第31回映画祭TAMA CINEMA FORUM

プログラムレポート

【C-3】怪獣とヒーローと多摩の50年

11/13[土] ベルブホール

2021年は多摩市市制施行50周年。そしてウルトラマンシリーズ55周年、仮面ライダー50周年と、同じくアニバーサリーイヤーです。それを記念し、50年ほど前の多摩地域で撮影された特撮作品を特集上映しました。トークでは文筆家の切通理作氏、公益財団法人多摩市文化振興財団学芸員の橋場万里子氏、たまロケーションサービス副代表の鳥居俊平太氏に、作品や地域の歴史から現在までを解説して頂きました。

まず初めに上映したのは『ウルトラQ』第15話/「カネゴンの繭」(1966年)。切通氏の解説の通り時代を超えた面白さで、幅広い世代の集まった会場が沸き立ちました。鳥居氏は1976年、自らの学生時代に『ウルトラQ』の自主上映会をするのに円谷プロへフィルムを借りに行ったとのこと。そのときに「カネゴンの繭」も上映したそうで、今回の偶然の縁には我々企画者も驚きました。橋場氏の解説では、この作品に登場する荒野の高台の撮影地、当時多摩市聖ヶ丘に存在していた通称”アパッチ砦”の歴史が語られました。”アパッチ砦”は多摩ニュータウン開発途中の特異な景観ですが、公的記録では航空写真などがほとんどでした。なので地上からの、しかも動画で残されたこの作品は地域史的価値も高いとのこと。”アパッチ砦”の名前の由来について、作中に映るブルドーザーの「西武」の文字から、西武(西武鉄道)→西部→西部劇の”アパッチ砦”と名付けられた説が紹介されると会場からも感心の頷きがありました。

そして、次に上映した作品が『仮面ライダー対ショッカー』(1972年)です。上映前には、ロケ地研究者の「ロケ地大画報」yart先生による、作中のロケ地みどころ解説を実施。作中に登場する研究所は東京都市大学で当時実際に稼働していた原子炉で撮影されたなどの驚きの事実や、クライマックスの決戦シーンでは多摩市の桜ヶ丘配水所で撮影されたなど、たくさんの名シーンが多摩地域で撮影されたことを解説されました。

それを踏まえての上映は、作品をより近くに感じられました。切通氏によると封切り当時の上映では子供たちが主題歌を大合唱し、怪人と一緒に名前を叫ぶ興奮ぶりであったとのこと。今回の上映では劇場で観る特別感を高めたくて、あえて音量を少し大きめに調整させて頂きました。大画面での迫力あるシーンの連続は50年前の作品とは思えないほどで、まさに当時の興奮が蘇る劇場体験であったかと思います。

そして『ウルトラマン80』第5話/「まぼろしの街」(1980年)を上映。会場の隣駅である多摩センター駅で撮影された不思議な世界観や、ウルトラマン80の大きな飛び人形がワンカットで怪獣の周りを飛び回るシーンなど、初めから映画として作られているような完成度の高い特撮シーンを劇場で観れる貴重な機会でした。

『ウルトラファイト』(1970~1971年)傑作選の上映も貴重な機会となりました。上映作品は以下の通り。

・第77話 「セブン必殺の荒技!」
・第107話「地獄の三角切り」
・第134話「宇宙陰陽の構え」
・第136話「闇からのメロディー」
・第147話「宇宙卍」
・第165話「早過ぎた葬送曲」
・第183話「怪獣残酷物語」
・第188話「怪獣餓鬼道」
・第195話「激闘!三里の浜」
・第196話「怪獣死体置場」

多摩らしい作品を中心に、多くの怪獣が登場する回をセレクトしています。また、本作の制作担当、そして「怪獣死体置場」の監督をされた熊谷健氏は当映画祭の初代実行委員長でした。そうしたご縁もあり今回の上映が実現しております。大画面で展開される独特で摩訶不思議な世界観に会場からは笑い声やどよめきが起こり、謎の一体感を感じる上映となりました。スタジオ撮影からロケ撮影が中心となった当時の映画製作状況や、後半作品の敵も味方もないニューシネマの影響を受けた時代劇の要素などの切通氏の解説で、一見シュール過ぎる作品をより楽しく理解できるようになりました。

最後は鳥居氏が、近年の多摩市内でのロケ事例をウルトラシリーズを中心に解説を行いました。『ウルトラマンギンガ』(2013年)をきっかけに協力関係ができたとのこと。『ウルトラマンX』(2015年)における多摩センターのメインストリートでの大規模エキストラ撮影や、『ウルトラマンオーブ』(2016年)での一見同じ市内には見えないような牧場跡での撮影を紹介。近代的な街から草原まで幅広い場所があることがロケ地多摩の魅力ではないかと語られました。そして『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』(2021年)第17話「怒る饗宴」での市内撮影事例の紹介を行いましたが、なんとこの回は当上映会の当日に放送が行われたのでした。

多摩市が始まろうとしていた55年前に放送された『カネゴンの繭』から最新作まで、特撮と多摩の歴史の繋がりを感じるプログラムとなりました。地域で撮影された作品のロケ地を知ることで、元々大好きだった作品たちが更に楽しく観れるようになりました。当時世代の地域の方々を中心に幅広い世代の方々に来て頂きましたが、同じ想いを共有できたかと思います。怪獣もヒーローも、時代を超えてずっと僕らの側に居たのですから。

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