつ、娯楽映画としての構成に今泉テイストを加えたらどうだろうと脚本を書くときに考えたと解説。回想シーンやカラオケの選曲、作品の中で用いられたアイテムのお話も興味深く、製作時の過程が垣間見え、ラブシーン、ベッドシーンに関しても、二作品の違いについてお互いに感じたことを試写会後に話し、今泉監督は、今後、機会があれば、撮り方をもっと勉強していきたいと思ったそうです。

城定監督は、きちんと今泉映画になっていて嬉しかったこと、今泉監督はある種、憧れの監督だったので、勉強した甲斐があったとおっしゃると、今泉監督は自分なら照れて省略してしまうところも描くことがこの作品には必要だったことや終盤の温かさのようなものは、完全に自分のものとは異なり、城定監督の映画っぽいところで、それをやるのがとても楽しかったと語っていました。森さんも、終盤4人の会話からラストシーンに向かうところは今泉監督の描く世界から城定監督の描く世界へと繋がっているのがとてもナチュラルに描かれていて、お二人の相性の良さを感じたとおっしゃっていました。

今泉監督は、どちらの作品も一人の中にいろんな面を持たせて、どちらの作品にも似たような人たちが登場し、結婚や離婚について常識に囚われないようなことをやりたいと思っていたところも、城定監督の脚本とリンクしていて違和感なく、キャスティングについても関連性を感じさせるお話をしていました。また、山本さんの撮影時の奇跡的な出来事もたいへん興味深く、劇場公開されたら改めて山本さんの演技を観たくなりました。

トークのあとには、プライベートでいらっしゃった手島実優さんが登場。ロケ地近くで開催されるTAMA映画祭で、お客様がご覧になる初上映の場に来てみたかったと、お仕事の合間をぬって、ご挨拶してくださいました。そして、こちらのプログラムでも、『猫は逃げた』の主題歌を担当したミュージシャン、LIGHTERSの皆さんによる、「don't cry」のミニライブが行われ、ロケに使われた会場近くの多摩川の河原を歩く4人の姿が浮かんでくるような温かな空気に包まれました。

ご登壇いただいた、城定秀夫監督、今泉力哉監督、聞き手の森直人さん、LIGHTERSの皆さんをはじめ、本プログラムに関わってくださった関係者の皆様、そして、ご来場いただいたお客さまに心より感謝いたします。

※『猫は逃げた』劇場公開日 2022年3月18日
 『愛なのに』劇場公開日 2022年2月25日

※プログラムレポート:【B-3】プレヴュー「"L/R15" 城定秀夫×今泉力哉」『愛なのに』は、こちら

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