第31回映画祭TAMA CINEMA FORUM
岨手由貴子監督が「思い入れがすごくある作品で、おそらく『あのこは貴族』の最後のイベントになるので満席で本当にうれしい」と語り、山内マリコさんが「団地団のトークイベントでここ5年くらい毎年登壇しているTAMA映画祭で、原作者として関わった作品が一番いい賞をとるのは喜びしかない」と語るテンションの高い挨拶からスタート。聞き手に西森路代さんを迎え、3人のトークもどんどんと話が広がる楽しいものとなりました。
トークは「東京」の描き方から始まりました。山内さんは「今までは地方出身者からみた東京=山の手の西側(新宿、渋谷)を描いていたのですが、今作で支配階級や代々のお金持ちを取材すると、銀座や日本橋が生活圏になっていて、映画はオープニングがまさにそちらを撮っていたので『あ、そうそう、これが小説で描いていた東京!』と思いました」と、映画で描かれていた東京のイメージがぴったりだった様子。岨手監督は「今回は脚本に入る前から山内さんと密にやり取りさせていただけたので、その情報は反映させました」と、コミュニケーション効果についても言及していました。
次に、映画ならではの効果の例として山内さんは「原作では電車のシーンだったところが、映画だと車になっている」部分をあげ、「映画だと“女性が自分でハンドルを握る”という映像が自立した女性という意味を持たせられる、映像だからこそ生きてくる描写に変えてくれた部分がたくさんあり、本当に幸せな映像化でした」とべた褒め。
岨手監督の「山内さんが書かれているものをそのまま映画にするのではなく、映画というフィルターで濾過して別の形で映画化したので、セリフそのままではなくても“言わんとしているのはこういうことだよね”という映画化の仕方ができたと自負しています」という発言にも、山内さんは大きく同意をしていました。他にも華子と美紀のそれぞれの友達である平田と逸子についてや、高良健吾さん演じる幸一郎の原作と映画の描き方の違いなど、内容盛りだくさんでトークタイムは終了。
その後は、事前にSNSで募集した質問や実行委員から集めた質問によるQ&Aタイムを実施しました。こちらは打って変わって、試写を見た時の会話やキャスティングの話など裏話も飛び出ることに。ちなみに、山内さんは試写を見て「ボロ泣き」をして、斜め後ろにいた水原希子さんに「素晴らしかったよ!」というのを伝えたそうです。そんな中、岨手監督は「初号試写は原作者の反応がこわくて、私と西ヶ谷プロデューサーの方が泣きそうでした」と話し、笑いが起こっていました。
また、キャスティングについても、「華子については絶対門脇さんがいいと決めていたんです。(観客が)感情移入がしづらいシーンから始まるのでついていけなくなっちゃうと困るので、頼りになる俳優がいいと思っていました」等具体的なお話が出てきました。他にもある映画オリジナルのセリフの解説やおすすめのシスターフッド映画の話など多岐にわたる質問に回答いただき、充実したトークとなりました。
今後描きたいテーマとして、岨手監督は「ママ友」、山内さんは「ポルノ」、聞き手の西森さんは「女芸人」と、3人それぞれが「描き切れていない女性」のジャンルをあげていたのも興味深く、今後の3人の活躍もますます気になるものとなりました。